6.
 
             「珍しいところで会うな」
 
             「それはこっちのセリフ」
 
             一流商社マンとの合コンだって言うから、気合い入れてきたのに一番人気が畑野さん
 
             てのは詐欺よね。
 
             イタリアンレストランで4対4のメンツは、外見に騙された女の子がサド男にまとわ
 
             りつくハーレム状態。
 
             他の男性諸氏も頑張っちゃいるのよ、顔は並、収入は平均ちょい上なんだから。
 
             でもねぇ、ほとんど年齢変わらないのに「部長」とか呼ばれちゃってる畑野さんは圧
 
             倒的リードを誇るわけ。だって顔が良くて役職だもん。サドは外見じゃわからないし、
 
             バイだなんて想像する人間がいるわけない。
 
             事実を知ってるのはあたしだけ。
 
             「…どうしてそこに座るのよ」
 
             憐れな部下を追い出して隣に腰を落ち着けた畑野さんを睨むと、髪をくしゃりとかき
 
             混ぜられた。
 
             「繭の無駄な努力を見るのが、忍びなくてな」
 
             ちょっと、その哀れみの表情やめて!悟りきった静かな瞳がむかつくの!
 
             「ふんだ!あたしだってトラウマを克服したのよ、恋の一つや二つできるに決まって
 
              るじゃないの」
 
             そう、あの大騒ぎから数日、今回の合コンに参加したのは染みついたセックス恐怖症
 
             が消え失せたかどうか確認するための男捜しでもあるんだから、いらぬ同情は抱かな
 
             いで欲しいもんだわ。
 
             「克巳のキスで冷や汗かいてたのに、随分大きく出たな」
 
             「…!なんでそれを知ってるのよ!!」
 
             「聞いたから」
 
             ………あたしのぷらいべーとはないの?
 
             畑野さんの無表情を見る限り、無いのね、そう…くっそーっ!
 
             「相手が悪かっただけだもん、知り合いじゃなきゃ大丈夫、きっと」
 
             強がりなんだかやけくそなんだか、本人もわかっちゃいないけど、そこはそれ。
 
             アブノーマル3人組のおもちゃになって、短い売り時を逃す気はないんだからね。ち
 
             ゃれんじ精神が明日のあたしを作るのよ。
 
             そっぽを向いた顎を捕らえた畑野さんは、首がひん曲がるんじゃなかろうかという勢
 
             いであたしを再び己と向き合わせる。
 
             「では選ばせてやろう。あれとそれとこれ、どれがいい?」
 
             ぐるりと回した視線で部下を示して、唇を歪めた問いに答えられるわけ無いでしょ!
 
             「ろくに知りもしない人と…いやよ」
 
             合コン始まって小一時間、やっと全員の名前がわかった程度でエッチができるか。
 
             「繭が言っているのはコレと同じだ。それに行きずりの男と一夜を共にするくらい、
 
              気にもかけない女は掃いて捨てるほどいるぞ」
 
             「…畑野さんの知ってる女の人は、あんまり一般的じゃない」
 
             痛い首を取り戻すこともできず、情けない抗議をするといつの間にか周囲を取り巻い
 
             ていた同僚達から悲鳴が上がったところだった。
 
             「ちょっと宮城さん!畑野さんとお知り合いなの?!」
 
             あ、主催者。うちのお局で本人曰く後のない33才緒方さん。
 
             その厚い化粧と、露出の多い服装をなんとかすればお嫁には行けると思われる彼女は、
 
             望みの高さで我が社随一を誇ってる。
 
             当然、畑野さんは魅力的な獲物なんだろうなぁ。
 
             「友達の友達です」
 
             「キス止まりの仲、だな」
 
             ハモったセリフは、都合の良いことに畑野さんの分しか聞こえなかったようで、ため
 
             息やら憶測やら…来週が怖い。
 
             「一度だけじゃない」
 
             半べその抗議にも、未だあたしを解放しない畑野さんは涼しい顔。
 
             「そうか、それなら」
 
             って、またキス?!こここ、公衆の面前!!いえ、問題はそこじゃないわ、吐くわよ
 
             店内で!!
 
             藻掻こうが、暴れようが、がっちりホールドされてるんじゃ逃げようはなく、しかも
 
             ディープキスって本気じゃないの!
 
             照れて、緊張を伴えばいつもより早く襲ってくる嘔吐感。
 
             「おっと」
 
             固まった体にいち早く反応して唇を離したはいいけれど、サド全開の畑野さんは楽し
 
             そうに笑っていた。
 
             …克巳同様楽しんでるわね。人の病気で!
 
             「残念ながら、繭以上に俺の加虐心をそそる女がいないんでな。スケープゴートにな
 
              ってくれ」
 
             囁き込まれて脱力したのは致し方ないわよ。
 
             生け贄はおもちゃより地位が下な気がするんだもん…。
 
             「今日こそ繭を堕としたいんでな、先に失礼する」
 
             今ね、おとすが堕とすに聞こえたの幻聴じゃないから。畑野さんといると、自分が果
 
             てしない闇の中に引きずり込まれそうになるのね、SMの深淵に。
 
             …フツーのお友達が欲しかったなぁ。くすん。
 
             荷物持って、抱え込むようにあたしを引き連れたサドは、万札をテーブルに載せて華
 
             麗に退場よ。
 
             「もう、合コンに誘ってもらえないじゃない〜」
 
             一番人気にお持ち帰りされたんじゃ、ひがまれて辛く当たられるっ!
 
             芝居がかって夜の街でへたり込むと、豪快に笑った畑野さんは知り合いを紹介すると
 
             約束してくれた。
 
             「金持ってるオヤジと、ぐうたらだか一途で若い男、どっちがいい?」
 
             「どっちもいらないっ!」
 
             嫌がらせ?!ちがいないわ!!
 
             「それじゃ俺たちから選ぶんだな」
             
             アブノーマルはいやーっ!!
 
             克巳の店へ向かいながらあたしを慰める(つもりの)畑野さんは、とーっても楽しそ
 
             うな顔してた。
 
             まさか今日来たのも計算なの?
 
 
 
だーくへぶん  だーくのべる  
 
 
           どうしてもキスをしちゃうんだな、この話は(笑)。                
               次はミオ。…どうやってからむんだろう…?   
 
 
 
             
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