19.
 
 
        「早かったんだね」
 
        最近は夕ご飯ができる頃を見計らって家に帰っていた北条さんが、リビングでテレビ見てるか
 
        ら驚いちゃった。
 
        「ん、凪子に嬉しい報告があってな」
 
        振り向いた顔に、危うくカバンを取り落としそうになったあたしは一歩後退する。
 
        …ちょっと待って。あれから一週間も経ってないのに、もしかして、もしかしちゃった?
 
        鍵を回収し終わるまで、キスもエッチもお預けは北条さんには拷問だったようで、生ける屍の
 
        ように精気を欠いていたのに、妙にすっきりした表情しちゃって…やばげ。
 
        「あっ!おばさんとこ寄ってくるの忘れちゃった」
 
        一日一度は顔出す約束は、同居の条件だもん。
 
        ホントは寄ってから帰ってきたんだけど、言わなきゃ分かんないわよそんなの。
 
        くるりと踵を返した背後に、異常に動きの速い生物が迫る。
 
        捕まったら、身の破滅〜!
 
        「嘘はいかんよ、なぎちゃん。ほーら、こっちにきい」
 
        あっさり捕獲されて、有無を言わさず座らされたテーブルの前には整列した金属が…。
 
        「7本?!こんなにあったの?」
 
        「細かいこと気にしたら、あかんて」
 
        ニヤニヤ笑わない!信じらんない、少なくとも7人の女の人と付き合ってたってコトじゃない。
 
        「…どうやって見つけたの」
 
        怒りより脱力でクラクラする頭を、気力ではっきりさせて睨みつけてもどこ吹く風。
 
        ご褒美ねだるわんこみたいな顔した北条さんは、背後からあたしの体をがっちり抱え込む。
 
        「愛と根性があれば不可能はないんや。凪子とこうするために俺がどんだけ頑張ったか…思い
 
         出したら悲しゅうなるから聞かんといて」
 
        「誤魔化さない…んっ!」
 
        怒鳴り声を封じるためか、自分の欲求を満たすためか、腕一本で動きを封じる強固な檻は覆い
 
        被さるように唇を奪う。
 
        逃げ出そうにも首が不自然な形にロックされちゃってて、苦しいのよ。
 
        馴れたキスに、数日分の激しさが加われば腰が抜ける。そんな様子を楽しむように、歯列を割
 
        った舌は思うさま口内を堪能した。
 
        「久しぶりやぁ」
 
        嬉しそうな声は、指と連動しているようで気づけばボタンは全開、スカートは下着が見えるほ
 
        どめくれ上がっている。
 
        「ほうじょ…さん!」
 
        「うん、ええ子にしとったら気持ちようしたるからな」
 
        抵抗する力ない手をあっさり振り払って、ブラを外した指が胸の肉をすくい上げた。
 
        「やぁ…!」
 
        ゆるゆると揉み上げて、時折張りつめた頂きを摘む。耳朶を噛む唇からは、吐息とも囁きとも
 
        つかない声が零れる。
 
        そのどれもが知っている動きなのに、いつもより過分の熱を孕む分、口惜しくなるほど巧妙で
 
        執拗だった。
 
        「もう、いやぁ…」
 
        這うように前のめりに倒れ込んだ体を、苦もなく抱え上げた腕がソファーに落とし込んで。
 
        素肌に感じるスプリングは、いつの間にか上体が裸に剥かれた事実を知らせて慌てて胸を両手
 
        で覆った。
 
        「ばか!せめて夜まで我慢できないの」
 
        のし掛かってくる北条さんを、涙目で睨み上げるのは最終手段。
 
        イヤも応もなく襲われてたから身に付いた自衛手段は強力で、コレを出せば必ずいったん引い
 
        てくれるっていう便利な技なのだ。
 
        ところが、今日の彼は目が笑ってない。しゃあないなって自由を返してくれることもない。
 
        「できるかいな。毎晩隣で笑ろうとる凪子にキスもできん、眠ってる体に触ることもできんで
 
         おったんやぞ」
 
        胸元に落ちてきた唇が、チリっと鋭い痛みを生んだ。
 
        「…!」
 
        その後に残るモノに思い当たって、慌てて頭を捕らえた腕はひとまとめに頭上で押さえ込まれ
 
        る。
 
        「跡っ、つけないでよ!」
 
        抗議したのが悪かったのか、次に顔が埋められたのは首筋で制服じゃとても隠れそうに無い位
 
        置なの。
 
        なんてことするのよぅ、明日体育あるのに。ううん、それ以前に一週間は消えないキスマーク
 
        を絆創膏で隠すなんてべたな真似、あたしにしろっていうの!
 
        「ガッコ行けないじゃない…」
 
        「行かんでええよ。ずーっと家におったらええやん」
 
        笑いながら、尚も赤い印を残していく北条さんは、なんだかタガが外れたみたいに好き放題で、
 
        肌を舌で指で余すとこ無く探っていた。
 
        そりゃあもう、体の輪郭を確かめるみたいに触れて、あちこちにマーキングするんだもん。
 
        くすぐったかったり、気持ちよかったり、呼び起こされる感覚はまちまちなのに確実に罠にか
 
        かるのよ。
 
        考えるのが億劫になって、指に触れる温もりに縋る、快楽の罠に。
 
        「だめ…だめ…」
 
        膝頭を手のひらで割られて、最後の抵抗を試みるけど時既に遅し。
 
        暴れる体力は綺麗に消え失せて、中心に生まれた泉に易々と指の侵入を許してしまった。
 
        「凪子も我慢しとったんやな」
 
        にっこりってそれ間違ってますから!さんざん煽っておいて、あたしが最初から北条さんと同
 
        じ気持ちでいたと思わないで。
 
        襲われる恐怖に怯えない日々は楽チンで余裕があって……ちょっと寂しかったかな。
 
        抱き合えないのは、温もりを感じる機会が無くて。じゃれ合えないのは、分かち合える微笑み
 
        が無くて。
 
        ……でも、ちょっとだからね。エッチできないで欲求不満の北条さんとは違うんだから。
 
        だから、だから…。
 
        「意地悪しないで…」
 
        じらす動きで何度も限界まで蠢く指を、体を捩って引き離す。
 
        「わがままやなぁ凪子は。どうしたいんか、言わんとわからんよ」
 
        唇を歪める北条さんは余裕たっぷりで、崖っぷちに立つあたしはねだるなんて真似もできなく
 
        て。
 
        それでも苦しいくらい限界を訴える本能に従わないと、壊れそうだった。
 
        「…助けて…」
    
        伸ばした腕で、熱で湿る上体を引き寄せると耳に囁きを送る。
 
        「…まぁそれが精一杯やろな」
 
        喉の奥で暗い笑いを発した北条さんは、どこから出したのか避妊具をつけると一息に押し入っ
 
        てきた。
 
        「う…あぁ…」
 
        「凪子…」
 
        閉じたまぶたの奧で光りがはじける。口づけられて薄目を開ければ、眉根を寄せた表情が一瞬
 
        緩んだ。
 
        「抱き合うと…安心できる…」
 
        なにに?と返そうと思った声は、押し寄せる波に飲み込まれるように消えた。
 
          
 
        結局、朝方まで放してもらえなくて、重い体を引きずるように学校にいくはめになる。
 
        休みたいのは山々だけどね、ずる休みがばれたらおばさんの家に連れ戻されちゃうかも知れな
 
        いじゃない。
 
        もう、北条さんと触れ合わない生活はたくさんよ。
 
        …後が怖いから。
 
 
 
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