20.
 
              キーコ。
 
              「さて、勝算とやらを聞かせて貰おうか?」
 
              ギーコ。
 
              「敵に塩を送るほど親切じゃねえよ」
 
              キーコ。
 
              「おや、それは僕に至らないところがあると言ってるのかな?」
 
              ギーコ。
 
              「だらけだろうが。女を泣かせる男が自分は完璧だとでもほざくか?」
 
              …飽きたわ。1人でブランコ遊びって高校生のやることじゃないもんね。
 
              次はジャングルジムに挑戦しちゃおうかしら?
 
              「どこいくの」
 
              「勝手に動き回るな」
 
              一歩ブランコを離れただけなのに背中に目でもついてるのか、同時に振り返って牽
 
              制かけるんだわ。
 
              「…ジャングルジムに移動します…」
 
              「そう」
 
              「っと、話を戻すか。さて、アンタは自分をどう思ってるんだ?」
 
              ……はぁ。なんでこんなのに付き合ってんのかしらねぇ?2人で充分楽しんでるの
 
              に、戦利品て理由で拘束されるのは極めて理不尽。どっかの政治家みたいに遺憾の
 
              意を表明しちゃうぞ。
 
              数分前、やおら戦闘状態に入った魔界の住人が、あたしに命じたことは目の届く範
 
              囲で『遊んで』いること。
 
              もっちろん、抵抗したわよ?この年になって何が悲しくて公園で逢魔が時をエンジ
 
              ョイしなくちゃなんないんだって。ところがこんなところはイヤになるくらい気の
 
              合う連中は声をそろえって言ったもんだ。
 
              『精神年齢的にはぴったり』
 
              あーあそう、小学生並みの舌戦を繰り広げる自分達は遙か彼方の棚の上な訳ね。は
 
              いはい、わかりましたよ。
 
              反抗なんかしても既に臨戦態勢の男共に勝てる見込みはなく、手近なブランコで暇
 
              を潰してたんだけどね、いかんせん会話の内容が低俗なの。子供のケンカ、核心か
 
              らビミョウにずれた嫌みの応酬。
 
              男なら殴り合いの一つでもして、傍観者に娯楽の一つも与えちゃどうなのかしら
 
              ね?へん!
 
              「僕には君にないモノが沢山あるからね、学生に未熟者呼ばわりされてもピンと来
 
               ないんだよ」
 
              「例えば?」
 
              再開されたよ…嘲笑を浮かべる魔王様に、冷笑をたたえたぷち悪魔が応戦です。
 
              眺めて実況中継でも入れてやろう。…心の中で。
 
              「経済力、責任能力、社会的地位、どれか一つでも持ってる?」
 
              「許容力、いさぎよさ、素直さ、これならあるんだけどな」
 
              あげつらえば、受ける方もなかなかどうして相手の弱点をつく反撃。
 
              「許容力なら僕だって負けてないよ。現に今日の早希は泣いてなかったでしょ?子
 
               供のイタズラくらいで目くじら立ててたら、立派な大人にはなれないからね」
 
              「そうかぁ?よっく見えるところにマーキングして、本人に忠告もせず周囲に見せ
 
               びらかすなんて、ガキの発想だよな?」
 
              ほう、近衛氏の性格をよくわかってらっしゃる。そうなのよ、この人たまにやるこ
 
              とが子供っぽいのよねぇ。なのに本人認めないし、言えば倍返しが待ってるし、ち
 
              ょっと先輩を応援したくなっちゃったぞ。
 
              「君のような輩がいたら、あれくらい露骨にやらないとわからないだろ?相談に乗
 
               って油断させた上、不和の種をまき散らして別れさせようなんて貧困な発想の持
 
               ち主には」
 
              「策略家と言って欲しいね。俺はいい人に甘んじるほど枯れてねえの。欲しい女に
 
               ろくでもねえ男がついてたらできるだけ穏便に別れてもらおうと思うだろ?あの
 
               程度で早希ちゃんを責めるようなら、一緒にいる価値ねえしな」
 
              …あれ、穏便な方法なんですか?それに近衛氏、あなたの作戦はあたし1人が被害
 
              甚大な気がするんですけど…。
 
              「早希を責められるわけないだろ?単純ですぐに人を信用してしまう愚かさは彼女
 
               の短所だけど、それをいちいち気にしていたら結婚はできないよ」
 
              …おい。
 
              「情にほだされやすくて、流されたら戻ってこれない、抵抗力の欠片もない女を騙
 
               した奴のセリフは違うね」
 
              まて、まて。
 
              「そう、こちらの都合のいいように操るのはわけない子だからね。君だってそこを
 
               気に入っているんだろ?」
 
              ちょーっと!
 
              「だけじゃねえよ。人間に裏があるってわかってるくせに、何度でも同じ手に引っ
 
               かかる単純さがいいんだよ」
 
              「いつから人を愚弄することに趣旨替えしてんだ!!」
 
              怒鳴りつけたあたしを、怪訝そうに見つめた悪魔共は一拍おいて見事な笑顔で対応
 
              した。
 
              「ホントのことでしょ?真実を言われて怒っちゃいけないよ」
 
              「自覚がない、なんて言わねえよな?自分はおもちゃだってわかってんだろ」
 
              ……いいですか、皆さん。人間に基本的人権があることは国家ぐるみで認められて
 
              ます。が、しかし!あくまでそれは表向き。ここしばらくあたしはその権限を発動
 
              する機会すら与えて貰っちゃいません。
 
              これこのように日常茶飯事、虐げられて生きてんです。
 
              「…一つ質問しますがね?」
 
              瞳に剣呑な光りが宿っていることを切に祈りつつ、言葉を紡ぐ。
 
              「あんたらあたしが好きなんですか?」
 
              この争いにおいて、どうやら重大事項が抜けてるようだから補足してあげるわ。
 
              黙って戦利品にされてるほど、甘くはないんだからね!
 
              ところが睨み上げる2人には、どうでもいいことだったらしい。ホント、正に。
 
              「好きだよ、でなければこんな面倒事に首を突っ込もうとは思わないだろ?」
 
              首突っ込むって…近衛氏あんた、当事者のセリフじゃないですよ?
 
              ところがそれを聞いた先輩が、しまったと呟いたのよねぇ。何が?この会話のどこ
 
              に不利になる材料があったと?
 
              「なんで今それを言うんだよ。早希ちゃんが泣きわめいてる時には意地でも言わな
 
               かったくせに」
 
              苦々しげに吐き出されたセリフで気づく。
 
              ああ、近衛氏が好きだって言ったこと?そっかー、把握してるようで把握してない
 
              んだ。これは違うんだよね、経験上、わかってるんだ。
 
              「勘違いだよ、先輩。今の『好き』はね、なんの重みもないの。いうなれば飼い主
 
               がペットに示す愛情表現とか、子供が両親に言うアレと同列ね」
 
              ポカンとこっちを見てる先輩に、得意気に胸を張って近衛氏に同意を求めれば、何
 
              でか笑いを堪えてるのね。
 
              …なぜ。
 
              「あんた、大変だね。そのキャラクター変えた方がいいんじゃねえ?」
 
              「どうして?彼女の言う通りだろ」
 
              同情的な忠告(?)もサラリと流す近衛氏は、一足飛びに先輩の理解を超えてしま
 
              ったようで、一つため息を吐いた彼はがくりと頭を垂れた。
 
              「鈍感女に、ひねくれ王子かよ…似合っててむかつくわ」
 
              え、今お似合いって言った?そんじゃさ、そんじゃさ、認めてくれたところでこの
 
              不毛な言い争いやめない?あたしいい加減お腹空いちゃったのよね〜。
 
              期待を込めて落ちた顔を覗き込もうとしたんだけどね、襟首捕まれて窒息するんじ
 
              ゃないかって勢いで引き戻される。
 
              噛みついてやろうかと、背後の魔王様を見上げれば無言で示されるぷち悪魔。
 
              …舌打ちしてる?その無意味に延ばされた腕はなんなのよ、もしやあたしの隙を突
 
              いて捕獲を狙ってたんじゃないでしょうね。
 
              「どうしてすぐに気を許すの。僕に正面からケンカ売ろうって男が、あの程度で諦
 
               めるわけないでしょ」
 
              やや呆れ気味の声が骨身に染みるわぁ。
 
              そうでした、あたしってばうっかり気を抜いてキスマークつけられたんでした。
 
              「取り敢えず、今日は休戦といこや。昼間は俺といる時間の方が長いしな」
 
              吐き気がするほど甘ったるい流し目で言われて、ハイと頷くはずなかろうが!
 
              ヒラヒラ手を振って去っていく先輩に、珍しく息のあった近衛氏とあたしのため息
 
              のコラボ。
 
              まだ続くの、そう、まだ続くのね…。
 
 
 
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                  諦めてくれないかなぁ…。                
                  いい加減私が疲れました(笑)。                  
 
 
 
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