忍れど色に出でにけり我が恋は3



駐車場から部屋まで、足下は覚束ず挙動は不審。
誰かにあったらどうしようとか、制服でこんなところに来るのはヤバイとか、おどおどびくびくしていたから背後で扉が閉まる音に心底ホッとしちゃった。
「や、そうじゃなくて!」
すぐさま正気に戻って、繋いだ手の先の人物に抗議をしたけれど。やっぱり、遅い?
仄暗い照明とガラス張りの浴室を興味深げに眺めていたおにいさんは、怯える私に視線を据えてそれはキレイに笑って見せた。
「悪かったね、放っておいて。この手のホテルにはいるのは初めてなので、もの珍しくて見とれてしまったよ」
…へぇ、お金持ちってラブホは使わないのかな。ふーん…
「それじゃあエッチはどこでするの?」
思ったことをすぐ口にするのは、ホント危険な行為だと今頃気づいても遅すぎる。
しまったと一歩後ずさっても握られた手が離れない限りどこにも行けはせず、キラキラといっそう深みを増した笑顔に未だかつてない恐怖が津波のように襲ってきた。
好奇心は身を滅ぼし、君子は危うきに近寄らないもの。覆水が盆に返ったら後悔って言葉は存在しない。
といったわけで、不用意な一言を溢しおにいさんの中のよからぬ何かに火をつけてしまった私は、大した抵抗もできないままベッド脇まで引き摺られるとふかふかのお布団にぺいっと捨てられる。
「やろうと思えばどこででも」
ネクタイ緩めちゃイヤーっ!のし掛かんないで、おさえつけないで、濡れた目でみつめないで!
「その、やめよう!」
「こんなところまでついてきて、なに言ってるの」
ええ、そうなんですけどね!どうしてだかおにいさんに命令されると言うこと聞いちゃうんです。
車を降りる前だって部屋に入る前だって、機会は十二分にあったのに私はどれも都合良く見過ごして気づいたらこの現状。
言い訳のしようもございませんが、反論の余地もありませんが。
手慣れた様子でブレザーをはぎ取り、暴れてる最中にブラウスのボタンをはずせる神業に感心してる場合じゃないわ。
まさしく最後のチャンス、いかさなきゃ!
「やだって、言いました!」
最初の一回こっきりだったけど、あれは正しく拒否したはず。
ブラも肌も両手の自由がなくって守れない情けない体勢で、これ以上の被害が確認される前に停戦を申し入れたってのに、
「抵抗しなかったよね」
そうだけど…。
「…今してます」
「そう?」
涼しい顔でか弱い乙女を押さえ込んでおいて、よく言うわ!認めなさいよ、認めてよ。
「…っ」
放しての言葉は声になる前に飲み込まれて、忘却。
ファーストキスで舌を入れられ、口内をなめ回されてるのに、脳がスパークするほど気持ちがいいなんておかしいじゃない。
きつく戒められていた手首が不意に解放されても逃げることも暴れることもなく、抱きついてるのよ?
妙に冷たい指先が胸をきつく嬲っていて、快感を生むのも危険。
「あ、はぁ…はぁ…」
「気持ちいい、でしょ?」
至近距離でくつりと鳴った喉が、体の奥からジワリ熱を生む。
ヒワイなコトバ、インビなヒビキ。
初めてなのに気持ちいいなんて、ヤバイ。私って淫乱だったの?!
きつく目を閉じても現実は淀みなく進行するもので、ぬるりと胸の頂きをなぞる舌の動きと痛いくらいに摘み上げる指の動きに、弓なりになり悲鳴じみた声を上げる。
「や、ぁぁぁ…っ」
下腹部を襲うよじれるような感覚はきっと予兆。鳥肌が立つ感覚は、この先もっと過激に続く。
躊躇いなく肌を泳いでいた掌が胸から腰へ、そして太股を伝って既に溢れ出していた泉を探った。
「…おや、初めてじゃ無いのかな?」
「んっ……な、わ、け…」
派手な水音に疑問を持って首を傾げたおにいさんは、力ない私の抗議より明確な証拠にごめんと低く呟くのだ。
「これほどきついのに、経験済みなワケはないね」
漏れ出す楽しげな笑い声は、ねじ込まれた指に苦痛を訴え体を捩る様を堪能してのモノ。
派手に滑る入り口はだけど道の異物に抵抗して鋭い痛みと抵抗で、何故か私に抗議するから。
自分の体にまで裏切られた気分よ。押し倒されて充分ひどい目に合ってるのに、簡単に陥落するしかと思えば辛いことは全部己に帰ってくる。
半分以上、おにいさんの責任じゃない!私、被害者よ?
「あ…あっあっ!」
だけど、蹂躙する指の感覚にさえすぐ慣れて、再び沸き起こった愉悦に溺れ始めるのだから主張は途切れるのだ。
「そう…今のうちにたっぷり気持ちよくなっておくんだよ。すぐに…痛みに引き裂かれるんだから」
この人は、もしかしなくても人でなしなのかしら?
初めてあった時、唯一で絶対の味方、神様みたいに見えたのに、それって見せかけで奥に隠れていた本性は救えないサディスト。
誘拐犯が最初は優しいように、オオカミが善人のフリをするように、捕まえて信用させて頭からがぶりと…
って、この人が少しでもいい人だったこと、ある?ずっと、こんなもんだったわよ?良かったのは身なりと車と、見かけだけ。
さしずめ私は食虫花に誘われた愚かなハエってとこじゃない!
「気を散らしちゃダメだよ。集中して、僕に」
ほんの僅か現実を放棄したことはいたく彼の気に障ったらしく、突然深いキスに侵されながらぐっと突き上げる指を増やされるって言う報復にあう。
「んぅ、ぐ、ぅぅっ」
声にならない叫びは、果たして苦痛なのか快感なのか。
お腹の内側を抉るように蠢くのに、激しく感じているのは体が跳ね上がる未知の感覚。
キスで呼吸を制限されて、酸欠でぼうっとする脳は理性を捨ると本能だけが踊り狂う始末。
「高みを見ておいで…」
解放を約束して喘ぎを聞きたいと離れた唇が紡ぐ誘いに、視界が弾けた。
「や、あぁぁぁぁっ!!」
全身を走り抜けた歓喜はこれまで知らなかった喜びで、力の入らない四肢が名残惜しむようその端を捕らえようとする。
逃げないで、もう少しとどまって、私を満たして。
だけどそんなお願い受け入れられるはずもなく、すぐに忘れていた不幸が襲い来るのだ。
「今度は…辛いことの方が多いかな」
それは、そんなに楽しそうに言うことなのですか…?
カエルみたいにひっくり返って、抵抗どころか口をきくことさえできない人間を平気で襲えるおにいさんの精神を疑ってもよろしい?
ぼうっと霞む頭で形ばかりの抵抗を浮かべた瞳は、次の衝撃で見開かれ紅く染まる。
「いっ、たぁっ!!」
「うん、そうだろうね」
のんびりとした口調と裏腹に動きはひどく強引で。
「ゆっくりだと痛みが長引きそうだしね…一息に行こうか」
「…っ!!!!」
掠れた喉から絞り出される空気が一瞬の突き上げに震えても、耳元で揺れる吐息は悦楽に染まったまま。
「熱いね、気持ちいい、すごく」
「………っ」
宥めるように褒めそやすように、囁かれても返事なんてできない。
ズキズキ苛まれる下腹が、イヤになるほど派手な抗議をあげているから。
「も、やめて…痛い、よ」
「冗談でしょ。ここからスタートなのに」
「だって、無理…これ以上できない…」
「さっきまで、しようとしてたのに?君が売ろうとしたのは、今受け止めている全て」
こめかみを伝う涙を舌で掬って、意地悪に唇を歪めたおにいさんは残酷に激しい注挿を始めた。
「そして…これから始まる全てだ」
「やぁぁ…っ」
弱々しい抗議なんて無いも同じで、それからしばらくは苦痛に耐える為だけの時間が流れたのだ。
全部、自分で蒔いた種。世の中、ハイリスク・ハイリターンなのだわ…。



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