10.side秋 家族紹介
 
 
 
        我が家には、変態とそれに洗脳された憐れな子羊がいる。
 
        つーか正確には俺んちじゃなく緑おじさんの家なんだけどな、ガキの頃からこっちにいる
 
        時間のが長いから細かいことはいーんだ、ホントどうでも。うっかりおじさんをオヤジと
 
        呼ぶくらい俺はここんちの子で、それに意義を申し立てるのは影の薄い本物のオヤジくら
 
        いだからさ。
 
        さて、本題にもどんなきゃな。問題てんこ盛りの、こいつらに。
 
        「こら、わざとだろ」
 
        新聞読みながらメシ食わしてもらってる30近いじじぃは、変態で情けないことに俺の実
 
        の叔父、星野青。
 
        IT関係の会社を友人と興し収入は同年代のウン倍、学歴だって東京大学卒、加えて顔が
 
        良い背が高いほどよく筋肉もついてると、イヤミなくらいにそつがない人物だ。
 
        15で4才の女の子と婚約した変態だという事実を伏せれば、な。
 
        「だって、あーちゃんワガママなんだもん。ピーマンがわかんないように、アスカ一生懸
 
         命お料理したのに」
 
        で、こっち。親鳥よろしくせっせと料理を口に運んでやってた少女が、いとこの星野アス
 
        カ。
 
        色白、緩いカールのくせっ毛、漆黒の瞳に小柄な体…少々バカっぽい言動とどれをとって
 
        も男の視線を集めること間違いナシの美少女だが、欠点は14年も前から将来を共にする
 
        相手を決めてしまったこと。
 
        2人合わせて目下、俺の頭痛の種だ。
 
        「ちゃんと食べてくれなきゃ、いや」
 
        朝っぱらから濃密に甘ったるい空気を発生させて、アスカが差し出したのは厚焼き卵に見
 
        える。
 
        いやもう今更なんだけどさ、お前の味覚はおかしいだろ。ピーマンて卵焼きに投入するか、
 
        普通。
 
        あきれ果てる周囲はお構いなしに、『食べない』『食べて』を繰り返す連中をどう処理し
 
        ろって言うんだ。正面ではお袋が見なかったフリで食事を続けているし、美月おばさんも
 
        一向に気にせずテレビのニュースにチェック入れてる。
 
        「お兄ちゃん…」
 
        ちょいちょいと俺の制服を引っ張って、いたたまれないと視線で訴えてくる妹のボタンに
 
        任しとけと請け合って、他力本願、正面の無表情にSOSを発信した。
 
        我関せずとゆで卵の殻を剥いていた氷の美少女は、じーっとプレッシャーをかけ続ける重
 
        たい眼力を最初こそ無視していたが、バカップルの禁じ手にとうとう腰を上げざる得なく
 
        なる。それは…
 
        「じゃ、これで許して?」
 
        上手いこと卵をすり抜け、アスカの頬にキス。
 
        「う〜ん、しょうがないなぁ」
 
        言葉と裏腹にとろりと崩れた表情で、青叔父の腕に縋る美少女。
 
        毒にあてられて吐き気がしてきたぞ…。
 
        「はいはいはいはい、お姉ちゃんも青くんも、いい加減にしようね」
 
        バリバリ…違うなねちょねちょ音がしそうな間を無情に引き裂いて、ハルカは年嵩の叔父
 
        を一睨みで牽制すると元いた場所に座り直す。
 
        ホントならこの一連の作業は緑おじさんの日課になってるんだが、生憎昨日から出張で異
 
        国に赴いているため、代打でアスカの妹の彼女が登場したというわけだ。
 
        「ハルカってばヤキモチ妬いてもあーちゃんはあげないんだから」
 
        的はずれなセリフでぷいっと横を向いた姉を一顧だにせず、妹は残りのご飯をかき込みな
 
        がら盛大なため息を吐いた。
 
        「馬鹿め、アンタと違ってあたしと青くんは堂々たる血縁者、泣く子も黙る傍系血族三親
 
         等だ。あげるもあげないも恋愛対象にもならんわ。つーか頼まれてもいらん」
 
        ぶつぶつと呟かれる独り言の内容が、その口の悪さが父親によく似ていると思うのは思い
 
        過ごしじゃないだろう。
 
        事実、この姉妹は誰が見ても似ていない。顔形、仕草−例えば小首を傾げるのは、共通の
 
        癖らしい−は類似点も多いが、雰囲気と性格が天と地ほども違う。アスカを天使とするな
 
        らハルカは悪魔、イチゴショートとガトーショコラ、ホワイトチョコとビターチョコって
 
        具合だ。
 
        2人が並んでいたら、さぞ目の保養になるんじゃないかとうらやましがるヤロー共、大い
 
        なる間違いだからな。外見を磨くことに余念がないアスカと違ってハルカは身なりに無頓
 
        着で、普段着が学校ジャージという強者なのだ。
 
        視力が悪いから要矯正なんだが、これだってコンタクトの洗浄が面倒だからっつー泣けて
 
        くる理由でメガネをご愛用、美容院に行くのが面倒で伸ばしっぱなしの髪は当然邪魔だと
 
        始終ひっつめられている。
 
        感情に乏しく、表情に不自由してるのもいけない。身内の前では小声で悪態ついたり、ご
 
        くまれに声を上げて笑ったりもするのだが、一歩外に出れば鉄面皮が張り付くのだ。
 
        ハルカが美少女だと知っているのは家族オンリー、齢13にして将来不安な人材だ。
 
        余談だが俺の妹のボタンは2人の丁度中間、バランスよく配合された人間として完成系に
 
        近い美少女だと思ってくれ。兄馬鹿じゃないぞ、真実だ。
 
        ともかく、アスカの無邪気な振る舞いも、全面に押し出された幼稚さも青おじさんのせい
 
        だと俺は睨んでる。緑おじさんと二人して掌中の玉よろしく猫っ可愛がりして、世間の冷
 
        たい風からも暗部からも庇いに庇って育てたんだからな。
 
        かといってハルカがないがしろにされたからひねたわけじゃないと付け加えとく。アイツ
 
        がああも冷徹で感情が欠如しているのはひとえにオヤジに似たせいだ。おばさんに似たら
 
        愛想のいい子になったのにな、残念だ。(これを緑おじさんに言ったら笑われた。なんで
 
        だ?)
 
        とにもかくにも、半居候の俺としては後数ヶ月で訪れるアスカの卒業式を心待ちにしてい
 
        るのが現状である。
 
        その裏で死力を尽くした兄弟喧嘩が起ころうと、血の雨が降ろうと知った事じゃない。ベ
 
        タベタいちゃいちゃ公害をまき散らすカップルが消えることが、今星野家で大いに望まれ
 
        ていることなのだ。
 
        「…羨むよりさ、自分も彼女作ったらどう?」
 
        鼻で笑う従兄弟、小学生の静(せい)が、一番性格が悪く根性が曲がってると伝えるのを忘
 
        れていた。
 
        …変人ばっかだな、おい。
 
 
 
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