2.クリスマスバトル!
 
             不本意ながら直ちゃんがストレートだとわかった今、余裕もないしキリキリチ
 
             ャレンジするわよ。
 
             「直ちゃん!」
 
             叫べば目立つのは先刻承知。だって高校生なんぞ存在しない大学の学食だもん、
 
             制服の女子高生が声張り上げたら注目の的よ。
 
             でも、逆を言えば溢れかえる人の中、あたしを見つけるのは容易だと思わない?
 
             「あ、未散」
   
             ほら、こんな風に。
 
             意外に近かったテールブルから、声はかけても迎えに来る気のない人を捜して
 
             捕獲完了。
 
             「みーつけた」
 
             「みーつかった」
 
             両隣は綺麗なお姉さんが占めてたから、背後から腕を回して首にへばりついて
 
             みた。
 
             明らかに敵意を含んだ視線が飛んでくるけど、それは同時に僅かな疑問も滲ま
 
             せてるからちょっと優越感を誘うのよ。
 
             人に触れられることを好まない直ちゃんに張り付く女と、棒読みながら冗談混
 
             じりの声を返す男。
 
             滅多にお目にかかれない貴重な光景でしょ?こんなコトできる人なんて、大学
 
             広しと言えどいないはず。あたしだけの特権だもん。
 
             …自己嫌悪。片思いしてるのは御同様のお姉さん方に、イヤな態度だわ。
 
             フェアにいかなきゃね…でもそれじゃ勝ち目ない気もするんだよね、うーん?
 
             得意気に伸びた鼻を自分で折って、取り敢えず巻き付けた腕を外したあたしは、
 
             この後のコトを全く考えていなかったと思い当たる。
 
             勢いで大学まで来ちゃったけど、どうしようかな。
 
             「大山君、知り合い?」
 
             黙り込んだあたしを顎でしゃくったお姉さんに、直ちゃんが頷く。
 
             「えーっと、幼なじみ?」
 
             いやもう、誰に聞いてるの。生まれてからずーっとお隣さんで、仲良く学校に
 
             行ったり、暇があったら遊んだりする相手はそのカテゴリーで括るしかないで
 
             しょ。
 
             こっちに視線を投げてくるから仕方なく同意すると、無表情に僅かな満足を覗
 
             かせたお兄さんは正面に向き直っちゃった。
 
             放置?あたしこのまま無視されるの?
 
             「へー、お前と女子高生って意外な組み合わせ」
 
             困惑顔に気づいたのか、お仲間の人が話を振ってくれて一安心。よかったよか
 
             った。
 
             「別に普通でしょ。妹みたいなもんだし」
 
             …そう来ますか。的は射てますがね、へこむよ。
 
             しかしサラッと流したのは正解で、凍り付いてたお姉さん方が表情を取り戻し
 
             て直ちゃんに笑いかける。
 
             「そうだったの。で、妹さんがなにかご用?」
 
             さりげに妹強調しなくていいから。どうせご用なんて大層な物はございません
 
             よ。捨て身で直ちゃんを誘い出す、それだけだもん。
 
             「あー、今日はカテキョいいよって言いに来たの。その、買い物行くから」
 
             お愛想笑いで必死の誤魔化し。
 
             こんな時期だし、1分1秒も惜しいのに、自分の考え無しが恨めしいったら。
 
             大事な2人だけの時間を自ら棒に振ってどうする!
 
             でも、プレゼント買ってないんだよね。いい機会だし、ホントに買いに行こう
 
             かな。
 
             嘘から出た誠、直ちゃんが欲しがってた抱き枕は、どの店にあるだろうなんて
 
             考えてたら、ひっくり返りそうな体勢で振り向いたおとぼけ顔が口を開いた。
 
             「ダメ」
 
             「…はい?」
 
             えらく短い否定じゃない?面倒なこと大嫌いな直ちゃんには、おバカに勉強教
 
             えなくていいって魅力的な提案だと思うんだけど。
 
             真意を測りかねて、表情のない顔を眺めてたら、荷物をまとめて立ち上がるの
 
             よ。
 
             「合格ラインすれすれの人が、休める時間あるわけないし」
 
             いたたたたっ…。また言いにくいことをズバッと。
 
             って、待って引っ張らないでよぅ。
 
             「ここまで来たら一日休んだくらい、どうってコトないって」
 
             ほっとくとあたしの意見なんか無視で、学食を出ようとする直ちゃんに必死の
 
             抵抗。
 
             足を踏ん張ってその場を離れまいとしてたら、急に動きを止めた彼が振り返っ
 
             た。
 
             「バカを言うのはこの口?」
 
             口角に指を突っ込んで、力任せに横に引く。
 
             「いひゃい!やめへっ!」
 
             暴れても外れない腕を一本一本剥ぎ取る頃には、唇全体が熱を持って痛みを訴
 
             えるまでになってた。
 
             目尻に浮かんだ涙を拭いもしないで睨みつけても、どこ吹く風なんだな、コレ
 
             が。
 
             「帰って勉強」
 
             ちょっと眉毛を上げるのは、顔の筋肉が凍り付いてる直ちゃんが見せる数少な
 
             い感情表現で、不機嫌を主張してる。
 
             素直にうんて言わないと、もっと怒って口聞いてくれなくなっちゃうんだよね
 
             ぇ…買い物、諦めよ。
 
             「はーい」
 
             嫌々返事をして、今度はおとなしく後に従ったんだけどね、ここで気づいたわ
 
             けだ。
 
             あたし、買い物じゃなくてカテキョしてもらいたいんじゃなかったの?
 
             どうして言いしれぬ敗北感が、全身を襲っているんだろう…。
 
             猶予は後2日、負けない!
 
 
 
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