5.

ラウンジに誠つきで移動して珈琲で一息。
ああ、あっちどうなってるんだろうなぁ、気になるなぁ。
五月が相手であの2人がおちるってことはないだろうけど、会話内容にはとっても興味が…いえいえやっかいごとを押しつけた責任上、最後まで見届ける義務が…。
でもなにより気になるのは。
チラリと見やった先はどこがよかったのかわからなかった初恋の相手、誠。
「どうしてそう私を目の敵にするのかしら…?」
学生時代はともかく、とっくに縁の切れた現在になってもしつこく追いかけてくる理由がわからないのよね。
呟きにそうねぇと同意したミオさんも首を捻る。
「このお馬鹿さんがネタ晴らしをしちゃったのはわかるけれど、わざわざ宿泊先まで調べるなんてなにがしかの執念を感じちゃうわぁ」
ふふって、恐いよその笑顔。まだ怒りを引き摺っちゃってるんだ、自分で直接手を下せなかったものだから機嫌悪っ。
もちろん底冷えする雰囲気を察したのは私だけじゃない。びくっと本能的に逃げを打った誠もぎりぎりスツールに腰を残しながら、ぼそぼそ何事か言い始めた。
「…そりゃあ…あいつが惚れた相手がみんな…繭を好きだったのが気に入らないんだ」
「はい?!」
「あら、まぁ♪」
いきなり盛り上がったミオさんには悪いけど、なんの冗談なのやら。
うつむき加減で視線の合わない誠を疑惑の眼で眺めつつ、あり得ない告白をされた過去をじっくり振り返ってもそんな突飛な事実は思い出せないワケで。
明らかに容姿で言ったら彼女の方が上。性格だって裏表があったとはいえ、五月は人気者で私は一般人。
あの子が好きだと騒いでいたのはいつだって学校一のモテ男だから、その人達が私を好きってないでしょ、絶対。
けれど、はっきりしない調子で誠は続ける。
「中学の時の2個上、新居先輩っていたろ?あの人に告って、五月断られたんだけどさ、ついでにって聞かれたのがお前のことだったんだ」
そんな風に彼の挙げる名前は皆、もう飽きちゃったと彼女がある日突然乗り換えた人たちばかりで、もしこの話が本当なら不自然な心変わりには正当な理由が造ってもんなんだけど、でも。
「えらく都合のいい話よね。みんながみんな私のことを聞いたの?気になるのは君の友達の方だって?随分信憑性に欠けるじゃない」
自慢じゃないけどもてたことのない女なのよ。
鼻で笑う勢いだったけど、誠はムキになって否定するし黙って聞いてたミオさんも考え込む様子で味方をしてくれそうもない。
熟考するまでもなく、事実無根、荒唐無稽な四方山話だって理解してよ、お願いだから。
「うーん、まあ、過去振られたのは全部繭のせいだって言うのは大げさだけども、始めの二つは確かにそう断られたんじゃないかしら?」
期待とは裏切られるもので、だけど今度は幾ばくか信用度が上がっているのは確か。
そのくらいならば、あるかもしれないじゃない?うぬぼれてるわけでも、身の程知らずでもなく、断る理由を考えつかなかったから手近にいる人間をダシに使ったのかも知れないでしょ。
後に私が…友情がどうなるのか想像もしない愚か者なら口にするかも知れない一言だわ。
頭から否定することもできない微妙な線を突かれ、一瞬思考の海に沈んだ隙にミオさんは独自の見解を展開し始める。
楽しそうに、はしゃいだ調子でね。
「あたし個人の見解を言わせてもらえれば、五月って子は別に人目を引くタイプじゃないわよ?多少キレイ程度の女ってだけで、オーラがないのよね」
「あ、それわかります。確かに可愛いけど、それだけですよね。化粧してればあのレベルっていっぱいいますから」
「自分のこと棚上げして、偉そうに言っちゃダメよぉ?見破って威張るのは格好いいけどすっかり罠に嵌った後言い分けてもお粗末な頭の中身を露呈するだけなんだからぁ」
何故か敬語でしゃしゃり出た誠は、いともあっさり返り討ちにあって、それによって幾ばくかのストレスを解消したミオさんは黒くない柔らかな笑みを見せた。
項垂れて醒めた珈琲を啜る男は、すっかり視界から削除して、私だけを見てね、
「その点繭は、妙に目立つのよ。1人でやれるって意地になる子どもみたいでね、目を離すととんでもないことするんじゃないかしらって、どうしても見守っちゃうの」
そんな風に思うの、3人だけだと思う。というより、ちっとも人に好かれる理由にならないんじゃない?
ところがミオさんはうんうん頷いてる誠を今度はいじめたりしないで、手近な同意者がいたとばかり微笑んで発言を許す。
「お前は可愛いんだよな。見た目じゃなくて言動とか間抜けな行動とかさ」
「その通りね。でも、あたしの繭を『お前』呼ばわりしたり『間抜け』なんていったら、しめるわよ?」
「す、すいません…」
やっぱり、いじめられちゃっうんだ、はは…。
「とにかく、強烈な彼女が繭を恨む理由はやっぱり男絡みってこと。克己と畑野をターゲットにしたのは大間違いだと思うけど」
真偽はともかく、結論はよ〜く理解できたわ。
すっかり怯え姿勢が身に付いた誠からも、状況を楽しんでるミオさんからも同じ事言われちゃったから。
「そうなると、気になるね、あっち」
「すっごくね」
「ホントですね」
何故か声を潜めて、女性相手にも容赦ない2人が五月にどんな対応をしているか、みんなで想像を巡らせてみたりして。ああ、知りたい…。



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