6.「困ったものだな」アスカ&青



それは、些細なこと。
出かける前は必ず僕に行き先を告げてゆく彼女が、玄関から声を上げただけですまそうとした、それだけ。
なのに僕のセンサーは何かをキャッチして、編み上げのブーツに手こずるアスカを逃げられる前に引き留める。
「…それ、どうしたの?」
案の定、知らない光が愛しい少女を飾っていた。
安っぽい銀の鎖を通した、けれどアスカが好きなパールをたくさんつけたそれが耳元で揺れる。
自分で新しく買ったのなら、喜び勇んで報告したはずだ。言わずにこっそり身につけて出かけようとする理由なんて、一つしかないだろ?
「えーっと、買ったの、昨日」
「塾の日だったのに?そんな時間なかったよね。しかも僕が迎えに行ったんだから、アスカが買い物をしたかどうかはすぐわかる」
しまったと視線を外すから、すぐ嘘はばれるのに。
まるで子供な(実際14歳なんて子供か)君が一生懸命僕を振り回そうとする様が大好きだと言ったら、当分口をきいてもらえないだろうか。
年甲斐もなく夢中だと、知らないアスカがいることに我慢がならないと言ったら?
「誰にもらったの?」
分かり切った答えをわざわざ問うと、僅かな沈黙を挟んで聞いたことのない男の名が彼女の唇から零れる。
「でも、ただのプレゼントだって言ってたよ」
「下心なく贈り物する男なんているわけないだろ」
「…あーちゃんは、ないでしょ?いっぱいくれるけど、アスカに何かしろなんて言わないもん」
無知というより純粋が過ぎるよ、君は。膨れて見せたって僕だって、例外じゃない。
「待ってるんだ、後2年。指折り数えて、アスカの全部を奪う日を」
引き寄せて、僕に唯一許されている唇を思うさま貪って、よからぬ想像で盛り上がりすぎた気持ちをゆっくり静める。
油断しちゃ、ダメだ。かなりの耐久性を持つ僕の理性だって、完璧じゃない。
「そんな顔して、誘うんじゃないよ」
くたりと体を預けてくるアスカに囁いた声は掠れ、余裕ない体はいっぱいいっぱい。
「待つことなんて、ないのに…」
過激なことを言う。
困ったものだ、このお姫様は。


NOVEL

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送