22.
 
              悪事千里を走る…じゃなかった、突如現れた美人音楽教師は(特技のピアノは既に
 
              プロレベル)その日の内に学校中の話題を攫った。
 
              つーのもね、朝の先輩とのキスシーンを見てた誰かがご丁寧に噂を流してくれちゃ
 
              ったからで、親衛隊が騒ぐ騒ぐ。
 
              「純太に言いよるなんて許せない!」
 
              隊長握り拳。
 
              「純太くんが来るもの拒まずだからって、自分の年考えたらいいのにぃ」
 
              副隊長身もだえる。
 
              …て、五月蠅いよ!文句があるなら直接歌織さんと対決したらいいじゃないのさ。
 
              くそ忙しい学祭準備中のこの部屋で、喚くんじゃない。
 
              「近衛センセはここには居ませんよ」
 
              パンフレットの山と格闘しつつ、居眠りを決め込んでる先輩の替わりに睨め付けた
 
              らば、視線に殺されそうになった。
 
              怖い…異様なまでに殺気立ってるよ、この人たち。
 
              「わかってるから言ってるのよ!昼休みに抗議したらあの女、何て言ったと思う?!」
 
              えー、答えるのぉ?だいたい想像つくんだけどな、ほら血縁者に毎日言われてるか
 
              ら。
 
              「したければあなた方も遠慮せずどうぞ。相手にしてもらえれば、だけどね。…こ
 
               んな感じでどうでしょう?」
 
              渋々…の割には極上悪魔スマイルまでお付けしたら、殴られた。
 
              ぽかって軽い奴だけど、理不尽だな。うん。
 
              「一言一句違ってないわ、そうよ、その通り笑ったのよ!」
 
              「ついでに周囲の男子生徒にも抗議されたの『うざい』って」
 
              さすがだ、見習わねば。既に味方を作ってるとは。
 
              こっちは関心の上納得したってのに、お二方のお怒りは静まるどころか火に油。
 
              リアルな物まねが悪かったのか、思いあまってとうとう先輩に詰め寄ってるよ。
 
              「純太!あなたこの間まで風間さんに絡んでたんじゃなかった?」
 
              あ、それ忘れて欲しいなーなんて。
 
              「そうよぅ、この子ならともかくあの女相手じゃ私たちに勝ち目無いじゃない」
 
              …ビミョウに腹立つ発言だな、おい。
 
              「うるせぇよ。俺は早希ちゃん一筋だっての」
 
              椅子にふんぞり返ってたはずの先輩の腕がにょきにょき伸びて、あたしを捕獲しよ
 
              うとするけどそうはいくか!
 
              学習能力くらいあるんだぞ…たぶん。
 
              「いっやー、近衛センセの方が間違いなくお買い得ですよ」
 
              山と抱えたパンフを持って、スルリと逃げると戸口にダッシュ…できなかった。
 
              襟首を掴むんじゃない!猫じゃないんだから。
 
              「冗談だろ。俺は女狐相手にできるほど知力はねえよ」
 
              「そんなことはない!アンタの相手をしようと思ったらあのくらい強くないとダメ
 
               だって!」
 
              引っ張りついでに腕の中に収めようって魂胆から逃げるのは必死ですよ。
 
              こら、親衛隊。黙ってみてないで止めれ!
 
              「俺、弄ばれるより弄ぶ方が好きなのよ」
 
              綱引きにも似たこの状況、1人じゃいかんともし難くなって早希ちゃんピーンチ!
 
              近衛氏のお仕置きはやばいんだって、マジで。
 
              「あら、ダメよ。早希ちゃんで遊んでいいのは隆人くんだけなんだから」
 
              ひょいっと見かけと裏腹の怪力で救出されたのはそんな時。
 
              綺麗に微笑むそのかんばせ、正に救世主!
 
              実にいいタイミングじゃないの、さては戸口でことの成り行き見守ってたな。
 
              「「あーっ!!」」
 
              「あら、お嬢さん方。無駄な努力継続中?」
 
              悲鳴にも似た叫びを軽くあしらうと、背後にあたしを隠して歌織さんはしかめっ面
 
              の先輩に歩み寄った。
 
              距離30センチ、攻撃可能範囲に敵補足。
 
              「隠れるなんて男らしくないわよ。ずっと捜してたのに」
 
              しなだれかかって、そいでもいやらしくならないお姿に親衛隊が阿鼻叫喚。
 
              「やめろよ。アンタに追っかけられても嬉しくねえ」
 
              肩に置かれた手を振り払ってみたりして、らしくない先輩に応援多数。
 
              「そう?じゃもっと気合い入れて追い掛けないとね」
 
              いつの間にかギャラリー増殖。…ついてきたな、歌織さんの追っかけが。
 
              「嫌だっつってんの聞こえてる?」
 
              「うふふ、私嫌がられると燃えちゃうの」
 
              ………。いけない、絶句しちゃったわ。
 
              強力だなぁ、近衛氏より全然たち悪いや。むしろ彼が普通の人に見えてきた。兄ち
 
              ゃん達なんて善人だよ。
 
              綺麗なだけに凄みのある表情と、威厳ある立ち姿が混在するとえらいことになる。
 
              …この人だけは怒らせちゃなんない。
 
              「早希ちゃんの替わりに私がお相手してあげるから、いい加減ちょっかいかけるの
 
               やめてもらえないかしら?」
 
              大いに賛同したいご意見ではあるんですがね、先輩に降りかかる試練はあたしと同
 
              じものになるんだろうと想像すると素直に頷けない何かがある。
 
              「お断り。美人でおっかないのより、平凡でもかまいがいのある女の方が好きなの」
 
              だからってこっちにふるな!
 
              性悪を全面に押し出した不気味な表情で、なぁ?とか聞くんじゃない!
 
              どっちに転んだって被害を被る人間がいるんだからさ、安易に意見を述べられない
 
              じゃない。
 
              なのに、歌織さんは『早希ちゃんは私の味方よね?』って脅すし、先輩は『こっち
 
              こい』って手招きするし、親衛隊とギャラリーは正反対のこと叫んで攪乱するしで、
 
              冷や汗ダラダラ、パンフを持って右往左往なこの現状。
 
              …こりゃ、久しぶりにやるっきゃないわよね。
 
              逃走経路確認、手荷物確保、勝率80%。
 
              「後、よろしく!」
 
              勢いよく紙束放り出して、追っ手の足を止めならがらカバンを振り回して走る走る。
 
             「「「「逃げるな!!」」」」
 
             …ご冗談を。
 
 
 
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                  タイトルを間違えました。                
                  逃げ道じゃなくて、立ち止まってる、でしたね(笑)。        
 
 
 
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