9.
 
             「やっぱりっ!」
 
             …なにが?それより布団めくったら寒いって、ミオさん。
 
             「克巳君、ひどいよ!」
 
             「えっ?!」
 
             思い違いに気がついて飛び起きると、小柄で線の細い男の子がくずおれるところだっ
 
             た。
 
             声似てるから勘違いしちゃったよ…でなくて、そうでなくて、彼は確か克巳の今付き
 
             合ってる子、だったような気がする。何度か店で見かけたもん。
 
             いやいや、それはいいの、うんいいの。問題はそこじゃない、どうして彼が克巳の寝
 
             室にいるのか、ここがポイント。
 
             寝起きですきっとしない頭を巡らせて確認した時計は7時を指してた。
 
             隣で未だに起きない同居人は、あたしに配慮してなのか主義なのか、恋人に部屋の合
 
             い鍵を渡すことはない。チャイムで起こされてお出迎えしたらこんな場面にならない
 
             ことを考えると、この子どうやって入ったの?
 
             「あのー、盛大な感情表現に勤しんでるところ悪いんだけど、侵入経路を教えてくれ
 
              る?」
 
             昨夜はクリスマスイブ。適度に酔って帰りはしたけど、鍵をかけた記憶はある。
 
             「合い鍵に決まってるだろ!」
 
             怒鳴られちゃった…しかも睨まれてるし。
 
             「あんた、克巳君とはただの同居人だって言ったくせになんだよこれ!人の男寝取る
 
              なんてどういう了見さ!」
 
             「…寝取る?」
 
             あたしが?吐いちゃってセックスどころじゃないのに?
 
             随分な勘違いだなぁ。うーん、でもこの状況は傍目にはそう見えちゃう?
 
             「うるせぇ」
 
             不機嫌全開の克巳が騒音に絶えきれず起き出したのは、そんな時。
 
             泣きわめく男と、首を捻る女を交互に見て、つり上がった眉が更に角度を増した気が
 
             した。
 
             「克巳君!僕には昨日会えないって言ったのに、どうしてこの女と一緒なんだよ!」
 
             あ、今度は指をさされちゃった。なんだかなぁ、気持ちはわかるけど、誤解なだけに
 
             理不尽な扱いだわ。
 
             「…どうやってここに入った」
 
             縋り付こうとする彼を邪険に振り払って、低い声が怒りを伝える。ちょっと前まで圧
 
             倒的有利であたしを責め倒していた恋人が、瞬時に顔色を無くしたのは何でだろう?
 
             「えっ…あ、合い鍵で…」
 
             「どうやって手に入れた」
 
             しどろもどろで、あらぬ方向に視線を泳がす彼を克巳はたたみ掛けるように追いつめ
 
             た。
 
             「克巳君が悪いんだ!何度頼んでも部屋に入れてくれないから、だから」
 
             逆ギレした割に声がだんだん小さくなるのは、見下ろす瞳が冷たいからなんだろうね。
 
             あたしもこんなおっかない克巳初めて見るもの。怒ってたってすぐに笑ってくれるか
 
             ら知らなかった、呆れられたって見捨てられたことはないから気づかなかった。
 
             この人本気にさせると、命の危険を感じちゃうかも。
 
             「出せ」
 
             「えっ?」
 
             「勝手に作った合い鍵を出せって言ってんだよ」
 
             綺麗な手を彼の前に突きつけて、無表情の男が言う。
 
             「…や…だ…」
 
             ふるふる首を振るとは、根性の入った人ねぇ。あたしにはとってもできないわ。
 
             「繭」
 
             「はへ?」
 
             いきなりこっちを向くから、小さく体が跳ねた。おっかない克巳、いや。
 
             「業者に連絡して鍵替えてもらえ。俺はこいつをつまみ出す」
 
             意外なほど優しい声だったから、逸らした視線を戻すと常と変わらない柔らかな眼差
 
             しの人がいる。
 
             そのまま頭に手を置いた彼は、ポンポン叩いて苦笑した。
 
             「悪かったな」
 
             「なんで克巳君が謝るんだよ!」
 
             また怒り出しちゃったよう…せっかく克巳の雰囲気が通常モードだったのに。
 
             「…ルール違反だ、わかってんだろ?」
 
             ベッドを降りて犬猫でも扱うように襟首を掴んだ克巳は、喚く彼を引きずって歩く。
 
             「二度と俺の前に顔見せんなよ」
 
             「そんなの認めない!なんでその女はいいのに、僕はダメなんだよ!!」
 
             どんって、すごい音がした。
 
             寝室の壁につるし上げた彼を叩きつけて、背中を向けた克巳は、電気でも出してるん
 
             じゃないかってくらい剣呑な空気を纏ってて。
 
             まずーい!止めないと…。
 
             「繭を二度も、その女呼ばわりすんじゃねえ!!」
 
             「待て、待て、待ってー!!克巳暴力ダメ、絶対ダメ!」
 
             振り上げられた腕に飛びついたのは、正に危機一髪ってやつだった。もう少し遅けれ
 
             ば、明らかに体格差のある彼、吹っ飛んでるって!
 
             「朝も早いことだし、穏便に、ホントマジ穏便に。彼も余計なこと言わないで帰って
 
              下さい、ね?」
 
             「あんたにっ!」
 
             「喋るな」
 
             叫びかけて睨まれて、ようやく彼もおとなしくうなだれる。
 
             お願いだからそのまんま、問題起こさずに出てってねー。二度目はあたし、この人止
 
             める自信ないんです。
 
             無言で寝室を出て行った2人を見送って、ため息と共にベッドにダイブするとどっと
 
             疲労が襲ってきた。
 
             もうホント、痴話げんかに巻き込まれるのはごめんです。自分が当事者になるコトな
 
             んて一生無いと思ってたから、油断してたわ…。
 
             人肌無いと寂しい時もあるけど、たまにへこたれちゃうかもだけど、克巳と寝るのは
 
             もうやめよう。うん、そうしよう。
 
 
 
だーくへぶん  だーくのべる  
 
 
           ちょいと闇らしい展開になる、予定。                       
               この先は怖いかも、よ(笑)?         
 
 
 
             
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