7.
 
              精神的労と、肉体疲労が一気に襲ってきて、眠り込んでいたらしい。
 
              それでも食べ物の匂いにつられて起きちゃう辺り、自分の卑しさにあっぱれだね。
 
              「…お腹すいた…」
 
              くるまってた布団をそろそろ下げて、誘惑に鼻先を出すとトレー片手に立っている
 
              近衛氏と目があった。
 
              「起きられる?」
 
              Tシャツにジーンズ…初めて見ちゃったよ、若いお兄ちゃんみたいな格好。
 
              いやまあ、25は若い内に入るんだろうけどさ、この人いっつもスーツ姿で老けて
 
              るもんだから忘れてた。
 
              寝起きのちょっと乱れた感じの髪も、セットされてる堅苦しさがなくて、いいんじ
 
              ゃない?いつもそんな感じにしてれば、悪魔イメージも少しは和らぐのに。
 
              「見とれてるの?」
 
              ぼーっと見上げてた自分に気づいたのは、その得意げなセリフで。
    
              あいっかわらず自惚れが強いんだから。
 
              「違う、着る物がなくて起きれないだけ」
 
              ふくれっ面で言うのは、脱がした本人がご丁寧にもパジャマ諸々をソファーに運ん
 
              でくれちゃってたから。
 
              立たなきゃいけないのに、こいつがいたんじゃベッドから出られないのよ。
 
              「今更でしょ。見てるのは僕だけだよ」
 
              この場合、枕元までお着替え一式をデリバリーして、その後は部屋を退出するのが
 
              紳士ってもんじゃないでしょうか?
 
              さっさとベッドに腰を下ろして、人の膝の上にトレーをセットした行動から見ても、
 
              近衛氏があたしに着替えをさせないつもりなのは一目瞭然。
 
              楽しいか?こんな嫌がらせが、あんたの秀麗な顔を意地悪く歪ませるほど楽しいの
 
              か?!
     
              「…着替えをされちゃ困るわけでもあるんで?」
 
              湯気立ち上るフレンチトーストの誘惑に、全身で抵抗しながら睨みつけると、近衛
 
              氏は笑った。
 
              「ただの嫌がらせ。早希こそ下世話な勘ぐりはやめないと、また襲って欲しいみた
 
               いだよ」
 
              「誰が!ってかあたしがいじめられるいわれはない!」
 
              理解できないね、人の意見無視して強硬にコトに及んだくせして、まだ不満?まだ
 
              いじめ足りないの?
 
              なのに、あたしの叫びにギラリと目を光らせた悪魔は、低ーい声でおっしゃるわけ
 
              だ。
 
              「人の優しさを、男としての本能の欠落みたいに言ったこと、忘れた?」
 
              うーわーぁ、しつこく覚えてるなぁ。粘着質な男は嫌われるんだぞぉ。
 
              「…さっきのでチャラじゃないの?」
 
              伺い見ればにこりともせずにきっぱり首を振る。
 
              「まさかあれだけで証明できたとは思えないね。理解力の乏しい早希には一生かけ
 
               て実証しないと」
 
              随分長い道のりじゃないの…うっかりさんの一言は贖罪に一生かかるほど重かった
 
              ですかね?
 
              「もういいや、とにかくお腹すいたし」
 
              反論の気力が湧かないのは、きっと空腹が邪魔をしてるに違いない。
 
              だったら力を蓄えないとね、冷めたフレンチトーストはまずいに違いないんだから
 
              それがいい、うん。
 
              一方的に会話を放棄して、フォークを口に運んだ近衛氏が呟いたのはその直後。
 
              「取り敢えず子供を作ろう。それまでには早希の誤解も大分解けてると思うよ」
 
              気管に流し込んじゃった食べ物に、大きくむせた。
 
              昼日中から女子高生とする話なの?淫行罪で捕まるよ!
 
              それより、あんた食事も取らせないつもりかぁ!
 
              未だいじめ足りなそうな微笑みに、人生の無情を感じたのはどうしてなんでしょう?
 
 
BACK  NOVELTOP     NEXT…
 
 
 
                  短!息抜きのお話しで…。    
                  どうやっても甘いムードにはならんのだな、この人達は。
 
 
 
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送