ホワイトデーパニック!
 
 
 
             灰色の受験生活を終えて、サクラサク(古い?)の後に残るのは喜びと期待だ
 
             と思うの。そう、大抵普通の場合。
 
             ところがあたしは違うのよ。カテキョが終わったら直ちゃんとの接点がない!
 
             全くない、どこを捜しても…無いの〜。
 
             かれこれ2週間会ってないわよ。最後に見かけた時だって、おはようって言う
 
             暇もなく彼は朝靄に消えてった。直ちゃんにしちゃ珍しい駆け足でね。
 
             パジャマ姿も構わず追い掛けるんだったわ!
 
             そんなこんなで登校日。久々の制服にため息つきつつ向かった校内は、ラブラ
 
             ブカップルで溢れてた。
 
             忘れてた、ホワイトデー。忘れてたかったホワイトデー。
 
             過去、ぼーっと世情に疎い隣人がお返しをくれたことなんて無い。2日遅れで
 
             キャンディーを一粒もらったのが一回…。今年は体調不良を押してまで一日遅
 
             れのチョコを送ったのに、きっと忘却の彼方なんだろうなぁ。
 
             「松尾さん」
 
             虚しいわ…。
 
             「松尾さん」
 
             悲しいわ…。
 
             「松尾さん!」
 
             五月蠅いわ!って、誰?!
 
             大変重要な物思いから、人を強制的に引っ張り上げた人物が爽やかに微笑んで
 
             る。
 
             あー、待ってよ、覚えがある。メガネかけてて、柔和な表情と見合った人格、
 
             浮世離れしてる感性がどっか直ちゃんと似てるクラスメートの…
 
             「高橋くん」
 
             「…高梨です、3年同じクラスだったんだから覚えててよ…」
 
             「そうそう、高梨くん。なにか用?」
 
             下校時の生徒がごった返してる駅前で立ち話は迷惑でしょ。
 
             行き過ぎる人々にビミョウに気を使って人波から外れて、呼び止められる覚え
 
             のないあたしは眉根を寄せる。
 
             不機嫌な野生動物に近づいたら、噛まれても文句は言えないんだからね。
 
             「うん、松尾さん僕と同じ大学合格したでしょ?」
 
             「…そうだった?」
 
             自分のことで精一杯で全く覚えがありません。冷たいと言うなかれ、直ちゃん
 
             に教えてもらわなきゃめちゃめちゃ危険なあたしの成績で、周囲を気にする余
 
             裕なんてないんだって。
 
             ちょっぴりへこんだ顔してる高梨くんには悪いけど、親しい友人でもない彼の
 
             進路を覚えてろってほうが無理。
 
             「そうだよ、密かに嬉しかったんだけどな、僕は」
 
             ここで、も一度あたしは眉をしかめちゃったの。
 
             なんで?一緒に大学受かっていいことってある?
 
             「去年一緒にクラス委員やったでしょ?あれからずっと好きなんだ」
 
             あれねー、欠席裁判だったのよ。勝手に悪友共に推薦されてね、誰もやりたが
 
             るわけ無いから満場一致で一年間センセにこき使われたんだから。
 
             そういや、あの時この人が直ちゃんに似てるなって思ったんだっけ。
 
             …えっ?えーっっ!!
 
             「おかしいよ、それ!高梨くんってばマゾ?」
 
             頭はいいくせに段取り悪いし、断れないくせに次々仕事請け負ってくるから切
 
             れて怒鳴って、いやいや手伝ってたあたしが好き?!
 
             はぁ…世の中不思議に満ちている…。
 
             「全然おかしくない。松尾さん怒ってたけどちゃんと面倒見てくれたでしょ?
 
              大抵の女の子は情けない僕を見ると愛想を尽かすんだけど、君は優しくして
 
              くれたから」
 
             それはひとえに直ちゃんと重なったからなんだよね。あの人もほら、見ように
 
             よっちゃ情けないじゃない。嫌なことには絶対腰上げないけど、生活能力に欠
 
             けてるって言うか、世間に順応できないって言うか…。
             
             「ごめん、そんなつもりじゃなかったの。あたし好きな人いるし」
 
             にぶちんで全然気づいてくれないけどね、ずっとしつこく1人の人だけ好きな
 
             のよ。
 
             だから、応えられないって頭下げたのに。敵は意外としつこかった。
 
             「付き合ってる訳じゃないんでしょ?」
 
             ええ、まあ。
 
             「それとも望みあるの?」
 
             …ないの方が比重大きいでしょうかね。
 
             「もしかして片思い?」
 
             ……そらもう、ずーっと。
 
             嫌がらせ?間違いなく人を奈落に突き落として楽しんでるわね?
 
             言葉に詰まって次第に俯くあたしを伺う視線が痛いのなんの。反応見て、何か
 
             を確信しちゃったらしい。
 
             「それなら僕にも…」
 
             「あー、未散」
 
             はっ!この端的な呼びかけ!無感動な声!
 
             「直ちゃん!」
 
             地獄に仏、窮地に場を読めない天然さん、よ〜。
 
             相変わらずやる気なく歩いてる彼の腕にぶら下がって、進路妨害しないとね。
 
             下手すると声かけただけで通り過ぎちゃうもん。
 
             「…ケンカ?」
 
             不思議そうに高梨くんとあたしを交互に見やった彼。
 
             どういう思考を辿るとこの場面がそうなるかな…。
 
             「違うけど、助かった。高梨くん、この人があたしの好きな人!」
 
             ………しばし沈黙。
 
             「え?」
 
             なによ、全く納得してないって表情しないで。
 
             顔はいいでしょ、顔は!中身ぼけぼけでも。
 
             「…確かに、望み薄そうな相手だね」
 
             ほっといて!
 
             「なんでもいいのよ、好きなんだから」
 
             半ばやけくそで叫ぶと、隣から意外な声が返ってきた。
 
             「うん、俺も未散好き」
 
             嘘、ホント?やっと通じた?
 
             「甘くないチョコ作ってくれるし、話してる最中寝ちゃっても怒んないし」
 
             …そこ、なのね。ずれてる、まったくもって別次元のお話しだぁ…。
 
             小学生と会話するとこんな感じかしらね…。
 
             「趣味、悪いね。松尾さん」
 
             「言うに及ばず、よ」
 
             だけど人の気持ちなんて冷めるまでは冷静になれないのが常。のぼせ上がって
 
             る今、一つ二つ…いや三つ四つ…なんの、数え切れないほどの欠点が何だって
 
             言うの!
 
             「好きなモノは好き!」
 
             「うん、わかる」
 
             なら、諦めてって睨んだらやり過ごされた。
 
             「簡単に諦めきれないよね。だから、これからよろしくね」
 
             え、いや、あの…。
 
             じゃあ、と去ってく背中にかける言葉無し。
 
             呆然と見送る傍らで、元凶が呑気に呟くのだ。
 
             「なにを、よろしく?」
 
             うん、いいや。直ちゃんは一生理解できないだろうから。
 
             今年のホワイトデーも収穫はなかったわ…。
 
 
 
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