9.良くできた姪。     
 
 
           全くわからないのが今の状況だわ。
 
           ついさっきまで角突き合わせてた課長と、どうしてファミレスにいるのかしら。
 
           それも食後のパフェなんてべたなもの食べながら。
 
           「おいしいねぇ、おじちゃん」
 
           クリームで汚れた顔を楽しそうに弛めるアスカに、
 
           「ああ、でも食べ過ぎたらダメだ。お腹を壊すからな」
 
           なんてとろけそうな笑顔で応対する課長を、数いる部下が見たらどんな顔をするのか…。
 
           20代を越えていない人をおじさん呼ばわりだし、ね。
 
           「みーちゃん食べないの?」
 
           対岸から問いかける二組の瞳に、物思いから帰った私は苦笑する。
 
           「食べてるわよ。とってもおいしい」
 
           久しぶりの外食も、山盛りのアイスクリームもホント嬉しいんだけど、事態の把握の方が
 
           大事だと思う。
 
           報われないであろう恋に落ちてしまった相手は、大切な姪と年齢差を越えて意気投合。
 
           まっすぐ帰る予定は狂って、家族のごとき団らんを醸し出す光景は理解の範疇を越える。
 
           仏頂面しか拝んだことのない課長が意外なほど子供扱いに馴れていて、裏のない笑顔を絶
 
           やさない。
 
           そして一番の問題は、仲良く会話する2人に多少の疎外感を覚えながらも、今を楽しんで
 
           る自分じゃないかしら。
 
           「アスカはいつからみーちゃんと一緒なんだい?」
 
           ふと途切れた会話を埋める問いかけは、子供が疑問を持たないさりげなさだけど私の事情
 
           と直結したものだった。
 
           「生まれた時からずーっとだよ。赤ちゃんの時から一緒!」
 
           胸を張った無邪気な答え、だけど残酷な真実。
 
           「あの…義姉は馴れない育児で疲れちゃったんです」
 
           半分ホント、だけど半分は嘘で、苦しい言い訳の本音を読み取った課長は微かに柳眉をひ
 
           そめて見せる。
 
           「…まだ学生だったんじゃないか?君のご両親はこの子を育てるのに手を貸してはくれな
 
            かったのか?」
 
           ひそめた声に険はない、ただ強い視線が僅かな怒りを垣間見せるだけだ。
 
           「既に他界してるんです。義姉の親族は連絡先を知りませんし、兄も子供を育てられるよ
 
            うな人じゃないんで。それでも初めの頃はちょくちょく顔を見せてたんですよ」
 
           ね、っと小さな顔に同意を求めると大きく頷く仕草が返る。
 
           「パパ、たまに来たの。もう来ないけど…」
 
           ああ、またこんな顔させちゃった。子供なりに寂しいのを我慢して、大人の身勝手を無理
 
           に納得してる顔。
 
           「もう、過ぎたことです。この話はここまでにして下さい。大丈夫よアスカ、パパまた来
 
            るって言ったじゃない」
 
           微笑みかけて、無駄だとわかっている約束に縋らせて。
 
           沈んだ表情が希望に輝くのを見るのは辛い、けれどどんなに頑張っても本当の両親には遠
 
           く及ばない私にはそうするしかないのだ。
 
           1年も前、電話越しに兄が残した言葉が果たされることなど無いと知っているのだとして
 
           も。
 
           「遊園地連れて行ってくれるって言ったのよ」
 
           何度も聞かされた約束を課長に語る目は純粋に輝いている。
 
           「アスカは遊園地に行ったこと、無いのかい?」
 
           「あるよ。みーちゃんと行ったの。でも、1人じゃぶらぶらができないの」
 
           「ぶらぶら?」
 
           「両親が子供の手を握って宙に浮かせてあげる、アレです」
 
           幼児特有の言葉遣いに考え込んだ彼に説明を加えると、納得した小さな声が返ってきた。
 
           何事か考え込む思案顔も一緒に。…よからぬコトじゃない、わよね?
 
           「おじちゃんとみーちゃんと行けば、できるな?」
 
           「…できる!」
 
           「困ります!!」
 
           やっぱりよからぬコトだわ、なんでそう短絡的に思考が繋がるの!
 
           期待に満ちた目と、困惑に固まる顔、見比べて課長は当然アスカをとった。
 
           「今週の土曜日だ、おじちゃんの妹夫婦と息子も誘おう」
 
           前半はアスカに、後半は狼狽える私への牽制だろうか。大人数ならいいだろうって?違う
 
           わ、問題はそこじゃないのよ。
 
           「待って下さい課長。どんなに家族のまねごとをしてもそれはアスカにとっていいコトじ
 
            ゃないんです。むしろ手に入らない夢を見せるだけ残酷…」
 
           「夢でいいじゃないか。できるだけ幸せを増やしてやれれば」
 
           「気まぐれは困るんです!」
 
           分からず屋に叫んでしまってから、驚いて見上げるアスカに気づいて唇を噛む。
 
           子供の前だったのに感情的になるなんて…あまり連れ出してやれないから遊びの誘いを喜
 
           んだのわかってたのに。
 
           「みーちゃん…アスカ、遊園地に行ったらダメ、なの?」
 
           「そんなことない、行ってもいいわよ」
 
           と、上目使いでお願いされて許可を出さないおばさん、いないに決まってる。
 
           「そうか、よかったな」
 
           「うん!」
 
           もう、そこで一致団結しないでよ、私1人がすごい悪者みたい。
 
           家族として当然の心配をしたはずなのに、赤の他人の一言で簡単に引っかき回されちゃう、
 
           自信なくすなぁ。
 
           「深く考えることはない、宝くじにでも当たったと思え」
 
           へこんでると落ちてきた言葉は課長らしいというか、口角が少し上がった皮肉な笑みがむ
 
           かつくというか…。
 
           いい人なんだけどね、好感はいっぱい持ってるよ、でもレストランに入ってから初めて、
 
           この人がバトルを繰り広げていた相手なんだと実感したわけ。
 
           口惜しいけど、久しぶりに負けたわ。
 
 
 
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                     やっぱりおわんない(笑)。       
                     所詮私に短編は無理なんですわ、ハイ。        
 
 
 
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