10.「まだ分からないのか?」秋&春菜



不機嫌の原因はみっともないくらいガキ丸出しの、嫉妬。
自分の容姿が周囲に与える影響なんて考えたこともない春ちゃんは、俺の為にせっせとキレイになってくれる。
黒縁でシャレ気の欠片もなかったメガネは、ノンフレームで柔らかな印象な物に。
体のラインを隠すだぼだぼのトレーナーは、細身のカットソーに。
ジーンズ一辺倒だったくせに、細い足を露出するミニスカートを何枚も買って無防備に待ち合わせ場所に立ってるから悪いんだ。
「失せろ」
低く噛みつくみたいな声に連中が残した苦しい捨てゼリフが、彼女を怯えさせたんだと思った。
「前と、同じ格好でいいって言ったろ?」
腹が立ったのは春ちゃんにじゃない。今更彼女の魅力に気づいた世間だったり、無防備につけ込もうとする卑しい心だったり。
ともかく、春ちゃんは少しも悪くなかった。
「ご、ごめんなさい…」
でも、彼女の瞳に涙を浮かべさせたのは紛う事なく俺だ。
「あ、秋くんが少しでも恥ずかしくないようにって、思っただけ、だったの」
恥ずかしがり屋の春ちゃん、引っ込み思案で少しも自分に自信の持てない春ちゃん、悪いことは全部己が被ろうとする春ちゃん。
知ってたくせに、なんで泣かすんだよ!
俺のモノになってくれたら、誰からも何からも絶対守るって決めたくせに、どうして!
「ごめん、ごめん春ちゃん。謝るのは、俺。可愛い春ちゃんを他の奴が見るの、許せなかったんだ」
公衆の面前だろうと知るもんか。
彼女が照れて暴れ出さないよう、しっかり腕に閉じこめてしまえば大丈夫。
「キレイにしてくれてありがとう。俺の為に頑張ってくれて、すっげ嬉しい」
伝わってくれ、君は悪くないんだって。俺がこんなに君を好きなんだって。
「けど、春ちゃんのカレシは手に負えないほど嫉妬深いんだって、分かって?」
お願いだから、ね?
囁きに返る頷きに、心が熱くなるから恋って不思議だ。
「大好きだよ、春ちゃん」
何度でも、何度でも、君に送るのは真実の気持ち。


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