23.
 
              「ただいま、早希」
 
              リビングでお菓子抱えてテレビ鑑賞していた天頂部にキスが一つ。
 
              「………お疲れ」
 
              憮然と返答したあたしに間違いはない。
 
              恐怖の大王、怒れる天使、悪鬼の面を着けた夜叉。
 
              こんだけブラックな定冠詞を持つ奴がだよ、極上びゅでぃふぉーすまいるでお帰り
 
              になったら元々悪かった機嫌が120%増しになるって。
 
              はち切れんばかりの笑顔の裏に『計算通り!』って書いてあるんだもんさ。
 
              「歌織さんに顛末聞いたわね?」
 
              暗澹とした声もなんのその、テーブルに用意された煮物なんか摘みながら魔王様は
 
              仰った。
 
              「きっちり虫除けしてくれたみたいだね。最近僕より帰りの遅かった君が、お出迎
 
               えまでしてくれるのは嬉しい誤算だけど」
 
              「嘘つくんじゃありません!あんたの計画に誤算なんてものがあるはず無い。全部
 
               仕組んだに決まってる!!」
 
              歌織さんと先輩がおかしな関係になるのも、準備どころじゃなくなったあたしが逃
 
              げ出すのも近衛氏の罠よ、罠!!
 
              「いやだなぁ、いつからそんなに疑い深い子になっちゃったの、早希は」
 
              「誰かさんと会ったせいでしょー!!」
 
              あ、ここエコーかけてといてね。情感たっぷりに、軽く10秒ほど。
 
              ともあれ勢い余って立ち上がっちゃったから、ついでに2,3歩踏み出して魔王様
 
              のネクタイをむんずと掴んでみた。
 
              段違いだった視線がきっちりがっちり合うように。
 
              「いーい?学校ってとこはね、お勉強するとこなの。平和に心休まるセンセの講義
 
               聞いて」
 
              「うん、休まりすぎて話が通り抜けるから、早希は数学ができないんだよね」
 
              「ほっとけ!」
 
              小憎らしいその口!噛みついてやろうかしら。
 
              「…赤点はともかく、あたしにとって学校は安寧をむさぼれる唯一の場所なのよ?」
 
              「彼が出現するまではそうだったかもね」
 
              ああ言えばこう言う…楽しそうに笑ってんじゃないっつーの。
 
              「先輩はあしらえるから大丈夫!」
 
              「そう、キスマーク着けられてくるのが最近はあしらうって表現に入るんだね」
 
              「いや、それはその…」
 
              ごにょごにょ…なんで責めてる方が旗色悪くなるの。
 
              「僕が助けに行かなきゃ、キスもされちゃうところだったよね?」
 
              「えー、ですからあれは…」
 
              「平和は隙だらけと同義語だと思わない?」
 
              「うっ…日本語は難しいです…」
 
              「理解できないなら体感する?」
 
              終始言葉に詰まりっぱなしの唇を、掠めるように奪った近衛氏がだめ押しを。
 
              「ほら、早希が気を抜くとすぐこうなるんだよ」
 
              「…相手が悪いんだぁ…」
 
              しくしく…。
 
              所詮無理な相談なんでしょうか?凡人が悪知恵に長けた悪魔と渡り合うのは。
 
              すっかり俯いて、世の無常を嘆いていたあたしを近衛氏は抱きしめて大笑い。
 
              どこまで不条理なんだ!こけにされた上、笑い者?不公平だよ、神様…。
 
              「ふふふ、早希の周りにはどうして癖のある人間ばかり集まるんだろうね」
 
              筆頭者に言われちゃ、他の人浮かばれない。
 
              「君が呼んじゃうのかな」
 
              「呼ぶか!」
 
              特にアンタは呼んでません!恨みを込めて向こうずねを蹴り上げようと思ったのに、
 
              物理攻撃さえあっさりかわして椅子に座り込むんだ、この人は。
 
              あたしを抱えるっておまけ付きで。
 
              「野放しにすると危険でしょうがないからね。かといって安全な女子校には転校し
 
               ないってだだをこねるし」
 
              少し困った表情で額を合わせてきた近衛氏は、火を噴く程赤くなったこっちは完全
 
              無視でお続けになる。
 
              「歌織は役に立ったでしょ?僕より過激な性格してるから」
 
              「…核弾頭並みでした…」
 
              先輩、負け負けでしたから。
 
              「あの手の男からかって遊ぶのが趣味なんだよ」
 
              「朝イチから、傍目も気にせず楽しんでらっしゃいました」
 
              騒動の種をまき散らしながら、ね。
 
              「早希の味方には違いないから、利用するといいよ」
 
              「ででで、できません!空恐ろしい!!」
 
              何て事言うんだこの人は!
 
              あたしは確信しちゃったんだぞ、近衛氏より強力な悪魔がいるって。
 
              至近距離の彼はちょっと考えると、それもそうかと納得してキスを落とす。
 
              「まあほっといても好きなだけ引っかき回すだろうから大丈夫。早希は安心して平
 
               和な学園生活を楽しむといいよ」
 
              限りなく無謀な注文で…。
 
              「学校にも悪魔、家にも悪魔。どの辺が心休まるんでしょうねぇ」
 
              吐息をつくと、おなじみになったはかりごと満載の笑顔が答えるんだ。
 
              「ゆっくりお風呂で休んだら?」
 
              「っ!!」
 
              危ない方向に進み始めてる!き、軌道修正大至急よ。
 
              「1人だとリラックスできる、から、ね?」
 
              引きつった顔で膝から飛び降りたら、一歩後退。
 
              ハンターな目つきから視線を逸らすことなく、安全圏までにじにじ。
 
              「でも僕もお風呂入りたいんだよ」
 
              「遠慮はいらないから!先に行っちゃって」
 
              1人バンザイ!って意味不明のジェスチャー着けたのに、運動神経も並じゃない近
 
              衛氏は小脇にあたしを補足してすったか階段上がるんだ。
 
              「光熱費の節約にもなるし、一緒に入ろうね」
 
              「いーやーじゃー!!!」
 
              金持ちが細かいこと気にするのやめようよ!!
 
 
 
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                  悪魔だらけ…。                     
                  可哀想だなぁ、早希(笑)。                    
 
 
 
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