18.
 
             「さて、繭」
 
             「覚悟はいーい?」
 
             「…なんのですかーっ?!」
 
             い、今何時?それより2人とももの凄く、お酒くさいんだけど?!
 
             寝込みを襲われるというのは、このことを言うのだろう。確か眠る前は珍しく誰もい
 
             ないことを寂しく思ったのに、あの平和の懐かしさと言ったらもう。
 
             キングサイズのベッドは泥酔した二人に侵略されて逃げるスペースもごく僅か、あた
 
             しの上に乗っかったミオさんと、足下で何故かロープ片手に仁王立ちする畑野さんが
 
             心地いい眠気をぶっ飛ばした。
 
             「克巳ちゃんとばっかり仲良くしたらダメでしょ?ミオさんずーっと繭にプロポーズ
 
              してたじゃない」
 
             「ええっ?!いつ、ですか?」
 
             「一度やったら二度三度、SMの深淵を覗いてみるか?」
 
             「お断りしますっ!!」
 
             2人とも、目が据わってるから。様子がおかしいなんてもんじゃない、ただの妖しい
 
             人になっちゃってるから!
 
             ちょっと克巳!助けてよ!!
 
             頼みの綱の彼はまだお仕事中なのだとわかっているが、現実問題、家に入れる人物は
 
             他にいない。
 
             ミオさんと畑野さんがどこで飲んでたのかは知らないけど、願わくば克巳のところに
 
             顔を出していますように。ついでになんだかわかんない企みを、チラリとでも漏らし
 
             ていますように!
 
             ジリジリと追い込まれつつ、他力本願が悲しいわ。でもね、どうしろってのよ。
 
             理性を飛ばしちゃった酔っぱらい相手に、か弱い乙女(?)は為す術なし、なまじ嫌
 
             いじゃないだけに、過激な抵抗もできないの。
 
             「エッチが全てじゃないと、思うんだけど」
 
             ゆっくりと外されていくボタンに内心冷や汗ものだけど、努めて冷静にミオさんを見
 
             る。
 
             「そうねぇ、でも溢れちゃった愛は危険なのよぅ。ガス抜きしないと暴走しちゃうの」
 
             今、してる!めちゃめちゃ暴走中!!
 
             可愛らしい表情とは裏腹に、裸に剥かれてるんだから冗談事じゃない。
 
             「初心者だしな、軽くいかんと。目隠しに後ろ手拘束でどうだ?」
 
             いやいやいや、全く軽くないから、それ。あたしが初心者以前の病人だって忘れた?
 
             しかーしっ!男2人の腕力に敵う女なんているわけないのよ。神様はね、子供を産む
 
             って人生最大の仕事をできない代わりに男に腕力をあげたんだから。女は、子宮を持
 
             ってるってだけで、出産しようがしまいが勝ち。生まれついて女に負ける男は、いつ
 
             だって力にモノを言わせるしか存在価値がないのよっ!!
 
             ゼイゼイ…悪態つきすぎですって?女尊男卑甚だしい?
 
             呟いた人っ!変わんなさいよ、視界塞がれ手足拘束され、モノのついでに口まで塞が
 
             れちゃってるあたしと変わりなさいっ!!
 
             「んーっ!!んーんーんーっっ!!!」
 
             「ふふふ、残念だわぁ。繭が言ってることちっともわからないから、やめてあげられ
 
              ないの」
 
             充分わかってんじゃない!
 
             「抵抗されると益々やる気に火がつくじゃないか」
 
             嬉しそうに言わないでよっ!
 
             中途半端に五感が残ってる状態って、きついわ。いっそのこと聴覚も触覚も消してく
 
             れれば、じわじわ体を触られる恐怖とか、背筋を這い上がる恐怖の囁きとか聞かずに
 
             済んだのにねぇ〜。
 
             今の現状ですって?説明なんかいらないでしょ、ご想像の通りよ。
 
             素っ裸、目隠し、後ろ手錠、口は…これなに?ボールみたいなの突っ込まれて後頭部
 
             でヒモかなんかが留まってる。
 
             胸にも、えっとアソコにもどっちのだかわからない指が這い回ってて、息つく暇もな
 
             い。…てか吐きそう。
 
             昨夜、克巳と抱き合えたのは彼の忍耐と愛情の賜なの、いきなりSMとかムードもへ
 
             ったくれもなく襲いかかるとかじゃ元の木阿弥。病気再発。
 
             「んんっ、ん・ん・んっ!!」
 
             不快感しか募らないんだと、必死に教えようとするんだけどね、夢中なのか故意に無
 
             視してるのか、2人からの反応は無い。
 
             …あのね、怖い想像してるんだけど口を塞がれたままで吐いたら最悪吐瀉物が気管に
 
             詰まって窒息死、もあると思わない?いやだわ〜刺し傷の次は変死体になって警察の
 
             ご厄介でしょ、両親になんて説明すればいいの。…そうか、死んでるのに言い訳は必
 
             要ないわね。ミオさんと畑野さんがきっちり裁きを受けたらいいのよ。
 
             なんて、余計なコト考えて紛らわすのも限界。ざわざわ産毛を揺らす鳥肌と、こみ上
 
             げる胃液にうっすら涙まで浮いてきた。お見せできなくて、残念。ね、気づいて?
 
             「いー加減になさいな、酔っぱらい共」
 
             間一髪で聞こえてくるのが、やっぱり克巳の声ってお約束?
 
             乗ってた重みとヌルヌル想像したくないモノが引きはがされて、霞む視界にバッチリ
 
             女装した克巳が苦笑してる。
 
             「ま、いきなりこれは無理よね」
 
             忌々しい拘束を一つずつ外しながら、文句垂れる2人を視線で叱って膝に抱えたあた
 
             しにフワリとお布団を掛けて。
 
             「うまくやるようなら、だまって見てようかと思ったんだけどね」
 
             って、なに?それじゃ今まで高見の見物を決め込んでたの、この人でなしっ!
 
             「手加減無しなんだよ?縛られた時点で助けなきゃダメじゃない」
 
             痛む手首をさすさすして睨むのに、すまし顔の彼は畑野さんとアイコンタクトして噴
 
             き出した。
 
             「だから、言ったじゃないの。この子相手じゃ何やっても刺激が強すぎよって」
 
             「の、ようだな。読みが甘かった」
 
             ちょっと、ちょっと、ちょっとー、失礼じゃないない、明らかに人ネタに笑うなんて、
 
             ミオさんまで一緒になってどういうコト?
 
             「繭、アレは手加減だらけのソフトSMっていうの。畑野にはお遊びよ」
 
             にっこり微笑んだミオさんの説明に絶句。
 
             あなたの知らない世界だわ…。
 
             呆然とするあたしの回りに、いつの間にか真面目な顔して集まった面々が代わる代わ
 
             るキスを落とすのさえ、上の空になるくらい。
 
             高校生あたりから学び始める知識が徹底的に欠けてるのよね、今更エッチ初心者なん
 
             だもの。
 
             「ん…」
 
             深く舌を絡めた畑野さんと抱き合えば、背後の克巳が耳朶を甘噛みして愛を囁いて、
 
             ミオさんの繊細な指が胸を嬲る。
 
             そうして4人一緒に絡みながら、キスも愛撫も誰が誰を愛しているのかわからないく
 
             らい混乱して。
 
             「好きよ」
 
             「愛してる」
 
             「好き…」
 
             「もっと」
 
             囁きが重なることはないけれど、想いはいつだって一つ。
 
             バラバラに生まれたあたし達は、小さな欠片を寄せ集めて、暖かな夜を過ごす。
 
 
 
              読了、お疲れ様〜。
              どう締めたらいいのかわからなくて、随分お待たせしました。
              墜ちてんだか墜ちてないんだかわからない最終回ですが、終わり。
              この先はあるとすればSSとかかな。結局みんなでやっちゃうだけですから(笑)。
              子供とか生まれたら楽しそうだよね〜。
              以上、想いの欠片でしたっ!
 
だーくへぶん    
 
 
           
             
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