21.
 
              「さーきーちゃん!!」
 
              「のあぁぁぁ!!!」
 
              出たっ!妖怪『のし掛かり』早朝の校門で、あまつさえその手は人の胸をって…
 
              「どこ触っとんじゃ、こらーっっ!!」
 
              鬼○郎の裏拳が顔面をヒット!憐れ妖怪は爽やかな空気の藻くずと消えたのでした。
 
              めでたしめでたし。
 
              「愛しのダーリンを殴り倒すなんて、早希ちゃんの愛情表現は過激なんだから」
 
              「誰がダーリンか!この腐れ外道が!!」
 
              懲りずにすり寄ってくる先輩を反則技(想像してね、うふ)で沈めた後、周囲の好
 
              奇の目も構わずあたしはひたすら校舎を目指す。
 
              昨日思い知ったのよ、この人にも近衛氏にも一切の手加減はいらないってね。
 
              2人揃えば手の打ちようもなくつけあがるんだから、単体の時に思いっきり潰して
 
              おかなくっちゃ。
 
              …魔王様は先輩ほど上手くあしらえないんだけど、まあそれはそれ。憂さはこっち
 
              で晴らすからいいの。
 
              しかし、放課後しか出没しなかった男が朝っぱらから顔見せるとは、近衛氏の忠告
 
              も的はずれじゃないってことね。
 
              『本気になっちゃったみたいだからね、気を抜いたらダメだよ?』
 
              出勤前にめいっぱい裏のある笑顔で仰ってたからねぇ…あれ、隙を見せたらお仕置
 
              きだよって聞こえたのは幻聴じゃないと思うの、マジで。
 
              やだやだ、敵ばっかだよ。学園生活くらいのんびり送りたいのにな。
 
              「さっきちゃーん!!」
 
              「うわぁぁぁ!!!」
 
              また?!誰よ今度は!声が女の人だけど…ちょっと待て、聞き覚えがあるよ、
 
              「かかかか、歌織さん!!」
 
              毎日拝んでる綺麗な顔とうり二つな微笑み、モデルも裸足で逃げ出すナイスバディ、
 
              上品でお嬢様な匂いがぷんぷんするくせにちっとも嫌みにならない美の女神。
 
              近衛家最凶のお姫様がなぜここにぃ!!
 
              「うふふ、隆人くんにケンカ売った強者がいるって言うから、見物に来ちゃった」
 
              来ちゃったってあなた…深紅のパンツスーツで、ですか?通学途中の生徒の目を釘
 
              付けにして、ですか?もしや校門にきらりと光る派手なスポーツカーで、ですかぁ?
 
              いたずらっ子のように目を輝かせたって、声をかけるのさえはばかられる雰囲気を
 
              かもしてたって、世の中には許されないこともあるんですよ。
 
              「残念ながら、学校は部外者立ち入り禁止なんですけど…」
 
              無駄だと思うよ、だけどほら一応ね、身内だからさ咎めないと。
 
              「あら、心配はいらないわ。今日から先生だから」
 
              すごい?っと胸を張った歌織さんに、目眩を感じたのは一瞬。
 
              常識で計っちゃいけないのよね、お金持ちはきっと想像もつかないやり方で我を通
 
              すモノなんだから。
 
              「質問、いいですか?」
 
              それでも不純な好奇心は真実を確かめたがる。
 
              「どうぞ」
 
              形いい唇をニヤリと歪めたその仕草に、もう返事は頂いたも同然なんだけど。
 
              「近衛氏の、差し金ですか」
 
              「ア・タ・リ。困っちゃうわよね〜嫉妬深い旦那様を持つと」
 
              あの人は…利用できるモノは親兄弟でも容赦が無いんだ。あまつさえそれを楽しむ
 
              家族だから尚困るんだけどね。
 
              容姿に似合わず豪快に笑ってた歌織さんは、頭を抱えるあたし越しにふと視線を彷
 
              徨わせ、誰かを捜してる。ええ、言わずと知れた誰かを。
 
              「どこにいるの、その彼」
 
              声を潜めるなら、さっきの旦那様のとこでお願いしたかったんですけどね…ええ、
 
              もういいんですけどね…。
 
              半ば投げやりに背後を示すと、ダメージ抜けきらぬ灰色の髪がふらふらこちらに近
 
              づいてくるところで。
 
              ナイスタイミング?
 
              「へー…なかなか」
 
              鼻歌でも歌っちゃいそうな歌織さんが何を考えているのか、深読みする必要は無か
 
              った。
 
              足取り軽く先輩に近づくと、真っ赤に染められた指先でその頬を捕らえ、唇に触れ
 
              ちゃったんだから。唇で!
 
              「ああ?!」
 
              突然の出来事にフリーズしたのは先輩だけじゃない。
 
              生徒も、もちろんあたしも止まる、つーか凍る。
 
              歌織さーん、ここ日本、ジャパーン、アンダースタンド?キスは挨拶じゃ無いんだ
 
              よぉ…。
 
              「…あんた、早希ちゃんのダンナの血縁?」
 
              ところが意外なほど早く現実に復帰した先輩は、かの人の顔を見て平然と聞いちゃ
 
              うのね。さすがたらし、女慣れしてるっていうかキスくらいじゃ騒がないっていう
 
              か。
 
              「似てるとつまらないわね、すぐばれるんですもの。今のは挨拶と早希ちゃんの仕
 
               返しよ」
 
              一方の歌織さんもにこやかに応じると、つっと艶やかに指を滑らせ先輩を解放する。
 
              「早希ちゃんの、ねえ。どう言った意図で?俺喜ばせても復讐にはなんないでしょ?」
 
              美人のキスなら大歓迎と嘯(うそぶ)いた先輩を流し見て、なぜかあたしの頭を抱
 
              え込んだ歌織さんが唱う。
 
              「それはどうかしら。彼女は不誠実な男が大嫌いなのよ?」
 
              ね?と促されるまでもなく、あたしは彼女の真意を理解した。
 
              そっか、ここでやりこめちゃえばいいのね。了解。
 
              「好きってさんざん騒いどいて、歌織さんのキスが嬉しいってどうよ?」
 
              オプションで偉そうに見下すって仕草もつけると、にわかに先輩の顔色が変わる。
 
              「しかも相手がライバルそっくりの顔じゃ、よろしくないわよねぇ」
 
              もちろん援軍つき。敵に回すとおっかないことこの上ない近衛家の面々だけど、味
 
              方にしたら一騎当千の働きは約束されちゃうからね。
 
              「いや、早希ちゃんだって見てただろ、アレは不可抗力だって」
 
              からかわれてるとわかっても、言い訳せずにおれないのは人間の性?それとも男の
 
              習性かな。
 
              な、なっと必至に同意を求められてもここで頷いちゃ折角の歌織さんの行為が無に
 
              なるじゃない。更に悪いことに近衛氏に報告されたらお仕置き決定。
 
              ま、そんなつもりは小指の先ほどもないけどね。
 
              だから、何やら必至に言い募る先輩をサラリと無視して、心強い助っ人共にその場
 
              を後にしちゃうのよ。
 
              「ふふ、好みよ、彼」
 
              ってな不穏な呟きは無視してね。
 
              頑張れ先輩、負けるな先輩。あーおかし。
 
 
 
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                  再登場の歌織が頑張ってくれることを祈りつつ、      
                  続く!                              
 
 
 
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