25.「どうしてそんな哀しいことを言う」


「本当に、いいの?」
「うん。もう決めたから」
いつも冷静で困った時には誰より頼りになる従姉妹で親友なハルカが、泣いている。
ハラハラと散る雫があることにも気付かず、微笑みさえ浮かべながら。

お父さんが教えてくれた工藤さんの留学の話がどうしても気になって、適当な口実を持ってハルカの部屋を訪れると、 笑顔で迎え入れてくれた彼女はいつになく饒舌だった。
間近に迫った卒業、続く新生活、旅立ってしまう恋人のことなど忘れてしまったかのようにはしゃいだ声でまくし立てて、 そんな姿に拭えなかった違和感が頂点に達した頃、ふと押し黙る。
「ハルカ?」
「工藤さんのイタリア行き、知ってるから来たんでしょ?」
覗き込んだ目には、揺るぎない決意めいたものが垣間見えて、私を口ごもらせた。
誰かを頼ることが苦手なハルカは、もう決めちゃったんだね。どうするのか、いっぱい悩んで。
赤くなった目が腫れた瞼がそれを教えてくれているから、恐いの。最悪の選択はしてない、よね?最善の方法を選んだ んだよね?
しばし躊躇してから黙って頷くと、彼女はまるで憑きものが落ちたみたいに肩の力を抜いた。
緩んだ幼く見える表情をして、自己防衛のための仮面を剥いだハルカは静かに決意を声にする。
「一緒に行こうって、言ってくれたの。でもね…行かない。あたしは、残る」
一言一言噛みしめて自分に納得させるような、口調。中空の一点を見つめる瞳に迷いはなくて。
「どうして…やだよ、そんなの。だって、ハルカ行って欲しくないんでしょ?一緒にいたいんでしょ?なのになんで、 そんな哀しいこと言うの?行けばいいじゃない!」
無理してるのわかりすぎるって腕を引いたら、だってっと彼女は笑う。
「夏来さんは勉強するためにわざわざ外国に行くんだよ。でも、あたしにはそんな目標はないから、寂しいとか辛いとか ダイレクトに感じる全部を彼にぶつけちゃう。初めのうちは慰めて慰められてそれが支え合うことだって勘違いしそう だけど、時間が経つにつれあたしが夏来さんの邪魔をしてることが亀裂を生むの」
全部、想像じゃない、とは…言えなかった。
世の中は綺麗事だけで成り立っている訳じゃなく、恋愛はそれを一番クリアに表していることに最近気付いてしまったから。
好きだと言い続けられたらいい。でも、やっぱり考え方の違いとか環境の変化とか、お互いが妥協しなきゃいけない部分が 出てきて、余裕があれば折り合いをつけていくことになんら苦痛はないんだろうけど、馴れない場所でいっぱいいっぱいの 生活をしてたら…壊れてしまうかもしれないよ、ね。
だから、私は。
「ごめん…無責任なこと言っちゃって…」
ぎゅっと抱きしめて謝る。
「何言ってんの。心配してくれたんでしょ?…嬉しかった」
ぽんぽんと背中を叩く掌に逆に励まされるなんて、私ってつくづく役立たずな存在だわ…。
「絶対、頑張ろうね、2年」
「うん、気合い入れる」
きっと、大丈夫。2人なら。


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