3.校医の罠。              
 
 
           屋上、空き教室、裏庭、サボるのに一番都合がいいのってどこだかわかる?
 
           それはね、
 
           「本宮さん、本宮さん」
 
           軽く揺すられて穏やかな微睡みから抜け出した先に、虫も殺さないって顔した人物がいる。
 
           白衣の下に暑苦しいネクタイをがっちり締めた、校医。
 
           28歳独身、母性本能をくすぐると評判の笑顔に、ひょろっと背の高い綺麗なシルエット
 
           が女生徒に人気の彼だ。
 
           「…おはよ」
 
           快適なベッド、教師に見つかる心配のない場所、サボるに最適な保健室で放課後の起床を
 
           促されるのは、すっかりあたしの日課になってしまった。
 
           大あくびをしてまだ高い太陽に眉をしかめる。
 
           何よね、暗くなる直前に起こせっていったのに、早すぎるじゃない。ただでさえぼーっと
 
           してて使えない奴なのに、本気で役立たず!
 
           「ちょっと、池内君!あたし日が沈んだら起こせって言ったでしょ?!なんで今よ、あー
 
            まだ5時じゃない!」
 
           飾り気のない壁掛け時計が知らせる時間に、更に怒り倍増よ。
 
           「6時に起こして、じゃ、よろしく」
 
           まくし立てて、も一度ベッドへ…戻れないじゃない。ちょっとちょっと、何偉そうに肩と
 
           か掴んじゃってるのよ!
 
           ぎっと睨んだ先に、だがあるのは何故か寒気を覚える薄ら笑いで。
 
           「6時じゃ、1ラウンド飛ばさなきゃいけなくなっちゃうじゃないですか」
 
           変わらぬ間抜けた顔をしながら、ヤツは見事と褒めてたくなる手際であたしの両手を拘束
 
           していく。
 
           「ちょ、ちょっと…?」
 
           意外に骨張った大きな手は一握りで両の手首を絡め取り、しゅるっと不吉な音を発しなが
 
           ら解かれたネクタイが、痛みを感じる強さでベッドとあたしをつないでしまった。
 
           抗議?する時間も余裕もないわ。あの昼行灯が、いるやらいないやら影の薄い男が、いき
 
           なり女子高生の自由を奪う度胸があるなんて想定外。
 
           「…気でも触れた?」
 
           真剣にこんな感想を持つのが、精一杯だもの。
 
           「いいえいたって真剣です。いつ、こうしてあげようかと思ってたんですよ」
 
           震えを誘う指先が唇をなぞって、強く頤(おとがい)をあげる。
 
           「本宮さん、セックスを知ってますか?」
 
           優しいお兄さんの笑顔のくせに、なんてえげつないこと聞くんだこの男。
 
           もちろん手だってその間休んでいない。
 
           セーラーをたくし上げて、現れたブラをずらすと尖った先端を軽く、弾く。
 
           「っ!…知ってたら、なんだっていうのよ変態校医!」
 
           羞恥より怒り、恋情でなく恐怖。あたしの中を巡るのはそんな感情。
 
           勇気度胸とは対極にいるようなヤツが、トチ狂ったがどうした!圧倒的力関係は、生徒で
 
           いつだって被害者たる子供に有利にできてるんだ。
 
           奮い立たせた気持ちを睨みつける瞳に強く注いで、へらへらと見下ろす男にぶつけたがそ
 
           れが全く無意味なら、どうしたらいいんだろう。
 
           だって、ヤツの答えは、
 
           「それならいきなり始めちゃっても、大丈夫ですね」
 
           なんだから。
 
           「何を始める気よ!ちょっと、どこ触ってんの!!」
 
           太股を滑り始めた掌が柔肌をゆっくり揉みしだき、唇は当然のように胸元を襲った。
 
           たったそれだけのことなのに、どうして吐息しか出ないほど溺れてしまうんだろう。
 
           跳ね上がった背をなぞる指が、上目遣いにあたしを嗤う視線が、全身に冷たい快感を植え
 
           付ける…?
 
           エッチは一度しか知らない。カレシとも言えないような先輩と好奇心でつないだだけの体
 
           は、もちろん苦痛しか教えてくれなかった。
 
           胸をゆるゆると撫でられることを、気持ちいいなんて思わなかった。
 
           布越しにあそこを嬲られると、心臓が苦しくなるほどドキドキするなんて。
 
           「は、んっ!…警察に、訴えるわよ…!」
 
           でも、くじけない負けん気がヤツを睨むだけの力をくれる。けれど少しも気にした風もな
 
           く、のんびり快感を与え続けて男は言うのだ。
 
           「はは、これだけ濡れれば和姦が成立しちゃうんじゃないですか?」
 
           不意に潜り込んだ指先が乱暴にかき回した先は、耳を覆いたくなるほどの水音を発してあ
 
           たしを裏切る。
 
           「全く抵抗の跡もないですしね、気持ちいい?」
 
           「っば!!」
 
           バカ言ってるんじゃない、と叫びたかったはずなのに、なのに、声は重なった唇に吸い込
 
           まれて消えた。
 
           ヘビのようにしつこく絡む舌、我が物顔で出入りする指、強く肉に食い込む爪。
 
           ぎりりと、手首に食い込んだネクタイが悲鳴を上げる。安っぽいパイプベッドを軋ませな
 
           がら、あたしを浸食しようとする男がのし掛かるのに、ぶっ飛ぶほどの快楽。
 
           冗談じゃないわ、これ以上はダメよ。
 
           なし崩しは趣味じゃない。何もかも、自分で決めて選ばないと…
 
           歯茎を撫で回す舌から鉄さびの味がするまで、歯を立てた。苦痛に声を上げてくれれば、
 
           せめて弾かれたように体を離してくれたら、したり顔であざ笑うのに、
 
           「…恐いの?」
 
           何故、あたしが追いつめられてるのか、わからない。
 
           「相手に全て委ねてしまうのはね、負けじゃないんですよ」
 
           血の滲む舌が、淫靡に唇を湿らす様から目が離せなかった。意地っ張りから剥ぎ取った仮
 
           面を得意気に見せつけて、ヤツは抵抗の消えた体に次々と征服の証を刻んでいく。
 
           「僕は、簡単に貴方に支配されてあげたでしょ?それがおいしい餌を手に入れるための罠
 
            とも知らずに、愚かな女王様」
 
           息苦しくなる固まりに押し込まれても、もう、逃げようとは思わない。
 
           「時間をかけて教えて上げますよ、支配される喜びを」
 
           いらないわ、そんなもの。
 
           だって、身を世もなく喘ぐ顔を楽しげに見下ろしてる男が既に教えてくれたから。
 
 
 
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