16.会長の本性。     
 
 
           夏休み前、学祭の準備でごった返す生徒会室が静かになるのは僅かに日が落ち始めた7時
 
           前後。その頃にはこの部屋にいる人間もだいぶ限られてくる。
 
           「り〜おちゃん、どう?この後メシでも食わない?」
 
           スキンシップ過剰、生徒会にあるまじき派手さ、女は全て俺のモノ会計と、
 
           「いい加減にしたほうがいいよ、八木君」
 
           品行方正、四角四面、銀縁メガネの似合う綺麗なお顔、そして柔和な会長様、
 
           「おさき〜」
 
           容姿端麗、やる気皆無、それならなんで生徒会?!、の書記…は、お帰りか。
 
           「お断りします。私もかえる…」
 
           「あ、待って。芹沢さんには少し話があるから」
 
           乙女の背中に張り付いたおんぶお化けを引っぺがして、会長様は優しく仰る。
 
           …のわりに、会計八木の扱いが乱雑だが気にすまい。セクハラは私だってイヤなのだ、天
 
           誅くれる親切な人を非難しようとは思わない。
 
           「ちょ〜貴島ぁ、俺の恋路を邪魔すんなよ」
 
           「あはは、誰の恋路だって?ん?」
 
           陽気に笑いながらぺいっと床に転がした体を…足蹴です。みぞおち辺りをありゃ全力で踏
 
           んでるね。ぐりぐり踏みにじるって荒技つけて。
 
           「いてっいてっ!死ぬ、マジで!」
 
           「大丈夫、ゴキブリはしぶといものだから」
 
           初めて見る…会長の姿…かもしれない。能面みたいに笑顔貼り付けた顔で…今までこんな
 
           過激な行動に出る彼を見たことがあっただろうか…いやない。
 
           「あの、会長。いい加減にしないと八木君が壊れちゃうんじゃないかと…」
 
           潰れたカエルみたいな声を上げる被害者の、さすがに命が心配で止めに入ったのだけど、
 
           瞬間かち合った視線がその…恐い?
 
           まさか、柔らかな微笑みもそのままに温厚な人代表の、彼が?
 
           「……そうだね、じゃ、八木君お疲れ様」
 
           と、不埒な会計を解放する会長様は…普通だわ。
 
           ふむ、乱暴狼藉は目の錯覚で、恐怖のオーラは気のせい、そうだよね。
 
           逃げ出す勢いで消えた八木君を見送りつつ、頭の片隅から出た一緒に行きたかったってセ
 
           リフは打ち消しておく。
 
           疑ってはいけない、善人に疑惑なんか向けちゃいけない。
 
           いけないんだが…。
 
           二人っきりで立ち尽くす部屋で思うのは、どうして会長の笑顔が嘘くさいんだろう、そん
 
           なこと。
 
           「芹沢さんは、八木君が好きなの?」
 
           室温が下がった。そらもう、心霊現象さながらに一気に急降下さ。
 
           窓際、夕日を背に佇む彼の縁取りが鮮血に見えちゃったり、私の体を得体の知れない物が
 
           縛ってたり、アンチ超常現象、カモン大槻教授な状況で。
 
           「いや、好きじゃない、うん、ない」
 
           動揺しまくり怯えまくりで、即座に否定しておいた。
 
           多分そうしなければ体の自由は戻らない。いやさ、絶対戻らない。
 
           必死の子羊に、けれども狼の反応はイマイチだ。
 
           ふーんと気のない返事をすると、一歩間合いを詰めてみて。
 
           「でも、よく触らせてるよね?」
 
           キラリとメガネのフレーム光らせて、口元を歪めてみたりなんかする。
 
           目がちっとも笑ってない、不揃いの君の悪い顔で、ね。
 
           ああ、神様、仏様、天神様、私この話しの流れが、行き着く先がわかりません。
 
           何故いきなり絡まれてんのでしょう、脅されてんのでしょう。
 
           たった一つ理解できるのが、敵との間には一歩分のスペースしか残されてないってこと。
 
           それが余計にもの悲しい。
 
           「ねぇ、触らせているよね?」
 
           ほら、早くしないと後半歩。
 
           「それとも、誰にでも触らせるの?君は」
 
           距離、20センチ。首を伸ばせば危うく唇も触れちゃうぞってとこで会長様が笑ってる。
 
           近すぎて目が疲れる、やっぱ睫長いな、肌ツルピカだぁ。とは現実から逃げた理性談。
 
           違うよ、答えなきゃ。圧倒される強い視線に飲まれて、身動き取れなくなる前に。
 
           「触らせない、好きな人にしか、イヤ」
 
           少しでも笑えたら冗談にできるのに、彼はそれを許さない。
 
           真剣に答えろと、目が告げる。
 
           「好きな人?誰?」
 
           誰…誰ってそんな…
 
           「い、いない…」
 
           「嘘」
 
           決めつけて彼はつと手を伸ばした。
 
           未知の領域、行動に怯え飛び跳ねる肩をチラリと眺め、不埒に口角を上げると一束長い髪
 
           を取る。
 
           「りおは、僕が好きでしょ?」
 
           神経なんか通っていない筈のそこに唇が触れると、目眩が襲う。
 
           射すくめられた瞳から侵略が始まり、全身を拘束され走る、震えるほどの快感。
 
           力の抜けた膝でふらりとよろめいて、長机に倒れ込んだ。
 
           毛先にキスを落としたまま、覗き込んだ会長がゆっくりと降りてくる。
 
           ダメだ、絡め取られた。
 
           「答えて?」
 
           最早否定すら叶わぬ。魔力を込めたに違いない声に勝てない、勝てるはずもない。
 
           唇は、すぐそこだ。
 
           「…す…き…」
 
           「いい子だね」
 
           天使の如く微笑んだ獣は、無力な獲物を貪って甘い甘い印を刻む。
 
           額に、頬に、髪に、目蓋に、そして口づけを。
 
           「ん…はぁ…」
 
           酸素を求め開いた隙間に差し込まれた舌で、体まで繋がった。
 
           艶めく動き、混じり合う唾液、消える道徳。
 
           あなたと私、少し前まで越えることのなかった理性を軽々と見下ろす高みで、融け合う。
 
           「好きだよ」
 
           キスの合間の囁きは、なんと甘美で退廃的か。
 
           抵抗を潰して、愛で満たして。
 
 
 
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                     ネタ提供ゆっきさん。詩のような物語が書きたかったんだが…。
                     企画倒れです、なんともならないや。ただのスケベ話(笑) 
 
 
 
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