22.「それくらい言えるでしょ!?」ハルカ&夏来


もう、夏来さんとは3日も口をきいていない。
その理由を思い出すのは、それだけで泣けてくるから、ホントにイヤ。イヤなのに。
「待って、ハルカ」
学校を出たところで、待ち伏せていた彼に捕まった。
踵を返して逃げ出そうとした腕をすかさず捕らえて、いつもからは信じられないほど乱暴に来るままであたしを引き摺ると 助手席に押し込む。
「絶対、逃げないで。そうしたところでなんの解決にもならないって、知ってるよね?」
カチリとシートベルトを止めながら、夏来さんの強い瞳がプレッシャーをかけた。
知ってる、から。
ここが最後の機会なんだと覚悟を決める。ついっと視線を逸らして、頷いて。
「…黙っていて、ごめんなさい」
沈黙が苦しいって思い出した頃、真っ直ぐ前を見つめたままの彼が暗い声で謝った。
「もう、いいの。だって、夏来さんの人生だもの。あたしに何も言う権利なんか、ないから」
あの日、珍しく早く支度を終えて彼を迎えに行こうなんて気を起こさなければ、まだ知らないままだったんだろうか。
楽屋の中から聞こえた、カズさんとの会話を盗み聞いたりせず、さっさと声をかけていれば。
『もう荷造りできたのか?後一月無いんだぞ』
『抜かりはありません。後は…ハルカに言うだけで』
『はぁ?!お前、それ一番大事なことだろ…2年もイタリア行くのに、アリエネェ…』
『ですよね…なんか、言いづらくて…』
『ホントなの、夏来さん?!信じらんない…信じらんない!!』
飛び込んで叫んで、背を向けたあたしは、それからずっと携帯を切っている。
次の日、別のスタイリストさんに彼が留学を決めたのは数ヶ月前だったって教えて貰って、そんなこと少しも知らなかった 自分が哀しかったから。
置いていかれて、自然消滅しちゃうのかなって、思うだけで泣けてくるんだもん。
でも、応援しなきゃってわかっているから、余計辛くて、責める言葉も縋る言葉も思いつかないから、話ができなかった。
だけど、追いつめられたら言えるものだ。
夏来さんがこっちを見ていないからっていうのもあるけど、涙を零すこともなく意外なほどあたしは冷静。
「元気で、頑張ってね。応援、してるから」
どんな嘘だってサラリと吐けるほど、に。
「………」
それらをただ彼は黙って聞いていて、いつもの優しさも、かといってどんな感情も見えなくて、ふるっと小さく怯えに 震えた。
怒らせてしまっただろうか、それともさよならをするつもりだったから、手間が省けたと思ってる?
自分でそうしたくせに、この後夏来さんがどうするのか分からないから、恐くてあたしは唇を噛むと俯くのだ。
何も見えないように、聞いても涙を見せないように。
「…でしょ?」
小さな、呟き。
「ふざけるなって、置いていくなって、身勝手だって、なんで言わない?一緒に行きたいって、それくらい言えるでしょ!?」
なんて、理不尽な。
我が儘にも程がある言い分なのに、それでもそこに小さな希望を見つけてしまうから、逃れられないほどはまりきっている ってこと、だよね。
「言ったら、連れてってくれるの?本当に?」
「うん…ハルカが高校を卒業したら、向こうに来られないかお父さんとお母さんにお願いしに行こうと思ってた」
自己完結していてごめんなさい。
そう謝った夏来さんが、そっと零した躊躇いの訳は。
「片桐さんがね、すごく脅すから。ハルカのお父さんは地球上最強の敵だって」
…どこまで行っても、あの人は…一体どうしてくれようか。


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