5.曖昧な姉弟。      
 
 
           母親の再婚でできた一つ下の弟は、年を経るにつけ容姿も頭脳も特出していき、初恋の相
 
           手としてはあまりありがたくない人間に育ってしまった。
 
           「入るよ、姉さん」
 
           きっちり締めてあったはずのドアに寄りかかって、悟がこっちを見ている。
 
           みっともない泣き顔を晒して、ぼんやり伺う自分が情けなかった。
 
           泣きすぎて理性の半壊した脳では、適切な言葉が浮かばなかったの。原因相手だしね。
 
           「結衣先輩から連絡もらったんだ。また失恋したんだね」
 
           しかたないなぁって笑う顔が好き。乱暴に髪をかき回す指が好き。
 
           みんな欲しいのに手に入らない、悟が好き。
 
           「しょうがないでしょ、高望みだったんだから」
 
           人気も成績も上の上、悟レベルの男に告白して振られるのはいつものこと。
 
           でも、それが泣いてる原因じゃない。これでまた、彼を思いきる切っ掛けが掴めなかった、
 
           それが私を悲しくさせる。
 
           「見かけのいい男ばっかりにこだわるから、いけないんだよ。近隣の有名どころにはあら
 
            かた失恋したんじゃないの?」
 
           笑い事じゃないのに、ホントにもう相手がいないんだから。
 
           陽気な笑顔を恨みがましく睨んで、長い吐息をついた。
 
           「大学に行けば新しい相手が見つかるわよ」
 
           「姉さんの成績で拾ってくれるところがあれば、だろ?」
 
           ナーバスになってる受験生に、ひどいこと言うんだから。
 
           「地方ならランクが落とせるから平気」
 
           強がりじゃなく、事実。先生にも、都内は難しいけどここならって太鼓判もらってる大学
 
           がある。
 
           既に悟と同じ家で生活することに、甚大な精神的苦痛を強いられていた私には、渡りに船
 
           だった。
 
           「家を出るの?」
 
           見下ろしてくる柔らかな瞳に、自分の所在などどこでもかまわないと言われているようで
 
           胸が痛んだ。
 
           「うん、北海道に行こうかなって」
 
           数ある候補地から選んだ、できるだけ遠い場所。行き来が困難なら、帰省を取りやめる口
 
           実にもなるのがいい。
 
           辛いと気づかれないよう明るく答えたら、髪に置かれていた悟の手が背に回された。
 
           「…なに?」
 
           引き寄せられる行動の意図が掴めず、眉根を寄せると頬に柔らかな温もりが落ちる。
 
           「さささ、悟?!」
 
           今の、唇?!
 
           驚愕に体を引いても、回された腕がそれを良しとしなかった。
 
           「放してっ!彼女に言いつけるよ!」
 
           そうよ、私が好きだと言えない大半の理由がそこにある。
 
           悟が高校生になったら告白しようって決めてたのに、中学時代からせっせと彼女作っちゃ
 
           って、別れたと思ってもすぐ次がいて…。
 
           同じ家に住んでて、玉砕なんてしたら家族でいられない。だから、ずっとずっと我慢して
 
           たんじゃない。こんなにくっつかれたら、柔な心臓がオーバーヒートしちゃうわ!
 
           「別れるからいいよ」
 
           全く変わらない表情からは、悟の真意は読み取れなかった。
 
           わかるのは今、何とも誠意に欠ける言葉を聞いたことくらい。
 
           「簡単に彼女と別れられるわけないでしょ!バカなこと言わないで」
 
           「セフレと切れるのに、難しいことはないの」
 
           「………はい?」
 
           優等生の口から出たのかしら、セフレって。それ、それ…
 
           「ヤリ友?」
 
           「下品な言葉知ってるね」
 
           確かにあまり綺麗な言い方じゃないけど、私は持ってないから。悟の方が問題じゃないの?
 
           「え、ちょ、ちょっと、どこ触ってるの?!」
 
           ブラウスのボタンを外して、遊ぶ指先が掠めたのは胸。
 
           「いちいち言わなきゃわからない?ブラを外して胸を触ります」
 
           ニヤリと歪んだ唇が、はだけた胸元を探り出す。
 
           根本が違う、激しく変!
 
           「いきなりどうして?進学先の話、してたんじゃないの」
 
           必死に頭を押しのけながら、ズルズルと後退して机の脚に背骨を痛打した。
 
           泣けてくるけど、かまってられない。悟が好きだけど、突然襲われたいなんて思ってない。
 
           「1人見落としてるから、教えてあげようかなって」
 
           容赦ない力で腰を引き戻されながら、そのセリフのつながる先を考える。
 
           「見落としって、なにー!!」
 
           素肌を探る指先に、必死な抵抗中じゃ思考がまとまるわけもなく、まんま質問を投げ返し
 
           た。
 
           「僕も有名人なんだよ。カレシにしたい男、上位入賞者」
 
           「知ってるもん!それが、襲われるのと関係あるの?」
 
           「僕に失恋する前に、圭が大学で男を捜すって言うから、気持ちを表現してみようかと」
 
           「どんな表現よ!」
 
           「こんな」
 
           ぶつける勢いで重なった唇が、混乱に拍車をかけ、視界が歪む。
 
           剥き出しになった肩に外気が触れ、ずり上がったブラの下で動く手のひらを止める力も湧
 
           いてこなかった。
 
           「け…い?」
 
           呆けたように天井を見つめる目から、止めどなく流れる雫に気づいた悟が動きを止める。
 
           「僕に触られるの、イヤ?」
 
           上手く声が出ないから、必死に首を振った。
 
           「泣くのはどうして?」
 
           好きだからよ、ずっと悟が私だけのモノになればいいと思ってたから。
 
           「…す…き…」
 
           やっとそれだけ言うと、彼は困ったように顔を歪めて、濡れた頬を舐めた。
 
           「僕を?それじゃあ、泣くのは変だ」
 
           「変…は、さとる…よ…」
 
           しゃくり上げる私の髪を撫でながら、唇が耳を首筋を伝う。
 
           「ずっと別の女で我慢してたのに?圭はいつだって別の男を追い掛けてたから、襲ってし
 
            まわないように他で紛らわせていたのに」
 
           冷たい指先が、きつく閉じた太股をなで上げて、刺激に跳ね上がった胸を舌が捕らえた。
 
           「う…そっ!…彼女が、いたのは…悟の方」
 
           体を捩っても、のし掛かられた体重で逃げることも叶わない。
 
           中途半端な意思確認を無視して、快楽だけが先行するのは、心を置き去りにしているみた
 
           いで切なかった。
 
           「違う、圭の口から出るのは僕以外の男の名前ばかりだ」
 
           膝を割る強引な足が、我が儘な指の侵入を容易にして、布越しに小さな粒を痛いほど撫で
 
           る。
 
           「やだ、やだっ!やめてよっ!!」
 
           悲鳴に近い叫びは唇で封じられて、下着を引き抜いた乱暴さのまま、苦しいほどの圧迫感
 
           が息を詰まらせた。
 
           「んーっ!!ん、んんっ!!」
 
           「好きだよ、ずっと圭だけが好き。だからどこにも行かせない」
 
           欲しいモノは手に入れたのに、欲しい言葉も手に入れたのに。
 
           幸せよりも、胸が痛い。
 
 
 
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                     …これ、ハッピーライフか…?どこが…? 
                     闇堕ちさせるとは…ごめんなさい、ゆう様!!(逃)  
 
 
 
 
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