初夢・フィーバー!       
 
 
 
             クリスマスはさんざんだった。
 
             やっとの思いで取り戻した未散は、泥酔状態の上寝不足から帰り着くまでに潰
 
             れ、予定通り抱いたまま朝を迎えたが指一本出せず終い。
 
             別にそれだけが目的で彼女といる訳じゃないから、致せなかったことに未練は
 
             ないが、3日間べったりくっついて過ごそうとあれこれ用意した諸々が全て無
 
             駄になったことには乏しい感情で怒りをたぎらせていた。
 
             未散と会う時間を削ってまでこなしたバイトと、面倒を我慢して予約した温泉
 
             旅館、手に入れるはずだった思い出、全部プライスレス。
 
             「兄さんも、あの男も、許さないから」
 
             イベント明けの朝日に、直哉はよからぬことを誓ったり、した。
 
             一応、攻撃対象に紗英とユウカが加わっていないのは直哉なりの気遣いだった
 
             りする。彼女らに何かあれば、未散が悲しむじゃないか。
 
             相変わらず、彼女を中心にしか人生を回していない男の恨みを一心に買うはめ
 
             になってしまった哀れな彼らの行く末は…。
 
             …くわばら、くわばら。
 
 
 
             「わかった。サンキュ、未散」
 
             笑顔で家を出る兄を確認して、弟はちょぴっと口角を上げる。
 
             やっぱ、未散に頼んで正解。
 
             ここ最近、とみに疑り深くなった達哉は自分の言うことを全て疑ってかかって
 
             いたから、嵌めるには第三者を使うのが一番だ。
 
             あの日、あえて問いつめたりはしなかったけれど妙にびくびくした態度からも
 
             状況からも、直哉の携帯をすり替えた犯人は達哉に決定だろう。
 
             ならば、自分が味わったように恋人と会えない苦労をすればいいわけで、仕返
 
             しは倍返しくらいが妥当な気がする。
 
             「お馬鹿だよね」
 
             直哉の手の内には燦然と輝くバッテリーパック。
 
             その事実に気づくまで、彼は可愛い紗英の声を聞くことができないだろう、い
 
             い気味。
 
             「あ、紗英ちゃん」
 
             そして、仕上げ。
 
             玄関から出てきたのは華やかな振り袖に身を包んだ紗英だ。
 
             「な、なに?」
 
             あからさまに怯えるから、年末の計画失敗と救出しそこねた姉のことがばれて
 
             しかられると思っているのだろう。
 
             当たってるけど、はずれ。
 
             「これ、兄さんからの預かりもの」
 
             怪訝な顔をする紗英に変わらずの無表情で差し出したのは、ごく普通の茶封筒
 
             だった。
 
             「達哉君が…?」
 
             もちろんまだまだ疑いいっぱいの紗英が素直に直哉の言うことを信じたりはし
 
             なかったが、中身をちらりと見てにっこり嬉しそうに微笑む。
 
             「そこで待っててって、言ってた」
 
             「わかった。ありがとう、直哉君」
 
             「どういたしまして」
 
             用は済んだとばかりに踵を返す冷たい態度は、変わらぬ直哉の印、だが。
 
             正面に回って彼の顔を見た人間がいれば、肝を冷やしたことだろう。
 
             ものっすごく、邪悪な顔して笑っていたから………とってもお似合い。
 
 
 
             「あ、あの、直ちゃん…」
 
             「うん、なに?」
 
             ぎゅっと抱いた腕はそのままに、普段の彼からはにわかに信じがたい甘い表情
 
             で未散を覗き込む。至近距離で。
 
             「その、ここ自宅だし」
 
             「今日、誰もいないよ」
 
             両親はデートで、紗英は友達と遊びに出ているから彼らを邪魔するものは、ま
 
             してや妖しい声を聞き止めるものは誰もいない。
 
             「そうだけど、初詣、行くって約束…」
 
             「後で、行こ」
 
             通常からは信じられないスピードで襟元に手を差し入れる恋人に、未散は困り
 
             果ててしまった。
 
             直哉が好きだから、抱き合うのも嫌いではないしこのまま言う通りにしてもい
 
             いのだけれど、折角大変な思いをして晴れ着を着たのだからこの格好で彼とデ
 
             ートもしたい。
 
             そこには一人じゃ着物を着られないという、大問題が横たわっているわけで。
 
             「着物で、行きたいの。脱いだら…着られないよ」
 
             「俺、着せてあげられるから、平気」
 
             「ええ?!なんで」
 
             「練習したから」
 
             未散は面食らったようだが、そう驚くことでもないだろう。
 
             だって、直哉は彼女のためならエベレストにも登頂しかねない勢いがあるんだ
 
             から、たかが着付けを覚えるくらいたいしたことじゃない。そこに己の欲望ま
 
             で絡んでくれば、女性に混じって着付け教室に通うくらい痛くもかゆくもない。
 
             「だから、しよ」
 
             帯締めも帯揚げもイヤに手際よく脱がすと思ったら、こんなからくりがあった
 
             のだ。こう来られてしまえば未散だってお手上げなわけで、諦めと同時に重な
 
             った唇にゆっくり理性を手放しはじめた。
 
             「…直、ちゃん。苦し…」
 
             しつこく絡む舌に僅かな隙をついて、少々の抗議。けれど、
 
             「俺も、ずっと我慢してたから、苦しい」
 
             こう言われてごく最近泥酔でお預けを食らわせた覚えのある未散に、返せる言
 
             葉があるだろうか。
 
             「あ、んっ」
 
             無惨に崩れた着物は想像以上に無防備な衣服だ。襟元も裾もどこからでも不埒
 
             な侵入者を許してしまう。
 
             少し冷たい指は背後から胸をゆるりともみ上げながら、太ももを確固たる意志
 
             を持って上昇していった。
 
             「や、やだっ」
 
             「…これが?」
 
             膝に抱え込んだ未散の胸の頂を、痛いほどにつまみ上げニヤリと唇を歪める。
 
             彼女に決して見えないのを計算の上で、周到に。
 
             「きゃあっ、それ、やぁ!」
 
             「じゃ、これは、好き?」
 
             体を捩って逃げようとするのを押さえつけて、今度は割った膝の中心をそっと
 
             なで上げた。
 
             「ん、あああ!」
 
             そのまま潤み始めた蜜壺を確認した直哉は、未散を床に崩れるに任せて力なく
 
             横たわる足の間に頭を埋める。
 
             「やめて、ダメ、直ちゃん!」
 
             気づいた彼女がする抵抗など、彼に何の意味があろう。
 
             「ヤダ」
 
             どんな望みも聞いてあげたいけれど、こればっかりはうんとは言えない。
 
             力ずくで広げたそこに舌をつけると、淡いピンクの芽を丹念に舐め未散の官能
 
             を呼び覚ましていく。
 
             もっと、俺に溺れて欲しいから。俺のことだけ、考えてくれるように。
 
             「あ…直ちゃん、直ちゃん、直ちゃん…」
 
             うわごとのように自分を呼ぶ、声が愛しい。
 
             熱い中に指を埋めて、より嬌声があがる場所を探り当てると背が大きく仰け反
 
             り中空をさまよう腕が、彼を捜していた。
 
             「お願い…抱いていて…っ」
 
             夢中になった未散は、絶対直哉の熱を求める。
 
             「うん」
 
             口づけを交わしながら器用に避妊処理をして、彼はゆっくり彼女の内へ身を沈
 
             めていった。
 
             「気持ちいい?」
 
             「うん、うん」
 
             直哉の首に細い腕を回した未散は、浮かされたように頷きながら揺さぶる彼に
 
             しがみつく。
 
             今、未散の世界の中心は俺で、他の誰も入る余地なんて無い。
 
             だから直哉はこの瞬間が大好きだ。生理的な快感より精神的に満たされるコト
 
             を望んで、何度も何度も未散を抱くのだ。
 
             「直ちゃん、好きっ…!」
 
             「俺も、未散を愛してる」
 
             真っ白な世界に向けて駆け上がりながら、直哉は世界一幸せな時を過ごしてい
 
             た。
 
 
 
             ところで、その幸せ者に不幸を渡された男達はどうなったのであろう?
 
             「遅れてごめんね!」
 
             「いや、全然」
 
             にっこり笑った顔はそのまま凍り付きそうなほど冷たいのだが、それを悟らせ
 
             てはいけない。
 
             実は8時間待ってたなんて事実も、絶対ばらすわけにいかないのだ。
 
             だって、紗英が罪悪感に苛まれるなんてこと、達哉は望まないから。
 
             これ全部直哉の仕返しで、矢面に愛しの彼女を立たせないためなら、彼は体く
 
             らいいつでも張る。過去に長い片思いで紗英を苦しませた分、この先は幸せだ
 
             けをあげると決めているのだ。
 
             「でも、突然待ち合わせ場所変更したり、ホテルのレストラン予約してくれた
 
              り、どうしたの?」
 
             「…あの、えーと、お年玉」
 
             頬が引きつったことは大目に見て欲しい。
 
             だって、レストランは知らないぞ!
 
             場所変更の罠は1時間待った辺りで気づき、携帯を取り出して真っ黒の画面を
 
             見たとき諦めた。
 
             目の前にコンビニがあるこのポジションから考えて、バッテリーパックごと無
 
             くなっていると思われる。補助電池を買っても決して電話が通じないように、
 
             周囲にめぼしい電気屋も携帯ショップもないのはバッテリーを買えないように
 
             だろう。ご丁寧に電話ボックスもない。
 
             「ここ離れてる間に、紗英が来ると困るしなぁ…」
 
             そんな理由で達哉はおよそ8時間、寒空の下に立っていた。その上、レストラ
 
             ンの予約って…。
 
             「行きなれない店だから、名前忘れちゃったよ。なんだったけ?」
 
             紗英が嬉しそうに告げた名に、達哉が情けなく固まったのは言うまでもない。
 
 
             更にもう一人はと言うと…。
 
             「まだやってたの?」
 
             クリスマス過ぎから学内、友人等のアパートと渡り歩いていたダイスケはヨレ
 
             ヨレになってユウカの元に戻ってきた。
 
             「だって…まだ半分…」
 
             半泣きになるのも仕方なかろう。手にした携帯は例の件で達哉に長時間拉致さ
 
             れていたモノで、当然無事に戻るはずもなく。
 
             彼のメールアドレスは見事にあちこちのアダルトサイトに登録されていた。
 
             まあそれだけであればアドレス変更で済むのだが、問題はそれを連絡しようと
 
             した友人一同の情報で…見事なまでにいじられていたのだ。
 
             姑息に一文字とか、かと思うと全部とか、電話番号は全部消えていたから直接
 
             聞くことも空メールを送ってもらうことも叶わず、何よりこの季節大抵の学生
 
             は帰省していて。
 
             「もう、いや…」
 
             「頑張って」
 
             無責任な首謀者の応援に返せるのは、疲れ切った吐息だけだった。
 
 
 
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