3.「おめでとう、よかったね」春菜&秋



募った気持ちを伝え切るには全然足らないキスだけど、取りあえずの満足を得た俺はゆっくり春ちゃんから離れる。
鼻の頭にちょこんと乗ったメガネが、たまんない。
トロンととろけた瞳も、薄く開いた真っ赤な唇も、たまらなくそそる。
本人はキレイじゃないと嘆いてたけど、春ちゃんみたいのは可愛いって言うんだ。
腕にすっぽり収まっちまう小さな体、2つも上のくせに全然子供っぽい表情、純情で純粋でうっかりなとこもほっとけない。
俺が知ってるどの女よりか弱いくせに、大事なとこは譲らない。
流されて俺と付き合わなかったのがいい証拠だろ?
どんなに攻め込んでも、彼女の城壁は絶対崩れなかったんだ。
「秋、くん…」
だけど、今、春ちゃんの全部は俺のモノ。
甘く呼ぶ声も、ふわりと綻ぶ笑顔もみんなみんな。
「春ちゃん!!」
嬉しいから、抱きしめとこ。ぎゅっと、力一杯。
「く、苦しいよ」
「ごめん!」
調子に乗りすぎたと慌てて離れて(もちろん、掌は肩を包んだままだけど)覗き込んだ先でめっと叱る表情が…だめだ、俺もだえ死ぬかも。
「春ちゃんが可愛すぎるのがいけないんだよ」
理性をぶっ飛ばす彼女は、けれど一瞬で顔を曇らせた。
「嘘は、嫌いよ」
なあ、頑なな春ちゃんに君はすっげえ俺好みって言ったら信じてくれるかな?
…無理だよな、そうだよな…じゃあ。
「嘘じゃない。ほら、こうしたらさ」
ひとつに引っ詰められてた髪を、飾り気のないゴムの呪縛から解き放つ。
癖があるからって春ちゃんはいやがるけど、こうするとアスカとはるくらいお人形さん度がアップすんだぜ。
仕上げにメガネを奪って姿見までいっぱいに近づいて、
「な、可愛くない?」
「…えー…」
芳しくない返事だな。
鏡越しに見える表情も半信半疑、自信を付けるには全然遠い。
けど、
「いいんだよ、俺はこの春ちゃんが一番好きだから」
背後から囁いたら、指先を通して全身の緊張が解けるのがわかった。瞳にちらりと嬉しそうな光が宿るのも。
「じゃあ、できるだけこうしているわ。コンタクト、一緒に買いに行ってね?」
はにかむ笑顔、いいな。好きな子が自分の為に努力してくれるって言ってくれる気持ちが、嬉しい。
「いいんだ。春ちゃんは変わんないで」
だけど好きなのは外見じゃないんだよ。春ちゃんが春ちゃんだから、俺は好きなんだ。
「…ありがとう、秋くん。そうだ、言い忘れてた。合格、おめでとう」
この一言と初めて彼女がくれたキス、頬に触れるだけのそれでもこれまでの努力は報われた。
幸せな色に包まれて、俺って世界一の幸せ者?



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