直ちゃん、暗躍。     
 
 
 
             皆さん覚えておられるだろうか、ホワイトデーに未散にちょっかいかけてた男
 
             を。
 
             高橋…でなく高梨君。同じ大学に受かったとはしゃいで、直哉相手なら簡単に
 
             勝てるだろうと踏んだ彼は戦意満々だった。
 
             やる気も活気も無駄に漲っていたのに、それなのに。
 
             登場していないのは、なぜ?
 
             時間は一気に3月まで遡る。
 
             ホワイトデーの翌日、さんさんと雪降る寒い朝、新聞を取りに現れた高梨君は、
 
             心臓が止まるほど驚いた。
 
             門柱の影に、なんかいるし…白くってまぁるい…でも頭黒いからもしかして…
 
             「死んでない、生きてる」
 
             人間であった。おそるおそる突いていた指を高速で引き戻して、高梨君は顔を
 
             ひきつらせる。
 
             「…昨日、松尾さんに張り付かれていた方、ですよね?」
 
             ぼんやり見上げてくる覇気のない顔に、見覚えがあった。
 
             キレイだし整った風貌なんだか、いかんせん目が死んでいる。鯖の生き腐れじ
 
             ゃないけど、体生きてても視線が虚ろって言うか、今朝は寒いから凍死寸前っ
 
              て言うか…
 
             「うん、未散の許嫁なんだ、俺」
 
             「はぁ?!」
 
             しれっと無表情でのたまうが、それはきっぱり嘘だろう。
 
             明らかに嘘だろう、昨日の今日で信じる人はいないだろう。
 
             けれど本人いたって本気で、全身にまとわりつく雪を払い落としながらゆっく
 
             り高梨君の前に立ちはだかった。
 
             高身長な分余計な威圧感を発して、口角をちょいと上げたわかりにくい微笑み
 
             を浮かべながら、すっかり気圧されてる憐れな少年に畳みかける。
 
             「未散はね、まだ知らないだけ。でも決まってるから」
 
             「え、や、でも」
 
             一方的に許嫁なんて古い言葉を言い切るものを、信じていいかどうか。
 
             拭いきれない疑問に果敢な反撃を試みる高梨君の抵抗も、そう長くは続かない。
 
             だって、
 
             「邪魔、する?潰すよ?」
 
             死んだ魚のようだった目が、一瞬危険なまでの輝きに充ち満ちちゃったら、人
 
             間防衛本能の命令に従うのが賢明なのだ。
 
             「しません。…絶対しません」
 
             恋は惜しいが命があってこそ。
 
             雪に埋もれても、ライバルをけ落とすために座り込めちゃう男に勝てる気がし
 
             ない。執念というか、怨念を感じてしまう。
 
             「うん、じゃ、よろしく〜」
 
             やる気のない声を残して去っていく後ろ姿は、けっこ隙だらけなんだけどな、
 
             人は見かけによらないモノなのだ。
 
             こうして、寒空の下善良な少年の恋は消えた。
 
             特筆すべきはこのような事態、初めてじゃなかったってコトだろう。
 
             直ちゃんの活躍(?)によって消されていった淡い恋は、両手の指ほどあるん
 
             だ、ホントはね。
 
 
 
HOME
 
 
 
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送