27.「勝手にしやがれ」


つくづく、純太くんって根回しの上手い世渡り上手だと思う。
公言通り私の卒業と同時に学校をやめた彼は、すぐさま華麗なる転職を果たしたの。
青くんのトコへ。
外堀から埋めちゃおうかなって姑息なことを考えて、アスカちゃんの家へ一度一緒に行ったんだけど、どうやらそこで 話はできていたみたいで。もともと理数系強くて情報工学まで学んできた純太くんは、しっかり青くんに自分を売り込んで たみたい。
出来高制で構わないって雇って貰って、半年で充分な成果を出して、至る本日。
「というわけで、森山くんの人格および能力は僕が全面的に保証するから」
星野家全員集合in居間。さして広くはないこの場所に、身内が一同に会しちゃっているのはとっても珍しい光景だわ。
それと、中央で腕組みする緑おじさんに、青くんが他人を売り込んでいるっていうのも本当、貴重な映像。
一番のくせ者で一番の辛口を自負する弟にこうまで言い切られたんでは、おじさんは突っ込むこともできず黙り。
「あのね、青くん帰ってくるといつも純太くんのこと褒めてるんだよ」
その上、未だ最愛の娘であるアスカちゃんが請け合っちゃったら、形勢は断然に有利なの。
だってね、おじさんてば恥ずかしげもなく公言してるのよ、『家の娘達は世界で一番可愛い』って。
「ボタンの壊滅的だった数学が人並みになったもの、先生のおかげだよね。根気よく丁寧に教えてくれたんだもん。おかげ で卒業もできたし」
だから、ハルカにまでこう言われたら、おじさんは陥落寸前です。なんだかんだとハルカの願いを叶えるため奔走する おじさんを、私は何度も見て知ってるから。…プライド高いから絶対人前ではそんな素振り見せないけどね。
「ちゃんと節度あるお付き合いしてたぞ」
「うん。9時前には必ず家へ送り届けてくれたしね」
そして、自分の留守中それとなく監視を頼んでいる秋くんと静くんが請け合ってくれれば、99%オッケーが出るのは 確実で。
「アスカとハルカが保証してくれれば安心ね」
「男性陣が誰1人反対していないって言うのも、すごいことよ」
最愛の奥さんと最愛の妹がダブルでダメ押ししてくれたらパーフェクト!
眉間に寄せられていた皺がゆっくりと消えて、おじさんは重い口を開く。
「まあ、住むのもアスカと同じマンションだと言うし、週に一度は必ず顔を見せるのなら、ボタンを預けてもいいぞ」
「それは、必ず。毎日でも僕は構いません」
「あはは、毎日はないけど、でも2,3回は確実にきちゃうと思う」
と、確約すればこれにて一件落着。
じゃ、お祝いねっておばさんとお母さんはお台所に消え、アスカちゃんとハルカは式場はどこにするかで大騒ぎ。秋くん と静くんは新たに加わる家族に興味津々で質問をぶつけまくって、緑おじさんがとうとうハルカ1人になってしまったと 小さく嘆くのを青くんがまあまあと宥めてる。
最難関だった緑おじさんを説得できたことで私と純太くんはすっかり肩の力を抜いてしまっていて、結婚てやっぱり大変 だけど嬉しいねなんて幸せな目配せをしていたから忘れていた。
「おい、待って!父親は俺なんだけど?!」
いつも、存在感がないのが悪いと思うのね。なんか、この家に来るともともと希薄なお父さんが、尚一層影なくなるって 言うか、その…。
「ご、ごめんね。その、私たち結婚するから」
「よろしくお願いします、お父さん」
とってつけたような挨拶じゃ、やっぱり気に入らなかったみたい。
「ひっでぇ…いいよ、いいさ、勝手にしやがれっ」
すっかり壁を剥いて拗ねちゃった、日本屈指の有名人はだけどやっぱり憐れまれることは少ないの。
「へぇ、拗ねてる片桐薫か…週刊誌に売ったら買ってくれるかな」
「結構いけんじゃね?」
「こんな男じゃ、二束三文だろうがな」
「幻想が砕け散って世のため人のためかもね」
年月を経て、お父さんをいじめる事に快感を覚えてしまう男性が増えたとか、増えなかったとか…。


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