7.デート
 
 
      「今日のメール、凪子ちゃん打ったんとちゃうやろ?」
 
      ゆったりと珈琲の味を確かめていた凪子は、危うくむせかけた。
 
      顔を上げればニヤニヤと笑いながら京介がこちらを見ている。
 
      「どうして?」
 
      「語尾にハートがついとるし、やたら可愛い文章やし、なんとなーくかすみちゃん辺りが書いた気が、
 
       な」
 
      「……」
 
      ばれていた。怒っている様子もないし構わないような気もするが、やっぱりまずいのだろうか…。
 
      どう反応していいのかよくわからず、凪子は正直に白状してみることにした。
 
      「かすみに携帯渡したら、メアド登録しながらメールも送信しちゃって。いけなかった?」
 
      「いや、誰が書いたかはどうでもええねん。それよりほんまに凪子ちゃんが来るんか心配やってん」
 
      ああ、そう言うことかと納得する。すっぽかされるのがいやだった訳だ。
  
      「約束は守るよ。行けないならそうメールし直したもん」
 
      少し心配顔だった京介が、そこで笑顔を全開にする。
 
      声を聞かないでの約束に、他人が打ったメールではやはり不安があるようで凪子も反省した。
 
      「ごめんなさい。今度は自分でメールするから」
 
      「ええねん。迷っとった凪子ちゃんの代わりにかすみちゃんがしてくれた親切やろ?おかげで仲直り
 
       できたしな」
 
      「仲直りって、ケンカはしてなかたでしょ?」
 
      「いーや、君は怒っとった」
 
      言い切る京介に凪子は苦笑いで首を傾げる。
 
      確かに怒ってたけど、ちょっと意味合いが違うような…。
 
      「まぁそれはええやん。それより、デートしようや」
 
      「…いいんですか…。怒ったのは…」
 
      「ん、今は仲良しやもん。デート初めてなんやろ?」
 
      自分でふった話題は既に忘れ、京介の頭の中では違うことが満タンなようだ。
 
      なら、言わなきゃいいのにっと言うのは飲み込んで、凪子も曖昧にうなずく。
 
      「小林からくれぐれも言われてんねん。凪子ちゃん楽しませてやってなって」
 
      「…楽します、ですか」
 
      なぜだろう?いやな予感がするのは。京介のしたり顔のせいなんだろうか?
 
      「せやせや、どこがええ?新しいラブホができたらしいしそこ行く?」
 
      「それのどこがデートだ!」
 
      思わず手を伸ばして京介の頭を殴ってしまった。
 
      怒りがめいっぱい詰まってたせいか思いの外いい音がしたのは言うまでもない。
 
      「ったー。ええつっこみするなぁ、自分」
 
      「おかしなとこで褒めるな!どうして初めてのデートがホテルかなぁ?!」
 
      ここに小林がいたら蹴りをくれてやるのに!なにが高校生のみたいにヤルことしか考えてないなんて
 
      ことがないだ!こいつの頭は初デートがラブホなんだぞ、それしか考えてないじゃん!
 
      さっきまでのしおらしさはどこへやら、凪子は後一言でもおかしな事を言ったらば、京介に懸けてや
 
      るつもりで水の入ったグラスを握りしめた。
 
      「知り合うには裸が一番ええ、思っただけなんやけどなぁ。ラブホにはカラオケも布団もあるし二人
 
       でまったりするには最高なんやけど。あ、なんならプールあるとこでもええで?裸のまんま入った
 
       ら…」
 
      「まだ言うか!}
 
      更にもう一発頭にクリーンヒット。水はお店に迷惑がかかるとなけなしの理性が判断したから。
 
      静かな店でこれだけ殴打音が響けば、既に迷惑がかかっているっていうのはおいといて。
 
      いったいなーっと頭をさすっている京介は腑に落ちないとでも言いたげな不満顔だ。
 
      相変わらず凪子の怒りのツボがわかっていない。
 
      「あんたね、今までどんなデートしてきたのよ?」
 
      こんな男に敬語も可愛い振りも必要ないと判断し、かすみを叱りとばすのと同じドスのきいた声で問
 
      いただす。
 
      しかし京介はお気楽顔を崩すこともなく、指折り勘定を始めた。
 
      「ラブホでデートやろ、シティーホテルでデート、俺の部屋、相手の部屋、あ、クラブのトイレや遊
 
       園地の観覧車!」
 
      「密室ばっかじゃん…」
 
      なんつー浅はかな頭の中。…おそまつすぎる。
 
      「普通に遊園地行ったり、動物園行ったりはないの?」
 
      疲れを滲ませて聞いてみたらば、京介は不満の声を上げた。
 
      「それや、中ボーのデートコースになってまうやん」
 
      「…そっからスタートして下さい。あんたが言ってんのはセフレで、彼女じゃありません」
 
      貞操の危機を感じながらこの先一緒にいることになりそうなのは、会話の内容からよくわかったが、
 
      できるだけ安全に過ごせるコースを選ぶ権利くらいあってもいいはずだ。
 
      「凪子ちゃんがそれでええなら構わんけど…。なんや寂しいデートやなぁ…」
 
      「ちっとも寂しくない。寂しいのはあんたの頭の中」
 
      これまで京介と付き合ってきた彼女たちに同情しながら、凪子は盛大なため息をついた。
 
      経験豊富なのはあっちの方だけで、恋愛経験値で言ったら京介と凪子は同じレベルの様な気がする。
 
      明日かすみを通して小林をつるし上げる決意を胸に、凪子は京介を睨みつけた。
 
      「とにかく、あたしといる間はエッチ禁止。絶対だからね」
 
      その剣幕に観念したように京介が情けない返事をする。
 
      その後彼は僅かばかりしおれていたように見えるが、思いついたように顔を輝かせた。
 
      「なぁ、キスもしたらあかんの?それっくらいはええやろ?」
 
      本日三回目の制裁を受けた京介は、土曜日の水族館デートを引きつった笑顔で了承した。
 
    
 
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           京介はこんなキャラだったんですねー。知りませんでした(笑)。
              こんな調子でまともなデートができるのか、いやさ恋愛ができるのか?
              待て、次号!
 
 
 
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