13.
 
             さて、この騒音をどうやって止めようかしらね…。
 
             泣き崩れる母親と、ぐだぐだお説教をする父親は、初めこそ愛だわっ!なんて感動も
 
             したけどこう続くと嫌がらせかと疑いたくなるしつこさで。
 
             あたしが怪我人だってわかってるんだろうか、ついでに8年ぶりの感動のご対面だっ
 
             て言うのは?
 
             それでも心配かけたから、3日もホテル住まいで迷惑かけたし、ってな甘ったるい感
 
             傷も吹き飛ばすことを口にしちゃったのよね、2人とも。
 
             「こんな男といたせいで、お前は死にかけたんだぞ!」
 
             「治ったら、家に帰るのよ?イヤだと言ってもダメですからね」
 
             …これは、ちょっと…。
 
             「その辺でストップして貰ってもいい?」
 
             際限なく喚いていそうな両親を黙らせて、吐息を一つ。
 
             「あたし、田舎に帰る気なんてないから。26にもなる娘の人生、勝手に決めないで
 
              ね?」
 
             途端、壁際の克巳から非難めいた視線が飛んでくるけど、無視よ。
 
             わかってるから、娘のためを思ってのセリフだって言うのは、痛いほど。でも、さっ
 
             きも言ったでしょ?克巳と、ミオさんや畑野さんと離れて暮らす気はさらさらないの。
 
             「バカ言うんじゃない!いくつになろうと娘は娘だ!」
 
             あーもう、青筋立てちゃって血管切れるわよ、お父さん。
 
             「そりゃそうよ。だけどどこで何をするかはあたし自身の選択でしょ?そもそも彼が
 
              あんなに思い詰めた原因は克巳じゃなくてあたしにあるの」
 
             「繭、それは…」
 
             咄嗟に割り込もうとした彼を挙げた手で押しとどめて、事件の起こる前の重い心を呼
 
             び寄せる。
 
             「ごめんね、お父さん、お母さん。あたし2人が思ってるほどいい子じゃないのよ。
 
              恋人のいる人のベッドで眠っちゃうような娘なの。彼がそれを目撃して、だからホ
 
              ントの被害者はあの人で、加害者はあたし」
 
             思いもかけなかったであろう告白に、両親の顔がこわばるのがわかった。
 
             でも、きちんと話さなきゃ。悪いのは克巳じゃない、自分が最も嫌悪してた行動に、
 
             気づかないふりで甘えてたあたし。
 
             「克巳は…この人は恋人じゃない、同居人。そっちでいろいろあって逃げるように出
 
              てきた都会であたしを助けてくれた人なの。居心地のいい部屋に、友人に、居場所
 
              全部克巳がくれて、いつの間にかどっぷり依存して、善悪の区別もつかなくなっち
 
              ゃったのね」
 
             キリキリ痛む傷がその罪を教えてくれる。禁忌だったはずの領域に『やましいことは
 
             ない』って言い訳て居座り続けた結果だと。
 
             「人の物を取ったらそれ相応の罰は覚悟しなくちゃいけないの。だから、克巳を責め
 
              ないで、やっと落ち着けたあたし居場所を取り上げないで」
 
             懇願する瞳から視線を逸らしたお父さんは、それでもと、小さく呟く。
 
             「彼は…その、同性が好きなんだろ?お前が傍にいても邪魔なだけじゃないのか?」
 
             あはは…心配は残るんだ、そう、そうだね。
 
             「大丈夫、克巳とは恋愛じゃないから。もっと深い、底の方で繋がってるの」
 
             漠然と、目覚めて2人で話してからずっと感じていたこの絆を、どう説明したらいい
 
             んだろう。
 
             もう一度確認するように克巳を見ると、彼も同じ色を纏って微笑んだ。
 
             崩れていく脆さはない、切れるような曖昧さとも違う、体の結びつきだけで表せるよ
 
             うな手軽なものでなく、心が求めるそんな関係。
 
             「世間的に体裁を整えた方がよろしければ、今すぐにも娘さんと結婚させて下さい」
 
             うまく形にならない言葉を引き取って、克巳が静かに口を開く。
 
             「もちろん、他の人とお付き合いをしたりはしません。一生彼女だけを守っていきま
 
              す。ただ、子供を作れと言われると少し困るんですが…」
 
             最後はあたしの問題なんだけどね、彼はそれを自分のせいだとも聞こえるあやふやさ
 
             で表現して、あっけにとられるお父さんに頭を下げる。
 
             「いや、それは…」
 
             「子供を作れないのは克巳のせいじゃない。誤解しないで」
 
             返事に窮する父親を牽制して、黙っていろと言わんばかりにきつい視線をくれた克巳
 
             を微笑みでかわして。
 
             「結婚する気はないわ。克巳と一緒にいるのに約束なんて必要ないもの。今度から一
 
              年に一度はきちんと帰る、もう心配させないって誓うから、ワガママを許してもら
 
              えない?」
 
             ためらいがありありとわかる顔で黙り込んだ2人は、やがて諦めを滲ませて小さく
 
             頷いてくれた。
 
             「…好きにしなさい。といってもこれまでもそうしてきたんだったな。ただ、こんな
 
              思いは2度とごめんだ。人様に恨みを買うことのないよう、真っ当に生きるのが条
 
              件だぞ」
 
             それはもう、肝に命じて!
 
             克巳と一緒に不可侵の誓いを立てて、未だ心配げな顔をするお母さんにもう一度謝っ
 
             て、あたしは今日失うことのない居場所を手に入れた。
 
 
 
だーくへぶん  だーくのべる  
 
 
           すいません…イマイチです…。                          
               次は畑野とミオが登場しますから。       
 
 
 
             
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