16プラス.
 
              「こっちにおいで?」
 
              「いや」
 
              実家のお風呂より広い洗い場も、大人2人が余裕で浸かれちゃう浴槽も、今はうら
 
              めしい。
 
              さっさと掛け湯して湯船でくつろぐ魔王様は、隠すとこなんかあるもんかって大胆
 
              さで隅っこのあたしを手招きしてるしね。
 
              あなたと違って、こっちはどれ一つとっても見せられない造りなの!
 
              「……捜し物?」
 
              しゃがみ込んで、近衛氏に背を向けたまま移動する様はさぞおかしかろうが、立て
 
              ないんだから仕方ない。
 
              確かここら辺に、お湯の色を真っ白に変えちゃう入浴剤が…。
 
              「返事をしないと返さないけど」
 
              …不吉…ああもう、きっとそう、予想通りなんだ…。
 
              恐る恐る振り向いた先に、白いボトルを振ってるご機嫌な近衛氏。
 
              「…悪魔。持ってるなら入れてよ」
 
              「入れて下さいってお願いしないとね。人に物を頼むなら当然の行為でしょ」
 
              「取り上げて隠したのそっちじゃない!」
 
              誰よ!いじめて楽しんでもいいからモトに戻せなんてバカ言ったのは!!
 
              あの楽しそうな顔、ホントなら一発殴ってやりたいとこだけど、身動き取れないか
 
              ら喚くしかできないじゃないの。
 
              恨めしげに見やっても、譲る気の全くない近衛氏は絶対手の届かない窓縁にボトル
 
              を置き去りにした。
 
              「ちょうだい」
 
              必死の努力で伸ばした腕に、鼻で笑うっていうむかつく態度を返して目を閉じる。
 
              それはもう、気持ちよさそうに広いお風呂を堪能しちゃってさ、あたしだっていい
 
              加減さむいっちゅーの。
 
              …あら?でもチャンス?
 
              奴の視界が閉ざされてる今なら、立っても大丈夫かな。
 
              ふっと緩んだ気を、いやいやと引き戻す。
 
              その浅慮でどれほど痛い目を見てきたことか、迂闊に罠にはまるほど学習能力欠如
 
              してないんだから。
 
              で、思考はモトに帰るわけ。いかにしてこのピンチを乗り切るか。いっそお風呂か
 
              ら出ちゃう?…危険すぎる賭ね、数日は…ううん、下手すると月単位で嫌がらせの
 
              オンパレードと戦う勇気がなけりゃできない。
 
              どうせ諦めなきゃならないなら、できるだけ被害の少ない方法考えないと。
 
              結論。急いで湯船に飛び込んじゃえ!
 
              瞬きするほどの間に、お風呂に浸かろうとすると周囲に甚大な被害をもたらします。
 
              例えば水浸しになった近衛氏の顔を見ればわかる。
 
              「…早希は僕に恨みでもあるの?」
 
              しみじみ聞かれちゃった…。この人日記つけた方がいいと思うんだけど。
 
              ○月×日、今日は早希をからかって遊んだ。非常に楽しかった。
 
              ×月○日、今日は早希をいじめて楽しんだ。非常に有意義だった。
 
              こんな感じで。あたしの恨み日記と併用すると尚可、よ。
 
              「取り敢えず、今はたっぷり」
 
              しかし口に出さない辺り、近衛隆人という人間に理解を深めた証拠だろう。
 
              命は一つしかないのからね、残念ながら。
 
              「…そう」
 
              細められた瞳に、体育座りで体を抱え込んでたあたしがより一層小さくなったのは
 
              言うまでもない。
 
              …来るっ!魔王が来るわ!!
 
              いかに広かろうと、ここは草原じゃない。所詮浴槽、あくまで浴槽。
 
              ちょっと手を伸ばせば捕まる位置に、獲物はいる。
 
              「いーやーっ!!身の危険ー!!」
 
              「今更」
 
              引っ張り込んだ体をくるりと回して、背中から懐に閉じこめて。
 
              全身を拘束されてあたしに、明るい未来はない。
 
              「素肌で触れ合うと、気持ちいいと思わない?」
 
              喉の奥に笑いを貼り付けて言うの、やめて下さい。思わず反抗したくなるから。
 
              「大量のお湯が2人の間に存在してますから、あんまり」
 
              「では、もっと近くにどうぞお姫様」
 
              ………特技に、自分の墓穴掘りってくわえてもいいでしょうか?
 
              隙間無く密接したお尻の辺りに、当たっちゃならないものがあるんだよ…。それが
 
              なんで必要のない硬度を持って自己主張しているのか、考えちゃいけません。
 
              「…お願いですから、お風呂場で不埒な真似はよして下さい」
 
              哀願は、全く的はずれで。
 
              「不埒ってこんなコト?」
 
              合わせた腕の隙間を縫って、大きな手のひらが脂肪の塊を包む。
 
              決して胸なんて言ってはいけない。あくまで脂肪の塊!
 
              「うっ…や…」
 
              どんなに思いこんだって、与えられる感覚が変わる訳じゃない。ゆるゆると揉みし
 
              だかれて、思い出したように頂きを弾かれれば快感は生まれるのだ。
 
              「気持ちいいの?声が甘い」
 
              直接耳に吹き込まれる囁きに、どうして答えられようか。羞恥に熱が這い上がり、
 
              これ以上一言でも呻くまいと歯を食いしばる。
 
              「我慢は体によくないのに、ねえ?」
 
              軽口叩く余裕もないんだって、あたしは。
 
              いつもなら絶対に突っ込みを入れる場面だって言うのに、這い回る手を振り払う余
 
              裕さえない。
 
              ああもう、だから近衛氏の本気は嫌いなのよ。いつだって反撃を易々と封じ込めち
 
              ゃうんだから。
 
              「あうっ!それ、ダメ!」
 
              不意に足の間に潜り込んだ指が、ぬるりと不快な泉を嬲った。
 
              「嘘つき」
 
              陰りを帯びた笑いを響かせて、次々と快感を送り込む近衛氏があたしの真実を知ら
 
              しめる。
 
              そう、嘘つきよ。ホントは気持ちいいの、不快感なんてないんだから。
 
              素直じゃない理性が、ほんのちょっと残って叫ぶんだもん。
 
              認めるな、溺れるなって。
 
              だからあたしは嘘をつく。好きを言わない近衛氏に密かな意趣返しをして。
 
              「んっ、ああっ!」
 
              弾みのように体に潜り込んだ敵に、思わず白旗を揚げそうになるけど、我慢。
 
              「だっめ!…やだ…」
 
              微かな律動を始める近衛氏に、爪を立てても効果はなくて。
 
              「意地っ張りな早希は…可愛い」
 
              そんな呟きを合図に、激しく揺れるお湯があたしを揺さぶった。
 
              きつく閉じた目蓋の端から、何故だか知らない涙が落ちる。
 
              それさえもはじける水滴と、汗に紛れて。
 
              白い白い世界に意識を飛ばして、重なった疲労に気を失った。
 
 
 
              翌朝、目を覚ましたあたしは、眠る近衛氏に落ちない口紅を引くという復讐をした
 
              のはまた後のお話。
 
              しばらくバスルームに入るだけで赤面するじゃない…。
 
 
 
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                  やっぱり、おふざけシーンの方が多い闇堕ちでした。    
                  しっかし、お風呂場でいたしちゃうのは問題なんでしょうかね。    
 
 
 
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