レイクナイト!      
 
 
 
             夜が更ければ恒例になった宴会が待っている。
 
             先輩達が直ちゃんにくっついたりしたら、それは許せないんだけど、あれから
 
             ずっとダイスケ先輩がガードしてるから余計な心配は必要なし。
 
             いつものように勧められるまま飲んで、笑って、食べる。女の人だけが固まっ
 
             た一角では、どんなに羽目を外しても危険はないから、安心感から更に飲んじ
 
             ゃう。
 
             「こぉら、未散ってば飲み過ぎよ」
 
             「そんなことな〜い。まだ大丈夫〜」
 
             取り上げられた缶チューハイに手を伸ばすんだけど、あっら不思議。どうした
 
             ことか、届かないの。
 
             伸び上がってるのに、ユウカ先輩が高く掲げたお酒まで指先すらも届かない。
 
             「んん?」
 
             そんなに身長差ないし、ちょっとお尻を浮かせたら…あれ?あれぇ?
 
             「とどかにゃ〜い」
 
             口惜しくて唇を噛んで見やった先では、女性陣一同が困った顔で笑ってた。
 
             ある人はあたしの髪を撫で、ある人は肩を叩き、ある人は危ないからもうよし
 
             なさいとたしなめる。
 
             なんで?どうして。意識もはっきりしてるし、全然大丈夫!もっと飲んだって
 
             理性的でいられるよ?
 
             「まだ、飲むの!それ、返して〜」
 
             「だめよ。すっかり足腰立たなくなってるのに…」
 
             「未散、お酒買いに、行く?」
 
             いじわるなユウカ先輩の後ろから、ひょいっと長身を覗かせたのは直ちゃん。
 
             ダイスケ先輩と一緒にいたはずなのに、苦手な女の人もたくさんいるのに、こ
 
             っち来ても平気なのかな?
 
             それよりそれより〜滅多に笑ってくれない直ちゃんが、ちょびっとだけど微笑
 
             んでる〜きゃ〜!貴重〜!!
 
             「行く〜!」
 
             立ったはずなのに、どこをどう間違ったか直ちゃんに抱きつくハメになっちゃ
 
             ってたあたしは、まぁいいかとそのまま腕を独占することにした。
 
             んふふ〜ごめんねぇ、お姉様方。この人は、あたしのなの。ぜ〜ったい、あげ
 
             られないの〜。
 
             「もしもし?ポーカーと言うには、とぼけすぎた無表情が壊れてるわよ?」
 
             「うん、すっごく嬉しいから。それに、あなたにはばれちゃったみたいだから、
 
              隠すの面倒だし、いい」
 
             「…計画的?泥酔するの待ってたの?」
 
             「口実ないと、抜けにくいから。正気だと、抵抗されるし」
 
             「丁寧に扱ってね?あたしだって、気に入ってる子なんだから、明日使い物に
 
              ならなかったら、あることないこと吹き込んじゃうわよ」
 
             「…俺信用あるし、大丈夫」
 
             ぬくぬくと直ちゃんの胸に甘えていたあたしの頭上、火花が散っていたらしい
 
             けど、見てないから信じないわ。
 
             少し怯えた表情のダイスケ先輩には悪いけど、生きる気力に乏しい直ちゃんと、
 
             優しいユウカ先輩が揉めるなんて想像つかないもん。
 
             酔い醒めの後輩をからかおうとしたって、ダメ。だってこの時のあたしは、と
 
             ーっても幸せだったんだから。
 
 
 
             「すっごい!めちゃめちゃキレイなお星様!!」
 
             スモッグで覆われた都会の空じゃ、決して拝めない満天星空を、直ちゃんと眺
 
             めてるなんて奇跡みたい。
 
             何年も、不毛に失恋し続けてる時は想像もしなかったわ。
 
             柔らかな草の上に寝ころんで、しっかり手を繋いで、虫の音しかしない闇の中、
 
             ロマンティックこの上ない状況で空を見上げるなんて。
 
             恋愛の神様が不憫だったあたしに、数年分のお年玉を落としてくれてるんじゃ
 
             ないかしら?
 
             「ね、直ちゃん。キレイだね?」
 
             同意を求めて流した視線の先で、かの人は上じゃなくあたしを見てる。
 
             じっと、瞬きもせず、強い視線で。
 
             「うん、未散、可愛い」
 
             「え?じゃなくて、空…」
 
             は、一瞬で見えなくなった。
 
             覆い被さる大きな体と、星より大好きな直ちゃんが目も眩むほどの大写しで視
 
             界を奪ったなら、世界は時を止めてしまう。
 
             緩やかすぎる高原の時間さえ、なにもかも色を音を動きを消し、今ここで呼吸
 
             するのはあなたとあたしだけ。
 
             「…キレイは…直ちゃんね…」
 
             静かに降りてきた唇が触れる直前の呟きはスルリと飲み込まれ、柔らかな舌と
 
             共に互いの中へ落ちていく。
 
             溶けて、緩やかに。
 
             ほどよく回ったアルコールの助けか、あの日以来数度しか繋いでいない体が妙
 
             に熱くて、触れて欲しくて、強く体を抱きしめた。
 
             「未散…欲しい?」
 
             呼吸の合間、鼓膜を震わす声が理性を千切る。
 
             「うん、いっぱい抱いて?」
 
             短い合図で、それからは途切れ途切れの幻が残るだけ。
 
             肌を吸う唇、激しく揉まれた胸、するすると体を降りていく頭があちこちに消
 
             せない火を灯して、潤んだ泉で立ち止まる。
 
             「ん、はぁ!」
 
             舐めあげられた花芽に背を仰け反らした直後、指が数本あたしの口に差し込ま
 
             れた。
 
             「声、聞かれるよ?」
 
             いじわる。こんな時も冷静に、そんなこと言うのね。
 
             あたしだけ熱くて、あたしだけ乱れる。ずるい。
 
             「ん、んんっ!!」
 
             何度でも追いつめるくせに、その先にある物を決してくれない直ちゃんが、苦
 
             しそうに吐息を詰めて入ってきたのは、意識も半ば飛んだ頃。
 
             「未散、好き、可愛い。一緒に、いこ?」
 
             すぐにキスを深くするから、答えられなかったわ。
 
             あたしだって好き。直ちゃんより、いっぱい好き。
 
 
 
             戻った記憶もないのにバンガローのベッドで目覚めた後、襲うのは多大な後悔
 
             と、実害。
 
             「え?え?や〜ん!」
 
             自分の痴態はイヤミなくらいはっきりと脳裏を占め、胸に足に散った赤い跡は
 
             どれがキスマークでどれが虫さされなのか…。
 
             「…外は、やめよ」
 
             裸の恋人は頬を掻きながら、そう言ったとか言わないとか…。
 
 
 
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