ハロウィン・トリック! 1

最近思うんだけど、ダイスケ先輩とあたしって、もしかして似てる?
「やだ、前にも教えてあげたじゃない」
うっかり声に出ちゃった疑問を聞き止めたユウカ先輩は、さもおかしそうに笑いながら、おバカで可愛いわね〜とか言って 引き寄せて腕の中で、ギューッて…。
「く、苦しいっギブギブっ」
「おい、タップ入ってるから離してやれよ」
「え〜いや〜」
恐いのは、ユウカ先輩が言うとそれが冗談に聞こえないトコだよね。
取りあえず力なく背中を叩き続けた甲斐があったのか、哀れみたっぷりのダイスケ先輩の声が効いたのかはわかんないけど、 興に乗ってた彼女は軌道修正をしてくれたわけで、おかげで本題に帰れました、ええ。
「と、ともかく。ダイスケ先輩イベント好きだよね」
息苦しさに浮かんだ涙を拭いながら、テーブルの上に広げた黒とオレンジのあれこれを前に、死にかける原因となった疑問を 投げてみると、見事に捕球して頂けた。
「おう!俺は遊べて酒が飲めるものはことごとく好きだ!」
「ふふ、ハロウィンで飲酒しようって発想が既に、逸脱お・バ・カ♪」
元気に答えたまでは良かったのにね、タイミング良くざっくり切り捨てられたものだから、いじけちゃったよ、先輩。
でもでも、それ見て素敵な反応〜とか言って愛しのカノジョが構ってくれるだから、本望なのかな?恋人同士の考えることっ て、それぞれのスタイルがあるから判りづらいよね〜。
なんてね、我が部の名物コンビの心理状態はおいといて。
本日バスフィッシング同好会は、たまり場にしている研究室にてダイスケ先輩発案のハロウィンを楽しもうっ!…という催し を、実行している最中なんである。
取り立てて何しようとかは決めてなけど、どこからお金が出てるのか、集まってる人数分の扮装は用意してあるから不思議。
「どれ着ても…いいの?」
ぴらっと持ち上げた魔女っ子のマントを、気乗りしない顔で指し示すと、
「そうよ。だけど、未散は今持ってるそれを着てね」
と、微笑みとともに訳わかんないお返事。
吸血鬼だかジャックオランタンだかしらないけど、他にこんなたくさんあるのに、なんでよりにもよってこれ?
一番露出度の高いマイクロミニのAラインビニールワンピと、ツバ広で円柱の天辺が折れ曲がったお約束の魔女帽子と、 凝った演出ありがとうな7センチヒールのブーツって、一歩間違うと危ないお姉さんみたいじゃない…。
だけどそれはいらない心配かも知れない。だって紗英みたいに大人っぽい女の人なら魔女に見えるだろうけど、童顔のあた しがやったんじゃ下手な学芸会並に服が浮くんだもん。
マンガのキャラクターのようなミスマッチ。おかしいってわかってて、こんなの着たくない。
「え〜こっちの狼男が…」
「未散は魔女」
「う〜吸血鬼…」
「着てね?未散」
「いっそ、フランケンでも…」
「そう。未散は裸がいいのね」
「…魔女がいいです…」
けど、こうやって押し切られちゃうんだよね。
ユウカ先輩はひどく怒るとか、派手な感情のアップダウンがない代わりに、見事な話術と微笑みで人を思う 通りに動かしちゃんだってこと、付き合い半年目にしてやっと気付いた。
今みたいに反論を全部封じ込められて、納得いく前にやらざる得なくなるとか結構あるんだけど、これってある意味最強。
高飛車な人や命令口調には反撃することもできるけど、煙に巻かれちゃうとそうはいかないんだよね。
それにあたし先輩のこと好きだから、多少の無理無茶は許せちゃうって言うか、平気なの。
魔女は…やだけど、こうまで言うからにはなんか理由があるのかも知れないし、ま、いいかな。
「じゃ、着替えてきまぁす〜」
「は〜い。ダイスケ、覗かれないように見張り番しててね」
「お〜う」
いつのまにやら復活して、カボチャのかぶり物を頭に載っけてたダイスケ先輩に送られたあたしは、密閉空間の資料室で 際どい衣装を着たんだけど。
「うぁっ!」
何げに部屋を出ると一緒に、扉の前に立ってた人と正面衝突しそうになっておかしな声を上げちゃった。
「誰?え?」
「かわいい」
顔を上げる間もなく悪夢再び…違った、今度はふんわり抱きしめられて、呟きでその人を知って。
「直ちゃん」
「うん。未散、かわいい」
かわいいって、直ちゃんがかわいいって!恥ずかしいけど、着て良かった…じゃなくて、どうしてここにいるんだろう?
なんでなんで?と視線で聞いてみたら、ユウカ先輩が苦笑しながら教えてくれた。
「大山さんね、自分が一番に未散を見られるなら、ハロウィンパーティーの出席を許してくれるって」
あ、そっか。この後居酒屋で予定されてる『秋だ!豊作だ!カボチャと言えばハロウィンだ!BYダイスケ』な 飲み会、直ちゃんに出ないでってお願いされてたんだっけ。
今日はおじさんとおばさんが留守で、達ちゃんと紗英がデートで、俺1人になっちゃって寂しいから、未散行かないで、 一緒にいようって、断れるわけ無いお誘いをもらって、楽しい酒宴に未練はあったけど直ちゃんと2人の時間も捨てがたい し、何よりたまにしかないたってのお願いだし、衣装だけ着てハロウィン気分だけ味わおうと思ってたんだよね。
でもでも、
「ホント?ホントに出てもいい?」
相変わらず表情の読みにくいほぼ無表情を凝視すると、こくんと頷きが返ってくる。
実を言うとね、ちょっと惜しいなとも思ってたんだ。
直ちゃんと2人は週に何回もできるけど、同好会の飲み会は月イチ程度しかなくて、更に今回みたいな出席率100%とも なると年に数回しかない。
だから、出てみたいって言うのも本音で。でも、全部を放り出しても直ちゃんといたいっていうのも本音で。
「俺も行っていい?未散いないと、暇」
そっか!その手があるじゃない。
抱きしめられたままだった腕の中からちょっとだけ逃げて、直ちゃんの肩越しにユウカ先輩に確認を取ると。
「先輩、先輩!」
「いいわよ〜人数は多い方が楽しいもの」
「………俺に危害を加えないでくれるなら、オッケー…」
「?よくわかんないけど、直ちゃんできる?」
「できる。お酒、回るまでなら、多分」
「うわっ!危険!」
「ふふふ、大丈夫よ、多分」
怯えるダイスケ先輩と、いつに増して楽しそうなユウカ先輩と、よくわかんないけど取りあえず部外者の参加はいいみたい、 だよね?
あ、でも合宿とか自主参加してたし、顔見知りの人も多いから平気かな。……でも、綺麗なお姉さん達がまた、直ちゃん狙い だったりしたら…。
「た〜のしいわねぇ、未散は考えてることが全部顔に出るから」
人が真剣に心配してるって言うのに、先輩ったら呑気!テーブルの向こうからからかったりしてっ。
「あげない」
そんで、直ちゃんもなんでもかんでも真に受けちゃうものだから、せっかく逃げ出した腕の中にあたし引き戻したりして、 ちっとも悩みが深刻にならないじゃない!
てな感じで、思い思いにモンスターの扮装をしたおかしな一行が、夜の街を練り歩きながら、ハロウィン宴会を開く 居酒屋を目指したのでした。

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結局、直はほとんど出ませんでした(笑)。
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