15.
 
              顔が上げられなくなっちゃった。
 
              いい加減涙も底をついたし、充分落ち着いてる。後はいつも通りの生活に戻るだけ
 
              なんだけどね…動けない。
 
              だって、どんな気まぐれか魔王様は抱き寄せたあたしの髪を優しく撫でてくれちゃ
 
              ったりして、甘やかしモード全開。
 
              嬉しくて小躍りしちゃいそうなシュチエーションではあるのよ?それなのに素直に
 
              なれない自分がいる原因は、他でもない近衛氏じゃないんだろうか。
 
              ちょーっと浮かれると、手を変え品を変えその楽園を地獄に変えようとする悪魔が。
 
              いや、現実逃避してる場合じゃないんだよ。この状況、なんとかせんと。
 
              「泣きすぎたかな…喉乾いた」
 
              おあつらえ向きのしわがれ声で宣言した演技力、あたし的には満点ね。
 
              それじゃリビングに移動しようって来るはず…なんですが、
 
              「じゃ、これでどう?」
 
              胸焼けしそうな微笑みで降りてきた唇は、有無を言わさずあたしのそれを塞ぐ。
 
              …なに忘れてんのよ!そう、そうじゃない近衛氏は常識では計れないねじ曲がった
 
              思考回路で生きてんのよ。普通の予想の範疇で収まるかっ!
 
              久々にお会いした魔王様に、どう対応したらいいやらわからず固まってると僅かに
 
              唇を放した近衛氏が囁く。
 
              「口を閉じたままじゃ、乾きは癒えないよ」
 
              …いえもう、どう反応しろと…?
 
              喚いて逃げる、モノを投げつける、そらパターンだけなら腐るほど考えつくんだけ
 
              どさ、ふざけたところが欠片もない空気じゃ勝手が違うでしょ。
 
              さっきのセリフだって、普段の近衛氏なら笑いながら、からかい声でが定説じゃな
 
              い。真顔で冗談の通じない状態は困るわけ。
 
              「…そういうんじゃなくて、水が飲みたいわけです」
 
              いっそ正直に返してみちゃどうだろう?
 
              一瞬襲った沈黙に、あ、外しちゃった?ってな気分になったんだけど、大丈夫だっ
 
              たらしい。
 
              ひょいっと子供にするみたいにあたしを抱き上げた近衛氏が、無言でキッチン目指
 
              したから。
 
              んー、でもやっぱ違う?少しも軽くならないじゃないよ、空気。しかも密着状態継
 
              続中って…。
 
              人1人抱えたまま、器用に冷蔵庫を開けた近衛氏はミネラルウォーターを取り出し
 
              てラッパ飲み。
 
              多少減ってても2リットルを片手で飲むか?あたしなら加減がわからず水浸しにな
 
              っちゃうぞ。
 
              「んあ?」
 
              ペットボトルを置いた手で、人の後頭部を捕まえた奴は再び唇を重ねてきた。
 
              先ほどの触れ合いと違うのは、間に流れる冷たい水の存在。
 
              口移しなんてこっぱずかしいコト全力で拒否したいけど顎を伝う雫に貧乏性のあた
 
              しはつい口を開く。
 
              もったいないでしょ、水飲みたかったのはホントだし、こぼしたら掃除すんのも面
 
              倒なんだもん。
 
              そんな言い訳も、絡んだ舌に溶けて消えた。
 
              いつにない熱心さで口内を探る近衛氏は、チラリと情熱も垣間見せる大サービスを
 
              してくれるんだから、正直になってもいい気がしたの。
 
              好きって思ったら、触れたくならない?くっついてそこから伝わる熱で、感触で相
 
              手を確かめたくならない?
 
              あたしはずっと思ってた。
 
              嫌われたって泣いた時、突き放されたってしょげた時、近衛氏をこの手に取り戻し
 
              たいって。確かにあった温もりを、もう一度。
 
              いたいほど抱きしめる腕も、指に絡む髪も、圧倒的な存在感で心を満たしてくれる。
 
              よかった、まだ無くしてない。
 
              「まだ、足りない?」
 
              暗い瞳で問われて、頬が緩んだ。
 
              どっち?水…それともキス。
 
              「水分は不足中。近衛氏も…足りないかな」
 
              「そう?それじゃ早希が満足するまであげる」
 
              意地悪じゃない近衛氏って、変。微笑んでも少しも楽しそうじゃないのも、変。
 
              セリフもなんだかエッチくさいぞ。
 
              「…質問の答えがまだだよ。あたし、必要?」
 
              今なら答えてくれそうだとふんだのは、間違いじゃなかった。
 
              ちょっぴり口角を上げて、近衛氏は笑ったから。
 
              「君がいないと、飢え死にしそうだよ」
 
              …たまには真っ直ぐ、答えられないもんかしら。
 
 
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                  続けると闇堕ち確実だし、仲直りにはやっぱり…必要な気がね…。
 
 
 
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