7.
 
 
        「おはよう」
 
        いやいや開けた目に映ったのは、北条さん。
 
        「……?」
 
        「起きてるか?おーい凪子ちゃん」
 
        ヒラヒラ顔の前で手を振る彼に、次第にはっきりしてきた記憶がスパークした。
 
        「あ、お、きて…ます」
 
        そうだ、そうだったじゃない。ここは北条さんの家であたし昨夜は泊まっちゃったんだっけ。
 
        ついでに…やっちゃったんだっけ。
 
        体に張り付いた白のタンクトップと綿ジャージ姿の彼は格好良くて、つい目を細めちゃうんだ
 
        けど、その分裸で転がってる自分がやたら恥ずかしい。
 
        お布団から零れそうになってる胸をお布団の中にしまい込もうとするのに、北条さんはそれを
 
        許してくれなかった。
 
        「隠れることないやろ?挨拶もせんと」
 
        飛び込むようにベッドに乗っかった彼は、あたしの上に覆い被さるとコツンと額をあわせてき
 
        た。
 
        薄い夏がけを通して感じる体温に目眩がしそう。拘束する重さから逃れる術がないのはこの上
 
        もない幸せ。
 
        でも、そんな気持ちも朝の爽やかな日差しの中じゃ照れにしかならないのよ。お願いだから寝
 
        起きのボケ顔を至近距離で観察しないで。
 
        胸元で丸まってるお布団に逃げ込もうと足掻いてるあたしの唇はあっけないくらい簡単に北条
 
        さんに捕まってしまった。
 
        柔らかな感触がついばむように数回触れて、突然深くなる口づけは思うさまあたしを蹂躙して
 
        いく。
 
        「んっ…んん!」
 
        容赦なく口内を探られるのに抵抗の声を上げようとしたのは大失敗。
 
        更に激しくなる動きは、連動するように彼の指を操ってむき出しの肩をなぞり、見つけた胸の
 
        膨らみを強くもみしだいていく。
 
        「あっ!…やぁ…」
 
        「嘘はいかんて…」
 
        首筋に舌を這わせながら、笑いをかみ殺した北条さんの指が鈍い痛みの残る下腹部をそっとな
 
        で上げた。
 
        スルリと水分のを含んでなめらかに滑る指先に、全身から火が噴き出しそう。
 
        「濡れてる。感じてるんやな」
 
        楽しそうに囁いて、いらない自信をつけた彼は中途半端に纏わり付いた布団を乱暴に剥ぎ取っ
 
        た。
 
        陽光に薄く染まった肌が晒される。朝の輝きの中で不自然なまでにエロティックな光景は莫大
 
        な羞恥を呼び起こして、あたしに火事場の馬鹿力をくれた。
 
        「だめー!!!」
 
        力の限りの抵抗で、ベッドを転げ落ちた北条さんが唖然とこっちを見上げてる。
 
        体を隠そうと周囲を見渡したあたしは、そこに残る紅い染みに更に頬を染めた。
 
        ぎゃーっ!!見たくない、昨夜の証拠なんて改めて確認するのいやー!
 
        身を乗り出してお布団を掴んだあたしは、体と一緒にシーツのシミも隠れるよう布を引いたり
 
        丸めたり、滑稽なくらい一人で慌てふためいて、床の上の北条さんが噴き出す程度には。
 
        「どうして笑うのよ!」
 
        少しは乙女の純情わかってよ、初めてエッチした翌朝にムードもへったくれもなくのっかてく
 
        るなんてどうかしてる!
 
        「いやな、昨夜さんざん見られてるのに今更隠すかなって思うとおかしなってな」
 
        「言うなー!」
 
        昨日の前後不覚なあたしをじっくり観察したのね!
 
        力の限り睨みつけてやったのに、彼は少しも動じたりしない。どころかニタリと口元を歪める
 
        と俊敏な動きでベッドに飛び上がり、壁まであたしを追いつめた。
 
        「二度目はそんな痛ないから平気やって。もっと気持ちようさせたるし」
 
        不気味に笑わないで、キスを誘うように頬を寄せないで。
 
        しなくちゃいけないことたくさんあるのに、服も着たい、シャワーも浴びたい…あれ?なんか
 
        忘れてる?
 
        「あー!!」
 
        鼓膜を震わせる叫びを至近距離で堪能した北条さんは、耳を押さえて体を離した。
 
        「いきなりどうしたんや」
 
        「ご、ごめんなさい。でも、あたし無断外泊しちゃった…」
 
        ただでさえ帰りにくいのに、言い訳どうしようか…立場最悪?
 
        「連絡しといた、凪子眠った後」
 
        「え、あの後?」
 
        さらっと言うけど、北条さんそんな余裕あったんだ。あたしなんて気を失うみたいに倒れ込ん
 
        だのに。
 
        …それはそれで、しゃく?
 
        おもしろくないって眉を寄せたあたしに腕を回した彼は、壁に背中を預けてあのなぁと呟いた。
 
        「一回やったくらいで収まりつくかいな。おまえと会うてからしてへんのやぞ、この俺が三月
 
         以上も!体力も精力もバリバリ余っとるわ。外泊理由考えるくらいお茶の子や」
 
        うーん。威張って言うこと?嘆いていいのか喜んでいいのか複雑な心境ではあったんだけど、
 
        取り敢えず首の皮一枚繋がった感じかな。後は内容なんだけど。
 
        「どう言い訳たの?」
 
        まさか本当のことばらしたりしないとは思うけど、この後の展開考える上でも聞いとかないと。
 
        「弟とケンカして帰りたくない喚いてますから、今晩は預かりますてな。凪子がえらい勢いで
 
         飛び出してったの心配しとったみたいやから存外あっさり了承もらえたで」
 
        「上手い事言うね」
 
        ビミョウに真実は隠してるけど、全くの嘘は無いじゃない。
 
        原因も喚いたのもケンカも本当。ただ、雅樹君蹴りつけたのは北条さんだからね。
 
        あたしじゃできない荒技だもの。
 
        「せやから心配事はあらへんやろ?なあ、続きしよ?」
 
        ホッとして気を抜いたらすぐそれなの?
 
        少しはあたしの意見も聞いてよぉ…。
 
 
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