15.「もういいんです」春菜&秋


秋くんは何度でも、キレイだよ、かわいいよって繰り返す。
自信がない私を励ましてくれようと、例えジーンズにトレーナーの部屋着でいたって褒めてくれるの。
それが、胸を苦しくするんだって知らずに何度でも。
「もう、いいから」
キスの合間に囁かれる賛辞を止めたくて、いつになく強い抵抗で彼を押し返した。
「春ちゃん?」
訝しむ声もそれでも優しさを失わない腕も、私にはただ切ないの。
「どうした?俺なんかしちゃった?」
不安そうにしないで。あなたといる限り不安に付きまとわれるのは私の方なのに。
見かけの美醜だけじゃない、秋くんの広い心は自分が取るに足らないと教えられて、やっぱり釣り合わないんじゃないかと恐くなる。
「…私なんかの、どこが好き?」
それは、禁句。
彼が一番嫌がる私の悪いとこだから、すっと目を細めた秋くんが盛大な吐息をつく。
「あのさ、もう何遍も言ってるだろ。俺は春ちゃんの全部が好きなんだよ」
「だってわかんないんだもん…」
「何がわかんないんだよ。頭の天辺から爪先まで、全部好きだって言ってんだけど」
「具体的に聞きたいの!顔…じゃないよね、他は、他は…ないじゃない」
考えても自分のいいところなんて出てこなくて、だから余計に恐いの。いつか捨てられるんじゃないかって。
「…あるだろ?いつも一生懸命で、誰にでも優しくて、顔だって充分可愛いし…俺、全然つりあわないな」
「嘘!釣り合わないのは私の方じゃない」
「いや、俺だって」
「ううん、私…」
「俺!」
そこまで言って顔を見合わせて…吹き出してしまった。
「…なんだ、すっごいお互い様じゃん」
「うん、そうだね」
コンプレックスは誰の中にもあって、自分が持ってないモノに怯えているんだとちょっぴりわかったから。
「もう、いいの。ごめんね、おかしなこと言って」
「全然」
ぎゅっと抱きしめられた腕の中、幸せが満ちてくる。


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