4.

私と克己と五月、ミオさんと畑野さんと誠、二組に分かれて座ったホテルのレストラン。
移動したのはいいけれど、このメンツどうなの?しかも正面に五月って食欲減退よねぇ。
ふんわりおいしそうなオムレツを前にため息をつく私なんてお構いなしで、送られるハンターの殺気が痛いったらもう。
それに比べて、
「ふふふ、また会えて嬉しいわぁ」
「よっ寄るな変態!」
「あらん、その変態にたっくさんいい思いさせて貰ったでしょ?」
「あれは、無理矢理」
「ほお…証拠がまだここに…」
「うわぁ!やめろ!!」
あっち、楽しそうだなぁ。混ぜてくれないかなぁ。
思わず隣のテーブルへと身を乗り出したらば、視界を邪魔するものがある。一見柔らかな笑みを浮かべて、恐ろしく苛立った内心を押し殺している、彼女。
「どうなってるのか、説明してくれるんじゃなかった?」
ええ、そう言ってここへ連れてきたんだったわね。忘れてないから、唇の端ひきつらせて笑われたら恐いのよ、やめて!
どうしてそんなに他人の事情が気になるんだか、本当のことを聞かない限り引き下がらない気満々の五月にこっちが聞きたいくらい。
チラリと見やった克己も同じ事を考えてたみたいで、苦笑しながらさっき廊下でした説明を再び繰り返す。
「だから繭と結婚するのはあの男で、俺とミオは別に2人の愛人とかじゃねえから」
「じゃあどうしてキスなんかしたの?しかも全員と」
「挨拶だろ、あんなもん」
くってかかる五月をいなして、またご飯を食べられる克己の神経の太さ…うらやましい。
私なんて私なんてっ…蛇に睨まれた蛙みたいに冷や汗だらだらだっていうのに!
飄々として責めどころのない克己より、既に怯えきってる獲物の方が口を割る確率は高いと見たか、五月はさっさとターゲットを変え、こちらに矢のような視線をよこした。
「挨拶でキスする日本人なんて、いないわよね?」
うん。
頷きそうになって慌てて首を振ると、もう笑えてるのかもわからないいっぱい顔で否定する。
「ここに、いるよ」
自分を指さして、もちろん心の中じゃいるわけないって喚き散らして。
3人共に溢れる愛情があるからこそ可能に決まってるじゃない!因みに誠や五月にキスする(される)なんて想像するだけで気分が悪くなるわ。
苦し紛れの言い訳は、真実が欠片もないのだからやはり敵の目を欺けず、鼻で笑った彼女にあっさり、
「嘘ばっかり」
と切り捨てられてしまう。嘘だけどさ嘘なんだけどね、言わせてもらえれば、
「五月には関係ない」
口をついた本音にはっとしても後の祭り。あからさまにむっとした表情を覗かせたのは一瞬で、すぐさま傷ついた顔の五月にひどいっと芝居をうたれてしまった。
「私、ただ繭ちゃんが心配だっただけなのよ?なのに…」
今にも泣き崩れそうな様子は、間違いなく克己を意識したものよね?できるなら斜め向こうの畑野さんの注意まで引けたらしめたもの、とか思ってるわよね?
そんなことしても無駄だって教えてあげるのが親切かしら。
騙す為に流す涙なら、ミオさんの方が余程上手だ。なにしろ言われなければ嵌められたって気づけないくらいだもの。
人の裏をかくことと、バカにすること、気持ちよく騙すことが倒錯世界の次に好きな畑野さんを出し抜く気なら、一流の詐欺師に弟子入りするところから始めた方がいい。
癖のあるお客さんが集まる店のマスターで、自称恋愛の達人の克己をこの程度でおとせるなら苦労はないわ。
でも教えたら機嫌が悪くなりそうだよね、触らぬ神に祟りなしってことでいこう。しかし、この先どうしたものか…本当のことを言ったことろで私の男を取りたいって言う五月の計画に変更はないだろうし、それならわざわざ一応トップシークレットな秘密を教えてやる必要もないし。
下手すると…変わり種の恋愛ができるって喜ばれる?めちゃめちゃ、いやなんだけど。
ああでもいっそ、返り討ちにされるのを見るのも面白い?
「はいはい、ごめんなさい。そんじゃ、五月の納得いくように畑野さんと克己とミオさんを…あ、ミオさんは女の人だから興味ないわよね」
「違うぞ!こいつは女じゃ…」
「なぁにぃ、ま・こ・と・くん?」
「…お、お美しい女性様でございます」
「そぉうよねぇ?」
途中入った邪魔に苦笑を浮かべつつ、この際と開き直って男性2人を人身御供に差し出すこととした。
「ともかく、納得いくまでこの人達と話してみて、ね?」
不機嫌に顔を顰めた畑野さんと意地悪く唇を歪めた克己は、どっからどうみても恋愛ゲームの商品としてふさわしくないと思うのだけど、言われた五月が満足した猫みたいに目を細めたからいいんじゃないかしら。
別にこの後彼女が自分史上最高の屈辱を味わおうが、焼けるような怒りに支配されようが、私の知った事じゃないわ。
関わっちゃいけない領域に首を突っ込んだのは、あんたなんだから。
「尋問するならあたし達はいない方がいいんじゃない?」
訳知り顔で立ち上がったミオさんの表情、綺麗な分恐かった。
楽しんでるし明らかに。ついでに五月にすっごく怒ってる。
彼女は私たちの中で一番、五月みたいな人間が嫌いなのよね。ちゃんと恋しているわけでもないのに、人の者を取って楽しむだけの人種が、男女問わず大嫌い。
本当なら自分でやりこめたいだろうけれど、今回はお呼びでないと言われたしまったものね。
その分視線だけで2人に命じている。
許してくれと泣き叫ぶまでやりなさい、と。手加減なんかしたら、殺すわよ?と。
どどど、どうして気づかないのかしら、五月は!
彼女の正面に座ってる誠なんか血の気が引いちゃってカタカタ震えてるじゃない、もちろん私だって顔引きつってるし。
「か、克己〜」
「おう、がんばれ。ある意味そっちも命がけだな」
見かけによらない馬鹿力で私と誠を引き摺っていくミオさんから救ってくれと頼んだのに、ひらひら手を振る克己は冷たかった。
ま、それも仕方ないよね。
うんざりって風に席を移っていく畑野さんも含め、決して楽しい時間を過ごせるわけないものね。
ほんと、お互いがんばろう…。



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