24.
 
 
        「からっ!あんた京兄殺す気なんか?」
 
        ………。
 
        「手際が悪い、切り方が荒い、それが料理言うつもりやないやろな」
 
        ………………。
 
        「目玉焼きにみそ汁は邪道や!スープにパン、基本くらい押さえな味の悪い料理の見た目まで悪な
 
         る」
 
        だんっ!!
 
        と、八つ当たりの憂き目にあったのは、サラダになる予定だったキュウリさん。胴体切断、不揃い
 
        な二等分を睨みつけて、深呼吸したあたしは包丁の切っ先を聡介に突きつけた。
 
        「今作ったのは自分の分です。北条さんとあなたの食事は用意してませんから、お好きに料理して
 
         下さい」
 
        堪忍袋の緒が、とうとう切れたの。
 
        受験校の下見と予備校の短期講習申し込みで上京したこいつが朝に夕に出没しだして(泊まりはホ
 
        テル)2日、家事に行動にケチをつけられる生活には、うんざり。
 
        食事がまずいと文句を言い(でも全部食べる)、アイロンがけが下手だとけなされる。ついでに宿
 
        題の間違いまで指摘してバカにされるんだから、しばらくの我慢と耐えるのも限界よ。
 
        北条さんは庇ってくれたけど、その度聡介の言動がエスカレートするからもう関わるのはイヤ。
 
        1人分の目玉焼きとおみそ汁、キュウリ無しサラダをリビングに運んで食べ始めた背中で喚く奴な
 
        んて、無視よ無視。
 
        「おいっ!居候のくせにご主人様に飯の用意させる気か」
 
        い、居候…確かにそうだけどいつあんたが主になったのよ。
 
        「今までのカノジョは外見だけで存在価値あったけど、あんたは家事くらいしか能ないんやからち
 
        ゃんとやれや」
 
        …禁句だから、それ。わざわざ指摘されなくたって充分わかってる。
 
        「高校生の同棲許すやなんて、親の顔が見てみたいもんや」
 
        ……。
 
        「京兄に自分がにおうとるやなんて、勘違いすんやないぞ」
 
        得意気にふんぞり返った聡介に、返す言葉はなかった。
 
        あたしはキレイじゃないし、お料理も得意と胸を張れるほどじゃない。親はいないから文句も言え
 
        ず、北条さんと自分が釣り合ってるなんて考えたこともなく。
 
        口を開いたら叫んで、わめいて…きっと泣く。口惜しくて取り乱す。
 
        だから、黙ったまま味のしない食事を終えると、キッチンに立つ聡介と視線を合わさないよう食器
 
        を洗った。
 
        放たれるイヤミに負けないよう、心で悪態の限りをついた。
 
        「聞こえてんのか?!」
 
        聞こえてるわよ、あたしにはいいとこ一つもないんでしょ?親の躾がなってない出来損ないなんで
 
        しょ?
 
        ああ、もう!
 
        「どうすれば満足?目障りなら、あなたがいる間消えましょうか」
 
        カバンをとりに寝室に向かった足を止め、意地悪く罵りの言葉を吐く奴を振り返る。
 
        不可抗力にいちゃもんつけられるのは、たくさん。顔を見なくて済むと喜ぶのは、あんただけじゃ
 
        ない。
 
        「足りんな。どうせならキレイさっぱり別れてくれや」
 
        「…わかった」
 
        ニヤリと口角を上げたのに頷いてクローゼットを開けたあたしは、手当たり次第衣服をバックに放
 
        り込み始めた。
 
        「おい…?」
 
        訝しげな声にも手は止めない、決して顔を上げない。
 
        「あなたのお願いを聞くんですから、別れ話もあなたがして下さいね」
 
        人の色恋に首を突っ込もうって言うんだもん、馬に蹴られるどころか北条さんと直接やり合おうっ
 
        て根性くらいは持ち合わせてるんでしょう。
 
        「ちょお、待てや」
 
        昨日ソファーから蹴り落とされたことや、釘を刺された事を思い出してか聡介の声が曇った。うう
 
        ん、焦った?
 
        どっちにしても余裕があるようには聞こえない。
 
        遠慮がちに踏み込んだ部屋の中、あたしに触れようとした手は空を切り虚しく躍る。
 
        誰が触らせるもんですか、顔が北条さんに似てたって根性悪は大っ嫌いよ!
 
        精一杯睨みつけるとポケットを探ってアパートの鍵を聡介の鼻先にぶら下げ、吐き捨てる。
 
        「お兄さんとお幸せに」
 
        困惑顔はうっと言葉に詰まるから、受取手のいないキーを床に落として足早に玄関を目指した。
 
        うざい弟も最悪だけど、この騒ぎに起きない男って失格じゃない?
 
        直接ケンカした訳じゃないけど、この際同罪。目を覚まして驚いたらいいんだわ。
 
        「…なんや、好きや言っても他人の一言で簡単に別れられる程度なんやな」
 
        引き留めたって止まらないとわかったら、逆上させようって作戦ね…いつもは有効だけど、今日は
 
        逆効果よ。静かにむかついてるから、怒鳴ったくらいじゃ収まらないくらい怒ってるの。
 
        冷や汗が見えそうな焦りの見える生意気顔に少し笑う。ちらりと、冷たく。
 
        「イヤだと言えばまた別の言葉で、傷つけられるんでしょ?絶対別れないって根性見せたら、あな
 
         たがあたしを認めるって言うなら頑張りますけど、そんなことあり得ない。嫌いな人間を好きに
 
         なるのは難しいですものね」
 
        お互いに、相容れないんだから仕方ない。
 
        引きつり気味の聡介に深々と頭を下げると部屋を出た。
 
        「お世話になりました」
 
        きっちり、お兄さんに説明しておいてよね!
 
 
 
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