2.
 
 
        我が親ながら、情けなくて涙が出てくるわ。
 
        「そうか、畑野君はエリートなんだな」
 
        結婚の挨拶に行くのは、繭と畑野、二人だけがいいわってミオさんに送り出されたことはちょっ
 
        と不満だった。
 
        ホントはみんなと結婚するのよ?表向きは畑野さんの奥さんになるのかも知れないけど、友人代
 
        表でもなんでもいいから、克巳とミオさんも連れて来たかったのに、なのに。
 
        「少し前、繭はロクでもない男に引っかかっていましてね」
 
        ほろ酔いどころか飲み過ぎ一歩手前のお父さんの口は軽い。そりゃあもう、羽でもはえてんじゃ
 
        なかろうかと思うくらい飛ぶ飛ぶ、飛ばしすぎ。
 
        「そいつのおかげで死にかけたってのに、コトもあろうかずっと一緒にいたいなどと抜かしまし
 
         て、どうなることかと頭を痛めていたんですわ」
 
        「お父さん!」
 
        「あなた、それくらいで…」
 
        ご機嫌で喋り続けるのを、あたしとお母さん、それぞれが別の意図を持って止めに入った。
 
        顔色と畑野さんを窺う視線を見れば、お母さんが何を考えてるのかなんて一目瞭然。
 
        過去の悪行を知って、せっかくつかまえた男が逃げないか心配してるのよね。確かに普通の婚約
 
        者にこんな話をしたら、よくてケンカ、最悪破談でしょうよ。畑野さん相手じゃ、それは杞憂だ
 
        けどね。
 
        でもだからって、今の発言は到底許せないから。
 
        初めから、面白くはなかったのよ。克巳とあれだけの騒ぎを起こしたあたしが、きちんとスーツ
 
        着て、どうみてもサラリーマンにしか見えない畑野さんを連れて現れた途端、顔をほころばせた
 
        態度が。
 
        電話で結婚したい人と一緒に帰るって言った時、明らかに渋っていたくせに相手がきちんとした
 
        社会人だとわかった途端豹変するってなんなのよ。
 
        更に畑野さんが勤めてる先を聞いて、もう下にも置かない扱いってどうなの?いきなりお寿司は
 
        とるし、とっておきの大吟醸は出すし、なんて現金でしょ?!
 
        あたしにとって3人は肩書きも何も関係なしの大事な人達なのに、どうしてそんなモノだけで判
 
        断しようとするの?この人と結婚したいって言った娘の顔をよく見て。どことなく寂しげで、も
 
        っと言うなら不満げじゃなかったかしら?後二人、重要人物が足らないんだから、当然なの。
 
        で、怒りもマックスになってしまったからこの際バラしてしまおうか、と立ち上がりかけたとこ
 
        ろを畑野さんに捕まった。
 
        「落ち着け、繭。覚悟していたことだろう?」
 
        密やかな声に一瞬詰まるけど、やっぱり飲み込めない。そう言う問題じゃないだもの。
 
        「だからって我慢できないわよ。わかったって言ったくせに、畑野さんとの話が出た途端、克巳
 
         を悪く言うなんて!」
 
        「ご両親の立場なら当然だろう。あの世代に俺たちが受け入れられると思う方が、どうかしてる」
 
        「それは…そうかもだけど…」
 
        あたしが知る彼等の現実は確かに、そうだった。あの店に集う人達は大抵『田舎を出てきた』
 
        『両親には話していない』って言うのよね。中には理解を得られた幸せな人がいることもあるけ
 
        ど、克巳が、ミオさんがそうであるように絶縁される人がほとんど。
 
        もちろん頭ではわかってるのよ?ムリだって、ね。でも、自分の両親だけはそんなことないって
 
        信じたかったのに。
 
        「…ごめんね…畑野さんのこと、ちゃんと見てくれない人達で…」
 
        お父さんもお母さんも、彼に社会的な質問以外、してないのよ。
 
        趣味はなんなのか、とか。どんな本を読むのか、とか。内面に触れることを少しも聞いてくれな
 
        い。二人にとって畑野さんは、娘の将来を安泰にしてくれる婿、それしか価値がないみたいじゃ
 
        ない。
 
        「構わんさ。深く突っ込まれると、俺もぼろが出るからな」
 
        喉の奧、低く笑ってコップ酒を煽る姿が、ちょっぴり恐かったりして。まあ「奴隷をいたぶり倒
 
        すのが好きですね」とか趣味を吐露されても困るんだけどね。
 
        「もうしばらく大人しくしていろ。あの調子じゃ、そう時間をおかずに潰れるだろう」
 
        握りしめた掌に自分の大きな手を重ねて、虚ろになってきたお父さんをチラリと見やった彼はい
 
        つもの数倍格好良く、頼りがい満タンに見える。
 
        「ほら、力を抜いて。爪が食い込んでいるぞ」
 
        そっと開かせた指を辿って紅潮した肌を撫でる指も、どことなくエロくさい動きで。
 
        「…フェロモン、垂れ流し」
 
        「誘惑してるからな」
 
        臆面なく言うからきっと、ペンキでも被ったみたいにあたしの顔は赤かったに違いない。
 
        忘れがちなんだけど、伴侶に選んだ彼等は世間一般の基準で言えば特上クラスで、スペシャルで
 
        エクセレントで比類無きって感じなワケで、時々思い出して倒れそうになるのよ。
 
        「今晩は…俺たち二人で一部屋だったろう?」
 
        腰砕けになるの計算して吹き込んでくる声、とかね。姿形だけでなく、てくにっくっていうの?
 
        なにぶん初心者なのでよくわかりませんがそんじょそこらの遊び人じゃ裸足で逃げ出すセリフや
 
        行動を、サラリと下さる人達なのだ。
 
        「こここ、こんな、おお、親のいるところ…でっ!」
 
        逃げようにもさり気なく腰に回された腕がそれを許さない。もちろん、掌だって捕らわれたまま
 
        で、柔らかな皮膚を執拗に撫で回しながら故意にスカートの隙間、内股をなぞったりもする。
 
        「逃げてみろよ。繭の言うこんな場所で、ご両親に気づかれることなく上手にな」
 
        できないの知ってて、すっごく楽しそう。強引なのに優しい畑野さんが、むかつく。
 
        「ムリ」
 
        「そうか。それならせいぜいばれないように、笑顔でもつくっておけ」
 
        大したことじゃないだろって、嘘でしょ?!
 
        もう彼は、こっちを見ていない。外向きの微笑みで、酔っぱらいの戯言や母の下世話な質問攻め
 
        に付き合って…器用にあたしの体をまさぐってる。
 
        どうでもいい話しの合間にスカートに潜った指を掴むけれど少しだけ遅くて、きつく与えられた
 
        快楽に短い悲鳴が喉を突いた。
 
        「どうかしたの?」
 
        訝しむお母さんに何をされているか知られるわけにはいかない。絶対、いかないんだから!
 
        「なんでもないの!ちょっと足が痺れちゃ…!って…」
 
        やめてと叫べないのをいいことに、畑野さんは楽しげにイタズラを続けていて、人が会話中だろ
 
        うとお構いなしでどんどんどんどんエスカレートしちゃって…。
 
        「足、崩せばいいじゃないの。自分の家なんだし」
 
        「そうだな。ほら、こうすれば辛くないだろ?」
 
        ぐいっと膝頭を割った手が、より深く入り込んだの時には後の祭りよ。
 
        これから先の時間、耐えていなきゃならいって決定。だから、両親の不愉快であろう態度も声も、
 
        あたしは全く記憶に留めることができなかった。
 
 
 
        「んんっ…はぁ…」
 
        「仕方ない奴だな。ホテルまで、待てないのか?」
 
        そっくりそのセリフ、お返しするわよ!!
 
        帰りの車の中、まともな判断力なんかとうに手放したあたしをまだ嬲って、挙げ句に人通りのな
 
        い駐車スペースで嬉々として仕上げにかかろうって男がそれを言う?!
 
        スーツもブラウスもボタンは全てはずされて、ブラもずり上がってるキャミソールもまくれ上が
 
        ってる。スカートはお腹の辺りでくたっとたまっちゃってるし、下着なんかストッキングと一緒
 
        にどこにいったのかもわかんないわ。
 
        「露出狂みたいな格好だな」
 
        「畑野さんが…やったんじゃない…」
 
        楽しそうに片手運転で、ついでに飲酒運転で。お巡りさんがいたら立派に犯罪を立証してもらえ
 
        るわよ。
 
        「仕方ないだろう?必死に我慢する繭は可愛かったからな」
 
        楽しげに覆い被さる彼は、深く口づけた後首筋へと舌を這わせていく。
 
        その巧みな動きに翻弄される前に、あたしには言わなきゃいけないことがあるのよ。どうしても、
 
        今、ね。
 
        「…趣味、だけじゃなかった、くせにっ…!」
 
        剥き出しの胸の頂きをきつく摘まれて、浅く鋭く息を吸い込みながら蠢く髪をきつく掴んだ。
 
        「あたしが…両親の声を聞かなくてもいいように…あ…計算したんでしょ…はぁ…」
 
        ちょっと大人しくしてくれたらいいのに。
 
        言いたいことなどわかっているくせに、止まらない。ううん、わかっているからこそ、止まらな
 
        い。
 
        「なんのことだ?俺は欲求を満たしていただけだが」
 
        素直じゃないんだから。自分が善人だって認めるの、そんなにイヤなのかしら?
 
        「いいの…あたしが、言いたいだけ。…ありがっ!!」
 
        言葉は途中で打ち消される。
 
        見計らったタイミングで潜り込むから。それでも足りないかも知れないと、激しくキスでふさぐ
 
        から。
 
        「いい声で啼いてくれたら、それが褒美だな」
 
        くつくつと笑って、この人の余裕は繋がってる最中でも消えない。
 
 
 
だーくへぶん  だーくのべる  
 
 
           …飲酒運転はやめた方がいいと思うの。罰金高いしね…簡易裁判所は何度も行きたい場所じゃないよ。 
               つーか、なんでカー○ックス(笑)。
 
 
 
             
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