3.箱入り娘の悲劇    
 
 
             ある日、お兄ちゃんと遼平君に彼女ができていた。           
 
             スノーボードをしに行ったはずなのに、楽しんだ上に恋人まで手に入れるなんて世の中な
 
             んて不公平なんだろう。
 
             「それでふるれてるのか、結衣は」
 
             ココアのカップを渡しながら、省吾君が笑った。
 
             「だって、今日は宿題見てくれるって約束したのに…!お兄ちゃんてば奈月さん連れてっ
 
             ちゃうんだもの」
 
             始めて会った時から、奈月さんは私をすっごく気に入ってくれて、何かと世話を焼いてく
 
             れる。
 
             『友達に似てるのよ』
 
             って言って紹介してくれた美香さんは、遼平君に捕まった可哀想な人で、ふわふわとした
 
             イメージの砂糖菓子みたいだった。
 
             私、あんなに可愛くないのに。でも、二人ともカレシそっちのけで構ってくれる。
 
             お買い物に連れて行ってくれてたり、髪を結んでくれたり、大好きなのに、お兄ちゃん達
 
             はいつだって私から取り上げちゃうの。
 
             「狡いんだから、お兄ちゃん達は。私が男の子とお話しするとすっごく怒るくせに、自分
 
              達は彼女を作ってお出かけしちゃうのよ。男の子がダメなら、奈月さんと美香さんは私
 
              にくれてもいいのに」
 
              「…それは無理だろ」
 
              隣に座った省吾君が、一層膨らんだ頬を撫でた。
 
              「いいことじゃないか。何かにつけ結衣にまとわりついてたあいつらが、夢中になれる彼
 
               女を作って消えたんだぞ。お前もカレシを作ったらいい」
 
              「どうやって相手を見つけるの?」
 
              ちっちゃな頃からお兄ちゃんと省吾君、遼平君だけが私の知ってる男の子だった。
 
              保育園、小学校と進むたびクラスメイトは増えていくけど、近づく子達はお兄ちゃん達が
 
              威嚇しちゃうし、8つ年上の省吾君に至ってはまるで保護者。これは見ちゃダメ、読んじ
 
              ゃダメってその…男女交際のステップを知識として得ることも許されなかった。
 
              今時学校の性教育以上の出来事を知らない高校生がいるって、友達に大笑いされたんだか
 
              ら。その学校だって、女子校しか受けさせてくれなかったくせに、コンパも出ちゃダメっ
 
              て門限決めたくせに、勝手なことばかり言って!
 
               これ以上ないってくらい頬を膨らませたけど、はたと思いついたことがある。
 
               あ、これっていいかも。
 
               「私、彼女を作る!」
 
               そうよ、なんで気づかなかったのかしら。奈月さんや美香さんみたいなお姉様を好きになればいい
 
               のよ。
 
               「困るな、それは」
 
               高らかに決意宣言して、おかしなモノに開眼しちゃった私を、横から伸びた腕が抱き取った。
 
               「どうして困るの?」
 
               この程度のスキンシップ慣れっこになっちゃってるから全く気に留めることもなく、ほんのりと煙
 
               煙の香りが残るジャケット越しに省吾くんを見上げる。
 
               「俺の計画が座礁するから」
 
               「計画?」
 
               私がお姉様を作ると壊れる省吾くんの計画って、何?
 
               「そう、光源氏計画」
 
               光源氏…?
 
               唇を歪めた省吾くんは、首を捻る私の頬を両手で包むと、聞いたこともない甘い声で昔話を始めた。
 
               「俺が8つの時に、両親の友人が女の子を産んだんだ。遊びに行ったその家で、抱かせてもらった彼
 
                女は小さな手で俺の指を力一杯握った」
 
               「それ知ってる。把握反射って言うんだよ。テレビで見たもの」
 
               得意げに教えてあげたのに、省吾くんはより一層笑うの。
 
               なんだか悪い人みたい…。
 
               「赤ん坊の条件反射なんてどうでもいいんだよ。その瞬間決めたんだからな、俺が好きなら嫁にもら
 
                ってやろうって」
 
               「………」
 
               好き嫌いのわかる年齢だったのかな?きっと違うよね、省吾くんが勝手に思いこんだんだ。
 
               でも、口に出したら危険な気がして私は黙り込む。
 
               …危険?
 
               「結衣は俺が好きだろ?」
 
               こくりと頷く。好きだよ、お兄ちゃんも遼平くんも省吾くんも好き。
 
               納得できないところがたくさんあるんだけど、間違いはないから頷くの。
 
               「それなら俺が付き合ってやる。ほら、カレシができただろ?」
 
               …果てしなく違う気がするのは、どうして?
 
               得意げに微笑む省吾くんは、まず間違っているよね。だって、私の好きはカレシにしたい好きじゃな
 
               い。カレシになってやるって簡単に言うのも違う、と思うんだけど。
 
               「家族愛は、恋愛じゃないような…」
 
               思わず口をついた言葉に、省吾くんは眉をひそめた。
 
               「わかった。家族から抜け出すぞ」
 
               言うが早いか、我が物顔で私の唇を奪った省吾くんは、反応できずにぼんやり見つめる様子に大満足
 
               で笑うのだ。
 
               「嫁にもらってやるからな、18になったことだし」
 
               恐ろしいこと考えちゃった。光源氏計画って、私が赤ちゃんの頃から実行されてたのかな?
 
               カレシができないように妨害してたのも省吾くんの企み?今日キスしたのも?
 
               だって、18になったのは、昨日のことだもの。
                
 
 
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                     どこまで無謀な短編シリーズ(笑)。   
                     ゆうい様、二人の今後はもう一回ハッピーライフで書きますから、リクエストと違うけど、怒らないでー!
 
 
 
 
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