16.
 
             いつもの光景よ、何も変わっちゃいないわ。
 
             上半身裸の克巳と眠るなんて日常茶飯事、決して珍しくもない行動。
 
             なのに広いベッドの上、シーツの波間で気怠げな彼に固まったままのあたしは近づけ
 
             ない。交通標識の如く立ちつくし、緊張でダラダラ流れる汗もそのままに凄みのある
 
             ほど艶めいた表情を眺めて硬直してるって寸法よ。
 
             「どうした?傷が痛むのか?」
 
             …わかってるくせに、口では心配を語るのに目が笑ってるの。
 
             からかってるのね、26才バージン、吐き癖のある女をバカにすると怖いんだから!
 
             「ミオさんと寝る」
 
             勢いつけて踵を返したあたしは、追っかけてきた声に再び凍り付いた。
 
             「初めての相手は男の方がいいんじゃねぇ?」
 
             「……あっちの部屋も危険がいっぱい?」
 
             引きつり顔で振り向くと、当然と頷いた克巳はお布団をめくっておいでと手招き。
 
             「繭に与えられた安全地帯はここだけだ。諦めて来いよ」
 
             前門虎、後門の狼。レズも怖い、サドも嫌、でも克巳の傍が一番危ないじゃない…。
 
             躊躇、なんて生やさしいもんじゃないわよ。アレは元々行く気があるけど躊躇ってん
 
             だから。この場合は勇気とか度胸とか、未知のものに挑戦する根性が試されてる。
 
             清水の舞台どころかランドマークタワーからダイビング、ね。
 
             「一つ、お願いがあるんだけど…」
 
             無駄とは知りつつもうひと足掻き。
 
             小首を傾げるお願いポーズで、可愛らしく微笑んで。
 
             「無理強いは、しないでね?」
 
             「あーわかった、わかった」
 
             めんどくさそうに手をヒラヒラさせて即答って、信憑性に欠けるじゃない。
 
             だけど空気は随分ほぐれていて、軽いジャブを交わしたせいか2人だけが良かったの
 
             か常と変わらぬ呑気なムードに、暖まったベッドへ踏み込のに勇気はいらなかった。
 
             「広ーい、スプリングが気持ちいい」
 
             大の字に寝ても余裕のスペースは、端っこにいさえすれば克巳と接触することはない
 
             と教えてくれる。
 
             うん、これなら安心。爆睡できそう。
 
             「定位置はここ、だろ?」
 
             伸びた腕に遠慮もなく引き寄せられれば、そこはあったかな胸の中。吐息の触れ合う
 
             腕枕な距離。
 
             「…無理強いしないって約束した」
 
             ちょっぴりふくれて目を上げて、喉奧で笑う克巳と額を合わせると甘い香りが鼻孔を
 
             掠めた。
 
             「久々、この匂い」
 
             「お前もおんなじ匂いだぞ」
 
             それは立ち寄った雑貨屋で手に入れたココナッツソープで、彼と共有するアメニティ。
 
             立ち上る芳香は南国の風を運ぶけど、各々の体臭と絡んで克巳からはチョコレートに
 
             似たフレイバーが放たれる。
 
             「違うのよ、ビミョウにね。克巳だけの香りだわ」
 
             目を閉じて、深く吸い込んだ空気を奪う柔らかな唇に攫われて。
 
             「そう、だな。繭は甘い」
 
             首筋に鼻先を埋めた彼の声がくぐもった。
 
             骨に響くハスキーボイス、肌に走る微かな痛み。
 
             「…吐くわよ」
 
             「好きなだけ」
 
             脅しにも取り合わず、探る舌先は無用の熱心さで不快なぬめりを残して進む。
 
             こみ上げる嘔吐感に全身で拒絶を示すのに、覆い被さった体は頑として動かず追いつ
 
             められたあたしはパニックを起こして手足をばたつかせる。
 
             ダメ、これ以上は我慢できない。気持ち悪い、触らないで、熱を移さないで…。
 
             「本能に抵抗するな、理性を捨てろ」
 
             できるものならやってるわ。長年同居してきたおかしな病気が、決意一つで消えてな
 
             くなるわけないじゃない。
 
             喉元までせり上がる胃液に話すこともできず激しく首を振ると、耳朶を噛んだ唇が囁
 
             きを吹き込んだ。
 
             「好きだよ、愛してる。繭が大切だ、必要だ」
 
             深く、重い声。過去の男達も何度となく繰り返した甘い睦言。
 
             なのに、違う。克巳の言葉は決して鼓膜を素通りなんてしない。
 
             脳を麻痺させて全身の力を奪い、心臓を鷲づかみにして鼓動を止める。
 
             「快楽を求めるんじゃない、絆を確かめるんだ。肌を重ねて一つになりたいと願う。
 
              魂を溶かして全てを与える」
 
             奪うのではない、与えるのだと。引き裂くのでなく、壊して交わるのだと。
 
             「言葉は繭を抱きしめない。言い募っても熱は伝わらない。心が手に入っても確証が
 
              持てないから、体を繋げたくなる」
 
             精神と肉体、比例しているのに密接で、バランスを取るにはどちらをも不可欠で。
 
             はだけられた胸元が素肌の温もりを伝える。密着した熱が互いの鼓動を重ねて、伝え
 
             る。
 
             「克巳…」
 
             いつの間にか口がきけるほどに体は落ち着いていた。
 
             押さえようもなく募る愛しさを代弁するかの如く、ほろりと涙が頬を落ちる。
 
             「お前が嫌悪するのはセックスで、愛し合うことじゃない」
 
             絡んだ視線に微笑みを交わすと触れた唇に自ら深く舌を差し込んだ。
 
             もつれ、躍るように口内で遊ぶ。そこから全てが溶けて、一つになれたら良いのにと
 
             願いながら互いを与える。
 
             「ん、あ…」
 
             器用にボタンを外した指先が胸の頂きを嬲った。慈しむように優しく丁寧に何度も。
 
             「俺にも触れろよ。知らないとこなんか無いように、全部」
 
             吐息混じりの声に導かれ、おずおずと這わした手のひらで背をなぞる。肩に、腰にゆ
 
             っくりと存在を確かめて刻む。
 
             裸で抱き合う行為とは、こんなにも気持ちよく安らぎをくれるものだったんだ。
 
 
 
だーくへぶん  だーくのべる  
 
 
           一応切ってみたりして。                             
               そう言ったものは読みたくないんじゃ!少女マンガラブ!な彼女は次読んじゃダメよ(笑)。
 
 
 
             
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