2.ボーダーの受難−後編−
 
 
                   奈月は、ナイターに行きました。孝道君と言う遼平君のお友達と一緒に。
 
                   因みに、滑るより転がった方が早い私は、お留守番です。
 
                   自己チュー様と一緒に…。                 
 
                   「どうしてついてくるんですか」     
 
                   売店でおみやげを物色するのに、大きくて顔の良い背後霊がついて回るのは邪魔なことこ
 
                   の上ない。
 
                   「ばっか、スキー場のホテルなんてナンパ狙いがうようよしてんだぞ。お前みたいに抜け
 
                    てる奴なんか格好の餌食じゃねぇか。わざわざ虫除けになってやってんだから早いとこ
 
                    終わらせて部屋に帰ろうぜ」
 
                   …この人、本当に自分のことは棚上げよね。
 
                   己も虫に属するって気づいてないのかしら?
 
                   「することがないから、部屋に帰らずお買い物してるんじゃないですか」
 
                   「することならあるだろ?せっかくつきあい始めたんだ、親交を深めるんだよ」
 
                   「っ!一緒の部屋に帰るつもりだったんですか?!」
 
                   「当然だろ」
 
                   あっ、目眩…。
 
                   ここのゲレンデはホテル所有だったんで、当然遼平君達も同じ場所でご宿泊なの。
 
                   そこまではいいわよ、会った場所が場所なんだから必然って事だもん。
 
                   でも!どうして初対面の人と個室で親交を深めなくちゃならないわけ?
 
                   どう考えても間違ってるじゃない!
 
                   「自分の部屋に帰って下さい…お願いですから」
 
                   「だから、帰るって言ってんだろ」
 
                   下手に出たのに尊大な彼にため息をつきつつ、こちらの意図を理解してもらおうと言葉を
 
                   探す。
 
                   「ですから、私のお持ち帰りはせずに、もちろん私の部屋についてくることもせずに、自
 
                    分一人で帰って下さいって言ってるんです」
 
                   ここまではっきり意思表示すればわかるでしょ?
 
                   って見上げたのに、遼平君はニカッと笑って首を振った。
 
                   「そりゃ無理だ。奈月っつったけ?お前の友達が俺と部屋交換したから」
 
                   「はぁ?!」
 
                   「だーかーらー、俺たちが付き合ってるっつたらあいつ『お部屋替わってあげるわ』って
 
                    スキップしながら訊ねてきたんで言うこと聞いてやった」
 
                   「聞かないで下さいよぅ…」
 
                   そう、そうだったわね。奈月の口癖は『男なんて寝てみないとわからない』だったわ。
 
                   私と一緒に泊まる時は遠慮して、別の場所を探したりしてくれてたのに、今回このお馬鹿
 
                   さんが余計なことを言ったから欲望のおもむくままに動いちゃったんだ。
 
                   …ホント奈月に悪気はないのよ、貞操観念もないけど…。
 
                   「…ラウンジに移動しませんか?」
 
                   この時間ならティールームはまだ開いていたはずだ。込み入った話をするのにおみやげ屋
 
                   でってちょっと無理だもの。
 
                   「あん?話なら部屋で…」
 
                   「ラウンジ!」
 
                   「お、おう」
 
                   会ってからこっち、ずっと言いなりだった私の強気にさすがの俺様も気圧されて頷くと、
 
                   夜になっても賑わうラウンジで大人しくホットコーヒーを注文するに至った。
 
                   そう、お願いだから少しは人の話も聞いて頂戴ね。
 
                   「で、こんなとこ引っ張ってきてどうしようってんだよ」
 
                   煮詰まったコーヒーをすすりながら顔をしかめた遼平君は、私の意図がわからんと言わん
 
                   ばかりの口調だった。
 
                   わからないのはこっちの方なんだけどね…。
 
                   「単刀直入に聞きますけど、いつ私が遼平君と付き合うことになったんでしょう?」
 
                   「俺がお前を気に入ったから。その瞬間」
 
                   「具体的にいつ?」
 
                   「転んでも転んでも全く上達しないお前をリフトから眺めて笑った時」
 
                   「…声かける前じゃないですか…」
 
                   自分に存在しなかった拒否権について、聞いても納得するどころか悲しくなってきた。
 
                   どうして雪に遊ばれる私見て、付き合おうとか思うのかしら…。物好き?
 
                   へこみ気味の様子に少しばかり説明が足りなかったと思ったのか、遼平君は更に続けた。
 
                   「こんな運動神経切れた人間が存在するのも面白かったんだけどな、それより保護欲そそ
 
                    られちまって、こいつ一人で生きて気ねーんじゃねえかと。しょうがねえから俺が面倒
 
                    見てやろうと思ったんだよ」
 
                   う、嬉しいような迷惑なような…。そして限りなく自己中な人…。
 
                   勝手に決意して、相手の都合全く無視ってよく今まで生きてこられたものだと感心しちゃ
 
                   う。
 
                   「私にカレシがいたらどうするつもりだったんですか?」
 
                   「ああ?こんな鈍い女、友達とスキーに行かす時点で面倒見る気ねぇの決定だろ?取るに
 
                    決まってんじゃん」
 
                   あくまで私には決定権なしと。
 
                   得意げにふんぞり返る彼を見てたら、意見するのもバカらしくなって来ちゃった。
 
                   それに、よく考えたらお得、よね。
 
                   理由はともかく、歩いてるだけで目の保養な人が努力もしないで手に入ったわけだし、ち
 
                   ょっと…ううん、だいぶ我が儘勝手な性格だけど悪い人では…ないと思う。
 
                   奈月が男になったと考えれば今までの付き合いの延長だもんね。
 
                   うん、いいかも。
 
                   「遼平君の気持ちはよくわかりました。私でよければお付き合いして下さい」
 
                   改めてよろしくって頭を下げたら、呆れた声が降ってきた。
 
                   「もう付き合ってるだろ?何言ってんのお前?」
 
                   ……そうですね、あなたの頭の中じゃそうなってるんですね。
 
                   どうしよう、この人の性格奈月よりグレイトだわ。頑張れるかしら。
 
                   「ま、いいや。そんじゃ部屋へ帰ろうぜ」
 
                   ニカッと笑って伝票を取り上げた遼平君は、私の襟首を捕まえるとぐいぐい引っ張って歩
 
                   き出した。
 
                   「え、もう?おみやげ…」
 
                   「どうでもいいよ。親交を深めちゃおうぜ」
 
                   「じゃ、せめて服を引っ張らずに手を繋いで…」
 
                   「やだよ。身長差あるからみっともねぇ」
 
                   そこ?問題はそこなの?
 
                   恋人同士と言うよりは、連行される罪人のような姿で私は部屋まで引っ立てられたのだ。
 
                   …男は顔より性格で選ぶべきなんじゃないかしら…もう遅いけどね。
 
 
 
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                     やっぱり無謀な短編シリーズでした(泣)。
                     kie様ごめんなさい。遼平は格好良くできませんでした…。
 
 
 
 
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