12.
 
 
        「いらっしゃーい!」
 
        玄関に現れたかすみと小林さんにご機嫌で挨拶したあたしは、背後でへらへらしてる北条さん
 
        を無視してリビングへずんずん歩く。
 
        「結構いいとこに住んでるんですね、北条さん」
 
        学生の一人暮らしには贅沢な作りの部屋を見渡しながら、かすみが引きつった笑顔で自己中男
 
        に声をかけたのは電話で事情を聞いたから。
 
        その証拠に、相手の返答は待たない言いっぱなしぶりで先を行くあたしの首を絞めてきた。
 
        「ちょっと、最悪ムードの解消に来たんじゃないわよ」
 
        小声で吹き込まれた抗議は的はずれでおかしくて噴き出しちゃう。
 
        再三繰り返される謝罪を受け入れれば簡単に終わるこのケンカに、わざわざ他人を巻き込むよ
 
        うな真似するほど困ってるわけないじゃない。
 
        「その逆だって。二人っきりになると、べたべたくっついて機嫌治そうとするのが鬱陶しいか
 
         らかすみ達に来てもらったの。美和はデートで断られたからいないけど、ホントなら深夜ま
 
         で宴会でも開きたい気分だもん」
 
        あたしのセリフにちょっと眉を上げた彼女は、ああっと頷いた。
 
        「いやがらせ?」
 
        「大正解」
 
        ニヤリと人の悪い笑みを交わすと、納得したかすみは背後でこちらも密談をぶっている男二人
 
        を振り返った。
 
        「亮ちゃーん、凪子が今夜は泊まっていってって。どうする?」
 
        「かすみちゃんまでいけず言わんといてぇな」
 
        悪のりした彼女の声に反応したのは、さっきまで…今もか、あたしに無視され続けてる北条さ
 
        ん。
 
        それこそ泣きそうな顔でかすみと小林さんを見やると、拝み倒さん勢いでとんでもないことを
 
        言ったのよ。
 
        「昨夜は物足りんかったから、今夜は朝まで凪子堪能するつもりやねん。後生やから泊まりだ
 
         けは…ぶほ!」
 
        ミドルキックが腹部に命中。
 
        みぞおち押さえて蹲る北条さんに、真っ赤な顔で仁王立ちしたあたしは拳固めて怒りに体を震
 
        わせた。
 
        「あんたの頭にはそれしかないの?人前で言っていいことと悪いことの区別もつかないならも
 
         う一発殴るわよ!」
 
        「うっそ!凪子やっちゃったの?」
 
        「あんたも言うか!」
 
        奇声を上げた親友にエルボーをお見舞いすると、もの問いたげな視線を寄越す小林さんをビッ
 
        と指さした。
 
        「何か言ったらローリングソバット!」
 
        見回して全員がおとなしく頷いたのを確認すると、あたしはくるりと踵を返しカウンターキッ
 
        チンへ向かう。
 
        全く、少しは乙女の恥じらいも理解してよね!
 
        初エッチしたばっかで、エロモード全開のカレシも、下世話なおばちゃんみたいな友人も相手
 
        にできるわけないじゃない。
 
        感慨に浸る暇もないほど怒濤の午前中をやり過ごして、その後がこれってどうよ?
 
        もうちょっと…、
 
        「だから、あの子は恋愛がお花と蝶々で彩られちゃってんの。エッチなんて一昔前のマンガの
 
         如く、朝目覚めたら彼の腕の中で『おはよう、ハニー』『おはよう、ダーリンなわけよ』
 
        「実際はもっとぐちゃぐちゃで、ドロドロなのがホントなんだけどなぁ」
 
        「無理無理、経験したってあれやで?」
 
        「じゃ、どうやってやったのよ」
 
        「俺のテクでメロメロにして、わけわからんようになったとこで貫通」
 
        「うわ、鬼畜!」
 
        「丁度いいわよ。正気じゃあの子、薔薇の花でベッド埋め尽くさない限りおちないって」
 
        「そこまでひどいの?」
 
        「今朝は明るいってだけで、ベッドから蹴り落とされた。も一度仕切り直したんは泣き落とし
 
         でアウト」
 
        「あー、わかる。凪子ならやりそう」
 
        「京介なら泣かれても押し倒しそうなもんなのに、やけにおとなしく引き下がったじゃないか」
 
        「好きな子に泣かれてできるかいな。お前かすみちゃんに『やめて』言われたとこ想像してみ
 
         い」
 
        「…できない」
 
        「ほれみい」
 
        「いやん、亮ちゃん優しい!」
 
        …………………。
 
        この人達は聞こえよがしにしゃがみ込んで、どんな会話してんのよ。
 
        いや、好きな子って辺りで嬉しかったりしたのは不覚なんだけどね、それにしたって。
 
        とりとめのない馬鹿話を、どのタイミングで止めたものかと考えあぐねていると、振り返った
 
        三組の瞳にいきなり見据えられる。
 
        「凪子、北条さん可哀想じゃない。やらせてあげなさいよ」
 
        「京介が相手を思いやったなんて始めて聞いたよ。大事にされてるんだね」
 
        「なぎちゃーん。俺が悪いんやったら何遍でも謝るさかい、許して?」
 
        な、なんなのよみんなして!
 
        援軍呼んだつもりが、孤立無援?立場悪くなってるじゃない!
 
 
 
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