3.
 
             鳴り響くチャイムに、同じだけうるさい二日酔いが悲鳴を上げている。
 
             薄目を開けて壁の時計を確認すれば、まだ9時〜?
 
             土曜日の、しかも克巳が夜の仕事だって知ってる友人が訊ねてくる時間じゃない。
 
             あたしの友達は会社の同僚限定で、住所は教えてない。プライベートで仲がいい連中
 
             は床の上で熟睡中とくれば、勧誘かな?にしては時間が早いよなぁ…。
 
             克巳はこの程度じゃ起きることはない。ミオさんは寝起きが異常に悪いし、畑野さん
 
             はお酒が入ると昼まで寝てる人。
 
             あたしもシカトしちゃおうっと。
 
             『リンゴーン…リンゴーンっ!リンリンゴーン!!』
 
             だーっ!うっさい!!
 
             いい加減諦めろってーのに、起きる気ないって分かんない?!
 
             克巳好みの荘厳なチャイムは安眠妨害に最適なのよ。本人は聞いてもいないくせにど
 
             うしてこう騒々しい音を選んだかな?
 
             短気な人間が押してるのか、忙しないリズムで鳴り響く騒音にとうとうあたしは立ち
 
             上がらざる得なくなった。
 
             目が覚めちゃったじゃないのよ!くだらない理由ならぶっ飛ばしてやる。
 
             あたしを挟むように眠る二人を起こさないように、通路を塞いで大の字に横たわる畑
 
             野さんを蹴り飛ばさないように、余計な神経まで使わされて怒りはマックスだった。
 
             「何よ!」
 
             外開きのドアを、ぶち当たれば爽快だろうと思いながら勢いよく開く。
 
             「うわっ!」
 
             ちっ、避けたか。
 
             手応えのないノブに舌打ちをして、非常識な訪問人を見たあたしは思わずドアを閉め
 
             ていた。
 
             ………老けてたわね…違う成長したと言うべきか…そうじゃないどうしてここいにる
 
             んだろ…一人だった?…つーか何してるんだアイツは。
 
             意外通り越して、厚顔無恥な行いに感心できるってものよ。
 
             いてはいけない人間が、この向こうにいる。
 
             一瞬の邂逅でも見間違うはずのない男が、何故だかあたしを訪ねてる。
 
             理由は定かでないけれど、来ちゃったものはしょうがない。むかつく顔だが、しつこ
 
             く呼び鈴を鳴らす無神経野郎じゃ話もせずに帰るとは思いがたい。
 
             イライラと髪をかき回しながら、再び鋼鉄のドアを押し開くと、眉をしかめた誠が突
 
             っ立っていた。
 
             「何ですか?」
 
             18年、一時は恋愛感情さえも抱いた幼なじみは、克巳に代表される無駄に綺麗な人
 
             間を眺めて過ごしたせいか、薄ぼんやりした間抜けヤローに見えた。
 
             「話があって来た」
 
             ぶっきらぼうな物言いが格好いいと錯覚した、10代の自分を説教したいくらいよ。
 
             これはね、失礼って言うの。さけられまくった半年を歯牙にもかけず、8年経って
 
             も親しい幼なじみと勘違いしてモノが言えるバカが、いい男なわけないでしょ?
 
             「連絡もせず、いきなり訊ねられても困るんですが?」
 
             「別に構わないだろ?長い付き合いなんだ」
 
             「はぁ?」
 
             心底呆れると、マシな言葉は出なくなるらしい。
 
             8年まともに言葉を交わしてなくても、長い付き合いなのねぇ…それとも自分に都
 
             合がいいように時間がねじ曲がるとでも?
 
             「悪いんですけど、同居人も友人も爆睡中なんでお引き取り頂けます?」
 
             慇懃無礼に申しつけると、会話は終わりとばかりノブを引いた。
 
             たまの休日、バカの相手をして終える気はないのよ。
 
             「わざわざ来たのに、なんて言いぐさだよ」
 
             閉じかけたドアに、つま先をねじ込んだ誠がほざいた。
 
             マジ切れしそう…いいかな、切れても。
 
             「他人の家を訪ねる為のイロハを、ママに教わってから出直すのね」
 
             ふんと鼻で笑ってやれば、醜悪に歪んだ顔に赤みが差し、ドアを押し開く勢いが強く
 
             なる。
 
             あら、失敗しちゃったかしら?火に油を注いじゃったわ。
 
             などと悠長に構えてる場合じゃない。この事態、どう収集つけるのよ!
 
             引いても引いても、頑として動かないどころかジリジリ負けてるじゃない。
 
             こーなりゃ一か八か、起きなきゃ呪ってやる!
 
             「克巳ー!!ミオさん、畑野さーん!!」
 
             ……沈黙……。
 
             えーえー、あいつらに期待したあたしが悪いのよ。でもね、大事な友人のピンチを見
 
             過ごすようじゃ、万死に値するわ!
 
             「克巳!来ないとお客にあることあることばらすわよ!ミオさん!店に押しかけて百
 
              合宣言しちゃうんだから!畑野さーん!大事なお道具燃やすわよ!」
 
             しばし静寂、後騒音。
 
             「お前、あることあることって全部真実かよ!」
         
             当たり前じゃない、嘘言ってなんになるの。
 
             「大歓迎よー、繭がオッケーしてくれるなんて嬉しいわ」
 
             ミオさんのは…外したか。ま、起きたならよし!
 
             「勘弁してくれ。給料の大半をつぎ込んでるんだぞ」
 
             畑野さん…アンタSMに人生かけるのどうかと思うよ、マジで。
 
             ともあれ、援軍は揃った。後は協力してこのバカ閉め出すのよ。
 
             「で、こいつ誰?」
 
             半身を室内に入れて踏ん張っている誠を、無造作に近づいた克巳が指さしている。
 
             近づく前に聞いたらどうなのよ。
 
             「実家の隣に住んでる無神経男よ!」
 
             それより、ドアー!!
 
             「…どうしているの?」
 
             正体に思い当たったミオさんが、呑気に質問をぶつけてくるけど、答えられる余裕は
 
             ないってば。
 
             「約束でもしてたのか?」
 
             「この状況見てなんでそんな言葉が出てくるのよ!」
 
             ムチでぶつわよ?!
 
             「よくわかんねーけど、入れば?」
 
             勢いよくノブからあたしを引っぺがした克巳が、誠に入室許可を出しちゃった。
 
             マジ?ってかどーして?
 
             「お前も朝から無駄な運動してねーで、さっさと通しゃよかったのに」
 
             すれ違いざま、人の首根っこを捕まえて言う言葉なの?
 
             そのままズルズル引きずられて、納得いかないあたしは訳知り顔のミオさんと畑野さ
 
             んに余計混乱したわけだ。
 
             わっかんない連中だわぁ…。
 
 
 
だーくへぶん  だーくのべる  
 
 
           何を考えているんでしょうね、アブノーマル3人組は。               
               想像がすぐつきそうだな(笑)。        
 
 
 
             
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