14.「何ですと?」みる&静


2月某日、inカレシの部屋。
「これ、何?」
にっこり、フェロモン垂れ流しの笑みは今日も絶好調に白々しい。
「チョコレートです」
もちろん、感情のこもらないにっこり返しで対抗を謀るのは私にとっての当然だけど、恐ろしくハイリスクであることも否めないわね。
「僕、バレンタインは手作りチョコを食べたいって言ったよね?」
キレイにラッピングされた小箱をこれ見よがしに降りながら、彼。
「それも手作りですよ。しかも有名パティシエのお手製、すごいでしょ?」
仄かに高額だったこともアピールしつつ悪びれずに、私。
高校生の身分で大学生にプレゼントをしようというのだから、分不相応に張り込んだモノを探し回った。
みすぼらしい手作りでなく、美しいお姉様方がご覧になっても一瞬怯むようなそんな商品を長いことかけて手に入れてきたのだ。手作りだなんだとこだわらず、素直にありがとうと貰ってくれたらいいのに。
そしたら多少、私の気も晴れるのに。
「…君がこういう手段に出る時、決まって同じ理由がある」
小さな抵抗の意味をやっぱり理解していた腹の立つ男は、テーブルにチョコを放ると部屋の隅に置かれた紙袋に視線を送る。
「さしずめ今回は、あれ?」
大きめな袋を満たしているのは胸焼けするほど甘いチョコレートだと、知っていた。
毎年彼が貰ってくるそれらは、決まって私を悩ませ卑屈にさせるから、大嫌い。自分など足下にも及ばない美人さんが、静くんに手渡す瞬間を見てしまった今年は中でも最悪よ。
「ヤキモチは嬉しいけど、その顔見るとそれだけじゃないね?」
覗き込む視線から逃れるのは、不可能。
だって、捕らえられた頬はキスをする近さで私の顔を固定してしまったから。強い視線に絡め取られて、目をそらすこともできないから。
「何が、不安?」
的確に、隠そうとする本心を暴いて。
「キレイじゃない、から。大人っぽくもないし、太っててスレンダーじゃない」
小さな身長は童顔と相まって子供っぽさに拍車をかけるし、ちっとも痩せない体はあちこちの肉が邪魔して細身の格好いい洋服が着られない、これはずっと私の悩み。
だけど、こんなに胸を締め付ける辛さを静くんは吐息と共に苦笑いで押し流した。
「あのね、僕は小さくて可愛い子が好きなんだ。それに鶏ガラみたいに痩せてる女は、抱いてもちっとも気持ちよくないでしょ」
ちゅっと触れ合わせた唇で、嘘じゃないと証明して、
「みるはね、太ってるんじゃなくてメリハリのきいた体なんだよ。男はこんな子が好きだって、知っといた方がいいね」
まさぐる掌で余すところなく私を味わおうとする。
何よりの証拠は、幾度繋がっても尚欲しがる彼自身だと言うように、あからさまに欲望をぶつけて。
浅い呼吸に、深いキスに真実をたっぷりまぶすから。
「わかったね?じゃあ、手作りチョコ、出して」
何ですと?
せっかくの甘い空気も、素敵な時間もたった一言で台無しじゃない。
でも、一番悔しいのは。
彼の読み通り、鞄の底に小箱が一つ忍ばせてある事、かな。


NOVEL

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