2.説得
 
  
      抵抗も反抗も何もできないまま、とうとう合コン当日が来てしまった。
 
      怖いくらいに乗り気の友人達は、迎えに来た小林と打ち合わせと称して男性陣の品定めを始めている。
 
      何が楽しいのか笑顔全開で。
 
      「で、亮ちゃん。今日の一押しは誰なのよ」
 
      ナビシートから身を乗り出し、運転中のカレシをかすみがつついた。
 
      「もちろん上玉を用意して頂いたんですよね?」
 
      後部座席、凪子の隣から爽やかに問いかけるのは美和だ。言ってることは悪代官くさいが。
 
      「決まってるじゃない。かすみの友達に紹介するのに、妙なのは連れてこないって。ただ、一押しっ
 
       て聞かれても決めるのは凪子ちゃんだからね。先入観持つのもよくないし、俺からは言わないよ」
 
      にっこりと、笑っているのだろう。
 
      当然ながら運転中の顔が凪子に見えるはずもなく、見たくもなかったが、声の調子からわかった。
 
      状況を楽しんでいるのは小林も同様のようで、うんざり気分に更に拍車がかかった気がする。
 
      選ぶのは凪子だといいつつも、結局のところかすみと美和の希望を取り入れている人選で、それは『経
 
      験豊富』な男と言うことになる。
 
      遊び人と解釈できる人物が来ているのは間違いないと思うと気が重くなるのだが、三人にはそんな気
 
      はさらさらないようで、さながら新しいおもちゃを買いに行く子供の様なはしゃぎっぷりだった。
 
      「人を肴にして、何がそんなに楽しいのよ」
 
      ぽつりと呟いたのを耳ざとく聞きつけた美和は、あらっと首を傾げる。
 
      「凪子は楽しくないの?いい男がたくさん集まってるのに」
 
      「そのいい男がくせ者なんじゃない。遊び慣れてるんだよ?友達がそんなのの餌食になっちゃっても
 
       いいわけ?」
 
      「だから、そうならない人選を亮ちゃんに頼んだんでしょーが」
 
      「そうそう、もう遊びあきちゃったのを揃えたよ。連中なら女の子の扱いはうまいし、何よりヤルの
 
       が全てな高校生じゃないから、それだけの為に女の子と付き合おうなんて面倒は絶対しないから大
 
       丈夫」
 
      なんて事を笑顔で請け負うんだか…。
 
      安心していいんだか、悪いんだか複雑な気持ちになりながら、凪子は大きなため息をついた。
 
      「よかったねー凪子。最高の人材だよー」
 
      亮ちゃん偉い!っと隣人を褒めながら、はしゃいだ声が後ろに流れてくる。
 
      希望通りね、なんて笑い合う友人達は彼女の心を知っているのか無視しているのか…。
 
      初めての恋愛に夢も希望もてんこ盛りだったのに、こいつらのせいでそれら全てが崩れていく気がど
 
      うしても否めない凪子は、一緒に笑う気にはなれない。
 
      「何暗い顔してんのよ。こんな条件のいい合コン行けんのに」
 
      ノリの悪い凪子に、さすがにかすみが苦言を呈する。
 
      「条件で男選ぶのがやなの」
 
      仏頂面全開で返してやると、かすみも美和も素っ頓狂な声を上げた。
 
      「はぁ?!じゃ、何で選ぶのよ。条件でなきゃどんな選び方がいいのわけ?」
                     
      言えるもんなら言ってみろとばかりに詰め寄る友人達に、気後れしながらも凪子は少ない恋愛観総動
 
      員で、思い描いていた夢を語ってみる。
 
      「うーん、運命的…とか?」
 
      一瞬、車内を静寂が包み…大爆笑。
 
      運転中の小林までもが、肩を揺らして笑っていた。
 
      「運命…運命ってあんた!今時おもしろいこと言うねぇー」
 
      「街中でハンカチでも拾ってもらうの?それともぶつかる?」
 
      二人が代わる代わる言うのを、凪子は真っ赤になって聞いていた。
 
      別にそこまでべたべたな出会いを運命という気はなかったが、近いモノを期待していたのは本当だ。
 
      偶然が永遠になるような出会い、それが凪子の理想だった。
     
      「偶然だって、いくつかの必然の上にあるんじゃないの?」
 
      収まり始めた笑いの中、苦しげに息をしながら美和が言う。
 
      「家で一人、ぼーっとしながら運命待ってたって来やしないよー」
 
      同意を求めるように小林と目配せしたかすみも頷いていた。
 
      「でも!それでもお膳立てされた出会いの中に、運命は感じないでしょ?」
 
      「そんな出会いを用意してもらえる自分に、運命感じなさいよ」
 
      「え…?」
 
      美和が真剣な目でこちらを見ている。
 
      いつの間にか馬鹿笑いは止まったようで、彼女にしては珍しくその瞳にちゃかした様な色はなかった。
 
      「頼んだって、こんな好条件揃えてもらえる人がそういるわけ無いでしょ。こんな友達持った自分が
 
       それだけで運命じゃない」
 
      「そうだよー。それにあんた自分が相手に気に入られる前提で話してるけどさ、誰にも相手にされな
 
       いって事もあるよ」
 
      かすみの一言はちょっと胸に痛かった。
 
      確かに自分が遊ばれるのなんて、と思ってはいたが、まず相手の気を引けなければそんな展開には絶
 
      対ならない訳で…
 
      自意識過剰?だったかなと。
 
      「友達信じてみてもいいんじゃないの?凪子に害がある男なら近寄らせないって言ったでしょう?」
 
      「何のためにあたしたちが一緒に行くと思ってんの」
 
      頼もしい友人の言葉に、凪子の気持ちも少し浮上した。
 
      一人でオオカミの群れに放り込まれるわけでなし、そんなに緊張することもないってことなのだ。
 
      「ごめん。あたし二人はだだおもしろがってるだけだと思ってた。そんなはず無いのにね」
 
      「あ、それは別」
 
      「おもしろがってるに決まってるじゃん。こんな楽しいことないでしょー」
 
      …続いた二人の言葉に、反省した自分を更に反省した凪子なのだった。
 
 
 
HOME         NOVELTOP      NEXT…?
 
 
 
       恋愛はどこ行ったんでしょう…?
         関西弁の男はいつ出てくるので…?
         次でがんばります…げふっ!
 
 
 
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送