15.
 
             最近の病院は長居をさせてくれない。
 
             怪我の具合がよろしくなったら否が応でも退院を迫られるのだ。
 
             「うふふ、今度のお家日当たりがいいのよぉ」
 
             ボストンに衣類なんかを詰め込んでたミオさんが、弾む声で教えてくれた。
 
             「マンションだけどな、稼ぎ手が多いおかげで広さも十分あるぞ」
 
             まだ自由に動かすには不便のある体に、ジャケット着せかけて克巳はほくほく顔だ。
 
             「説明するより見た方が早いだろ」
 
             淡泊に仰いますけど、晴れやかな笑顔ですな畑野さん。
 
             つまるところ3人は上機嫌で、鬱々としてるのはあたしだけなわけ。
 
             だって引っ越し終わってるのよ?みんなで住むのが決定事項で見たこともない場所で
 
             今日から寝起きしちゃうのよ?
 
             …そりゃ諦めてはいたけどさ、2週間も経たないうちに家移り完了、しかも宣言され
 
             てんのよねぇ、
 
             『俺たち(あたしたち)の中から恋人を選べよ』
 
             って。なんでよ、普通の人じゃどうしてダメなのよ。
 
             それを口に出したらば、
 
             『愛の深さ』
 
             ですって。うん、みんな好きだけどね、初エッチする相手が身内同然の人達限定、同
 
             居済みは結婚と同等の意味を持つ気がするわぁ。
 
             随分ディープな関係になったもんよね。
 
             「はい、ここが繭のお部屋〜」
 
             高層マンション23階、克巳のお店に徒歩で10分、日当たり良好景観最高の4LD
 
             K、ベランダに面した8畳ほどの広さ。
 
             持ち物は小物一つ残さず移されて住むには問題ない。
 
             …ただ一つ、見慣れない大きさのベッドを除けば。
 
             「シングルで充分なんだけど、あれキングサイズ?」
 
             部屋の大半を占める大きさのそれは、クイーン通り越してキング。大人4人充分転が
 
             れるほどに無駄なスペースが売りよ。
 
             狭い戸口に全員集合で覗き込む顔はあたし意外は満面の笑みってやつで、…ああ、裏
 
             がある。突拍子もないこと考えて、本能のおもむくままに行動したわね?
 
             「繭は克巳と一緒に寝てただろ?2人暮らしでそれなら今度はみんな一緒に寝るって
 
              言い出すんじゃないかと思ってな」
 
             「言いません。2人で充分寂しくないもん」
 
             「あら、あたしは寂しいわぁ」
        
             「じゃあ畑野さんとミオさんで寝たらいいじゃない」
 
             「俺とだけじゃ不公平だろ?人間平等じゃねえとな」
 
             「そんなら日替わりでいいでしょ」
 
             「2人で寝たら、襲うがいいか?」
 
             「あたしもー!」
 
             「…保護者はやめだ」
 
             狂ってる…アンタたちみんな変!
 
             目をギラギラさせてる畑野さんも、百合百合連呼してるミオさんも、急に人が変わっ
 
             たみたいな克巳も、ぜーったい変!
 
             保身を図るには4人で寝るのが安全だって言うの?
 
             「誰か1人があたしの恋人になるんじゃなかった?全員一緒じゃ牽制しあって無理よ」
 
             勝手に決めたくせに、結局あたしに独り身でいろってこと?
 
             怒鳴りつけると目を見交わした3人は、やっぱり邪なこと考えてニタリと笑うのだ。
 
             「この際3人とも恋人にしたらどうなんだ?」
 
             いやいやいや、目がマジだから、畑野さん。にじり寄らないで。
 
             「お得よー、サドにニューハーフにバイで女装癖のある恋人。これだけ相手にできる
 
              女の子はそうはいないんだから」
 
             きゃって、かわいこぶられても…まともなの1人もいないじゃない。
 
             「俺たちが寄ってたかったら、繭には刺激が強すぎるんじゃねぇか?」
 
             悪のりする2人を牽制して、克巳が難しい顔をした。
 
             そう、そうよ。あなただけはあたしの味方だと思ってたの!がつんと言ってやって頂
 
             戴、お馬鹿さん達に。
 
             「初めは1人ずつ相手をしてもらうってので、どうだ」
 
             ……………。
 
             「あたしは病み上がりなのよ!エッチもできるよう前向きに努力しようって決めたの
 
              もつい最近。いきなり相手を決めようっておかしいじゃない。そこ!じゃんけんと
 
              かしない!!」
 
             順番決めの『最初はぐー』をしていた彼等の顔は悲喜こもごも。チョキを出した2人
 
             がグーに負けたと大騒ぎ。
 
             「ま、妥当な線だよな」
 
             誇らしげに拳を見せつけた克巳を、殴れるだけの体力を下さい…。
 
 
 
だーくへぶん  だーくのべる  
 
 
           やっぱ、コメディ。                               
               初めはこんな感じだったしねぇ、しっくり(笑)。 
 
 
 
             
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