「やっぱりお茶を煎れるのは、大嗣兄さんが一番上手いわねぇ」

    いえ、お上手なのはあなたです…。

    リビングのごてごてしたソファーに負けない綺麗なお姉さんは、帰ってきたばかりの

    大嗣さんを笑顔一つで意のままに操って、美味しい紅茶をまんまとせしめた。

    見習うところが山ほどありそうなその手際ったら…師匠と呼ばせてもらおう、うん。

    「歌織ちゃんが久しぶりに帰って来たのよぅ。大嗣張り切っちゃうわよね?」

    隣でおば様も楽しそうに微笑んでる。

    この人もやっぱツワモノだわ。仕事で疲れてる人間をこき使うことになんの抵抗もあ

    りゃしないんだもん。あまつさえ人の尻馬に乗って自分もティータイムとしゃれ込む

    なんて、大嗣さんがさり気なくあたしにお茶を煎れてくれちゃうのは長年の条件反射

    だったんだ。

    悲しい納得の仕方だなぁ。

    「大嗣さん、ご飯まだなら暖めようか?」

    二人に混じってくつろぐこともできるんだけどさ、あたし一人他人じゃない?

    しかも横柄な近衛氏と四六時中一緒にいたせいか卑屈な根性が身に付いちゃってね、

    どうにも落ち着けないんだこれが。

    キッチンに移動しようと腰を浮かせたあたしを、まぁまぁと座り直させたのはおじ様。

    おば様にべったり張り付いて言いなりだから、影薄いんだけどいたのね。

    「そのくらい一人でできるよ、早希ちゃんはここでケーキでも食べてなさい」

    大嗣さんが老けたらこうなるって渋みの効いたロマンスグレーは、おみやげに買って

    きた高級洋菓子を皿に取り分けてあたしに差し出してくれた。

    大会社の社長様が給仕ぃ?
  
    「ああ、あたしやります!おじ様こそお茶して下さい!」

    ここん家の勢力図がわかる一場面だよね…。

    女性陣はふんぞり返って、男性はかいがいしく働く。

    うらやましい通り越して憐れ…。

    「歌織ちゃん、見たがってた薔薇咲いたんだよ!」

    あたしがおじ様を手伝う横で(あくまで手伝い、しきりはおじ様)将彦さんが大きな

    鉢を抱えて嬉しそうに近寄ってきた。

    姿が見えないと思ったらまた…薔薇?

    「まぁ、とっても綺麗ね。でも将彦君、それお日様の元で見た方がもっと輝くから明

     日ゆっくり鑑賞させて頂くわね」

    素敵な笑顔の裏で、きっぱり彼を拒絶した歌織さんは優雅に茶を一口。

    やっぱ似てるね、その悪魔スマイル。血って怖いなぁ。

    軽くあしらわれた将彦さんも馴れたもので、大して気にした様子もなく鉢を部屋の隅

    に置くとお茶会に参加すべく空いてるソファーに腰を下ろした。

    三男は欠席だけど、これで家族勢揃いしたわけで初めて見たけどこれだけ似た顔、綺

    麗な顔が並ぶと壮観。

    この中じゃ凡人は埋没するな、あたしのことだけど。

    「ところで早希ちゃん、隆人君のプロポーズ受けるの?」

    主題も何もすっ飛ばして、いきなり確信ですかっ?!

    すまし顔でさらりと言った歌織さんの発言に、何故だか全員身を乗り出しちゃって、

    「早まっちゃダメよ!」

    「家には他にもお買い得な息子がいるぞ」

    「隆人なんかと一緒にいたら君は散ってしまうよ!」

    「俺と結婚したら苦労はさせんぞ」

    大嗣さん食事に行ったんじゃなかったの…?

    何よりあなた方、近衛氏は家族じゃない、何故そこまで強固に止めようとするかな。

    「その前にケンカしちゃんたんで…ははは」

    この際家族仲は置いといて、取り敢えずは必死の形相の皆さんをなだめることに徹し

    たあたしは、結婚以前に二人の間に横たわってる天の川級の溝について思いを巡らせた。

    「隆人君の女性不信が原因なんですって」

    ってまた先にばらすの…一体どこから聞いてたんですか歌織さん…。

    「思い当たる節があるぞ」

    ポンと手を打ったのは大嗣さん。着替えもせずいつの間にか腰据えちゃって、あたし

    に意味深な視線を送ってきた。

    「この間も言い争ってたあの女のせいだろ」

    あー立ち聞きされたんでしたっけね、あの話も。

    頷いて肯定すると、大嗣氏に同調して将彦さんも唸り始めた。

    「彼女かぁ…信頼には全く値しない人だな」

    世の女性全てに激甘であろう将彦さんにこう言わしめるとは、近衛氏が結婚まで考え

    た人ってよっぽど悪女だったのかな。

    それより怖いのは用心深い近衛氏が、骨抜きにされた彼女のテクニックか?

    「私、あの人大嫌い。まだ二人の周りちょろちょろしてるんですって?」

    あからさまに顔をしかめた歌織さんに続く兄弟は、いい迷惑だと吐き捨てた。

    びっくり…近衛氏やめて兄ちゃん達に乗り換えたのは知ってたけど、話の様子から察

    するにその後二人に振られて諦めたもんだと思ってた。まさかまだつきまとっていた

    とは…根性入ったストーカーみたいなひとだ。

    地位や財産は自分のプライドを捨てても欲しいものなのかねぇ。

    捨て身になれる執念に感心してると、おば様が申し訳なさそうにこっちを見てるのに

    気づいた。

    同情されてるのかな?それにしては謝罪光線が出てるような気がするぞ。

    「どうかしました?」

    思い切って聞いてみると、おじ様とアイコンタクトして二人して頭を下げられちゃっ

    た。今の会話の中で二人が悪い所なんてあったかな。

    「ごめんなさいね。早希ちゃんにあげるって言った息子に余計な虫がついてて」

    いや、虫ってそんな。

    「早いところ手を打って片づけておけば良かったんだが、いかんせんしつこくてな」

    かたづけるって物じゃないんだし。

    「いっそ圧力かけて日本にいられないようにしたらどうなの」

    歌織さん、物騒ですからそれ。

    「適当な男あてがって消えてもらうか」

    それは相手が気の毒ですって大嗣さん。
   
    「僕、お金出せば一人二人は始末してくれる人知ってるよ」

    わぁー!キャラ違うって将彦さん!!

    なんなんだここん家の人は!日常会話じゃないでしょが、物騒な。

    人の人生潰すほどの大事とは思えない常識人のあたしは、大慌てで見も知らぬ女性の

    フォローのため頭を働かせる羽目になった。

    なんで前カノのために必死にならなきゃならないんだぁ!!

    「愛は障害あった方が燃えますから!」

    ……我ながら陳腐。拳固めて熱弁ふるうには恥ずかしすぎる台詞だなぁ。

    「愛!そうね、冬のソ○タも障害いっぱいだものね!」

    え、乗るの?乗っちゃうの?

    アホなこと言ったと真っ赤になってるあたしの手を握って、おば様は目をキラキラさ

    せている。メロドラマ、好きなのね。

    泣きそうになっちゃってるあたしに、小声で囁いたのは歌織さん。

    「せっかく邪魔者排除するチャンスだったのに」

    怖いから笑顔で言わないで。

    あなた近衛氏にそっくりです…。


    
 
 
 
 
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                 このお茶会は次回へ続く。ダークな妹は突っ走るのよ…身が持たない…。
 
 
 
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