14.
 
 
        重なった唇からもれる吐息が次第に熱を帯びて、体の自由を奪っていく。
 
        ついうっかり北条さんにほだされた自分を後悔しても、力の抜けた腕じゃ振り払うこともでき
 
        なくて、器用に滑る指先がTシャツの下に潜ったりジーンズのボタンを外しちゃったり、かな
 
        り赤面モノなの。
 
        「だ、めぇ…!」
 
        逃れようとのけぞった首筋を生暖かい舌が辿った時、ふっと思う。
 
        昨夜は何をされているのかわからないうちにベッドに転がっていたのに、どうして今は彼の動
 
        き全てを脳が認識しちゃうんだろう。
 
        これが余裕?一度経験した感覚は、次から克明に感じることができるの?
 
        「諦めぇって、逃げられへんのやから」
 
        弱々しい抵抗をいとも簡単にねじ伏せた北条さんは、それはそれは嬉しそうな微笑みであたし
 
        を覗き込むと、いつの間に外したのかブラごとTシャツをまくり上げる。
 
        素肌に触れる外気と、窓から差し込む強い西日が敏感になった触覚を刺激して、それだけで体
 
        がビクリと跳ね上がった。
 
        体から骨がなくなっちゃったみたい。
 
        床に座り込んで北条さんと抱き合っていたのに、いつの間にかその体勢を維持するのが難しく
 
        て温かい腕に前のめりに倒れ込む。
 
        「っと、ここやまずいな」
 
        軟体動物のごときあたしを軽々と抱え上げた彼は、柔らかなベッドにダイビングして、ついで
 
        とばかりに次々と衣服を剥ぎ取っていった。
 
        「やぁ、脱がさないで…」
 
        「脱がなかったらできへんやないか」
 
        だから、その楽しそうな口調がイヤなのよ!
 
        ぼやける視界で必死に睨みつけると、北条さんは耳たぶを甘噛みしながら囁いた。
 
        「そないな目ぇで誘ったら、凪子めちゃめちゃにしてまうで」
 
        さ、誘ってなんかない!怒ってるの!ダメだってばあちこち舐めないで、遠慮なく触らないで!
 
        って、声に出せない時点であたし負けてるのよね。
 
        どんなに頑張っても口をつくのは意味不明な単語ばかり、それも自分で聞いても恥ずかしくな
 
        る鼻にかかった睦言なんて恥ずかしすぎる!
 
        「さて、どこが感じるんやろな凪子は」
 
        湿った肌を熱い指先が探る、唇がなぞる。胸の先端を、お腹を、太ももを。
 
        その度過度な反応を示すあたしは、ただひたすらに昨夜の如く意識が飛ぶことを願っていた。
 
        正気を保ったまま、与えられる快感に酔うには経験値が圧倒的に足りないのよ。
 
        気持ちいいより、羞恥が強い。
 
        どうしてみんな正気でエッチできるのよ?普段隠してる場所を楽しそうに観察されて、あ、足
 
        だっていつもなら絶対しない大股開きよ!
 
        これが照れずにいられるわけないじゃない…。
 
        「あー、あかんな」
 
        不意に探索の手を止めた北条さんが、体を起こして座り込む。
 
        「ど、どうかした?」
 
        両手でできる限り体を隠したあたしも、起き上がりこぼしよろしく跳ね起きて髪をかき回す彼
 
        を覗き込んだ。
 
        困ったように唇を歪めた北条さんは、腕を伸ばしてあたしを抱え込むと盛大なため息をつく。
 
        「んー昨夜はわけもわからんうちに凪子抱いてしもうたからな、今日はお互い確認し合いなが
 
         らいこ、思うたのが失敗やった。照れるんもかわええんやけど、恥ずかしいが先に立って集
 
         中できんのはなぁ」
 
        「……ごめんなさい」
 
        「ちゃう、ちゃう凪子が悪いんやない。俺があせったんが悪いんや。理性なんぞ残すんは早い
 
         いうこっちゃ」
 
        はぁ、まぁ…。
 
        なんて呑気な返事をする間もなくふさがれた唇は、始めのキスとは比較にならない熱心さで口
 
        内を這い回り、同時に指先もまた、引きかけた体の熱を取り戻そうと敏感な部分を辿っていた。
 
        ジワリと思考を浸食する霞がほどよく体内を駆けめぐり、無意識に伸ばした腕で北条さんにし
 
        がみつけば、感じられるのはおびただしい快楽と、幾分温度の上がった素肌だけで。
 
        「好きや」
 
        吹き込まれる甘い声に、溢れる想いが言葉になる。
 
        「大好き…北条さん…好き」
 
        「ん、京介言うてみ」
 
        「あっん…きょう…すけ…好き…」
 
        「俺もや、凪子。気持ちええか?」
 
        「う…ん」
 
        スパークした理性が、正直に状態を告白するのはありなんだなぁってチラリと思う。
 
        初心者には強すぎる的確な刺激は、気づけば足の間に潜り込んだ指が淫靡な水音を立てて起こ
 
        している快感だった。
 
        「やぁ、やめて…」
 
        規則的に出し入れされる指に、体を捩ると足に熱い塊が触れる。
 
        正体に思い当たって赤面するより早く、ビニールの乾いた音がした。
 
        「ちょお待ってな」
 
        目を開けると口に挟んだ避妊具を器用に開けた北条さんが、足下でごそごそ動いてる。
 
        これは…えっと噂に聞く○ンドームをつけてるんだよね。その、大事なことです、でもこの先
 
        に起こることをはっきりきっちり予想させるから…複雑。
 
        「凪子」
 
        あらぬ方に視線を逸らして、しばしの現実をかみしめていたのに、引き戻した声に唇を奪われ
 
        て夢うつつへ逆戻り。
 
        でも、下腹部に感じた微かな痛みに再び目を見開いた。
 
        「あっ、つっ…」
 
        「まだ、痛いか?」
 
        「…ん、大丈夫、かな?」
 
        動きを止めた北条さんに、微笑むことができたのはホントに痛みが引いていたから。
 
        圧迫感でお腹がいっぱいって感じだけど、むず痒いような落ち着かなさ以上のモノは感じない。
 
        不思議、昨日は泣き叫ぶくらい痛かったのに。
 
        「よっしゃ、ほんなら一緒に天国に行こな」
 
        爽やかな笑顔とは真反対の性急さで動き始めた彼は、じれったい快感を運びながらあたしを追
 
        いつめ始めた。
 
        「やっ、はあ…!」
 
        切れ切れになる呼吸は、揺さぶられる体と連動するかのようにやむことはない。
 
        足りない酸素を求めて喘ぐ唇を思い出したようにふさぎながら、何度もリズムを変えて動く北
 
        条さんはひときわ大きくなったあたしの反応を見逃さなかった。
 
        「ここ、か」
 
        呟きを合図におかしくなりそうな快感をひっきりなしに送り込まれて、きつく閉じたまぶたに
 
        閃光が走る。
 
        「やだ!おかしくなる、やぁ!!」
 
        「俺も…限界…!」
 
        きつく抱きしめられて、立て続けに押し寄せる波に意識をかき消されながら、一瞬あたしは光
 
        りに飲み込まれた。
 
 
 
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