9.

『立派なお式だったわね』
両親、親戚縁者、会社の同僚に囲まれた畑野さんとのお式は、そんな風に評された。
お客として出席していた克己とミオさんも、これで格好はついたなって笑ってたし、畑野さんなんか訳のわからない女に 追い回される心配がなくなったと、あからさまにホッとしているっていう、式と言うよりまるで儀式。
で、その翌日が、実は本番なの。
ガーデンパーティーを催すには絶好の晴天の下、各々希望の衣装を纏った私たちを祝福してくれるのは、お店の常連さんと 仲間、友人達。
「相変わらずキレイね、マスター。男にしとくのがもったいないくらいよ」
「ふふふ、ありがとう。でも、残念ながら女の子になりたいとは思わないのよ」
ペチコート無しの純白ドレスとベールって女子が憧れる姿で優雅に笑った克己は、身長のせいでまるでショーモデルの如き 美しさ。常連さんと談笑しながらも、あたしが主役オーラがバリバリ出てるのよね。
「ミオ姉さん、夢を叶えたのねっ」
「そうなの!和装も似合うでしょ、あたし」
駆けつけてくれたお店の後輩とキャーキャーやってるミオさんは、憧れだったんだそうな白無垢でご登場。せっかく淑やかに 見える和服だって言うのに、ぴょんぴょん跳びはねてはしゃいだんじゃ台無しだって事は気付いてないみたい。
「……代わり映えしないのね」
「表だってわかる性癖じゃないんでな」
最後の畑野さんは形式張ったタキシードから、デザイン性の高いマオカラーのブラックフォーマルに変えたんだけど、前日と 大差ないって皆さんからは不評みたい。あたしは膝丈のジャケットとか格好いいと思うんだけどね。ほら、学生服の長いヤツ みたいでストイックじゃない?…中身はともかく。
なのにだめ出しって、まさかとは思うけどSM指向があるってだけで、どっかのお笑い芸人みたいな格好を期待してたわけ じゃないわよね?確かにあれでムチとか持つとウケそうだけど、畑野さんの革短パンとか見たくないんだけど…。
「それで、繭はどうしてそんなものを着てるわけ?」
想像しちゃってげーっとなってたところに落ちてくる顔なじみさんの声に、詰まっちゃった。
そう、私は結婚式に臨む花嫁(・・)にあるまじき姿でここに立ってる のよ。聞いて驚いてね?男装させられてるの!
『だって、あたしと克己ちゃんがこの格好したら、エスコート役がいないじゃないの』
衣装を合わせる段になって、当然でしょっと笑ったのはミオさんだったわ…。
そりゃあ楽しそうに、うきうきしながら畑野さんとデザインが同じ色違いのスーツを見つけてきて、これ着なさいって。
事情を知ってる貸衣装屋さんだったけど、さすがに店員さんは呆然としてたわね。
一生に一度の祭典で、男装する女って…その横で男の克己がドレスを試着してんだからもう、結婚式を神聖視してる人に はり倒されても文句は言えないって気分だったわよ。っていうか、今現在進行形でそんな気分。
「バージンロードを女同士で歩いても様にならないから、だって…」
どっちがどっちと腕組んで入場するんだか知らないけど、つまり今日の私はミオさんと克己の添え物、引き立て役なのです。
輝いてる2人をちろんと横目で見ながら説明すると、深い吐息と共に、
「ガンバレ」
励まされちゃったじゃない…もう。


緑の芝に引かれた純白の布の上を、克己と腕を組んでゆっくり進む。
その隣を同じように、畑野さんと腕を組んだミオさんが進んできて、大勢の招待客の中心に用意された背の高いテーブルを囲む ように私たちは集った。
日本の神様も外国の神様も、残念ながら4人で結婚とか、ニューハーフとか、サドはともかく女装癖の男だとか、こういったも のに狭量なのだ。ミオさんはチャペルが良いとか神社が良いとか最後までごねてたけど、結局一緒に式を挙げようと思ったら 人前式って方法が一番だって事で落ち着いたの。
場所は何処であろうと、愛を誓うことに変わりはないんだしね。
個性的な友人達に祝福され、常連さんが作ってくれた4人分名前が書ける結婚宣誓書に厳かにサインして、お式事態は終了。
そこからはもう、どんちゃん騒ぎで誰彼となく笑って、飲んで酔って………。
「えっと…?」
正気付いたら裸でベッドにいる非常事態。
結婚したんだから、別におかしくないだろうって?そりゃ、2人ならね。でも、ベッドに4人のっかてたら、変じゃない! 驚くじゃない!
「あら、目が覚めちゃったの?」
くすくす笑いながら息苦しくなるほどのキスをくれたのは、ミオさん。
「念入りに酔い潰したつもりだったんだがな」
酸欠気味の耳に届いた不吉な途切れがちな声は、畑野さん。
…なんで彼の呼吸が荒いのかとか、聞かないで。ついでにミオさんが喘いでるわけも。
「子供作るならどっちの子か分からないのがいいから、ロシアンルーレットしようってミオが言い出してな」
世間話の口調でいいながら、克己が抱えたのは私の腰。そのまま、その、なんの準備もナシに進入は、あのっ!
「あんっ」
だけど予想に反して抵抗もなく、漏れるのは卑猥な水音で。
「意識がない間に充分堪能させて貰った。繭も無意識でいい声出してたぞ」
倒れ込んできた克己に説明されても、はいそうですかと納得する気にはなれない。
取りあえず、取りあえず私、状況を整理しようよ!
ここは…部屋。自宅の私の部屋。キングサイズのベッドって本当に4人寝られるんだとか、現実逃避してる場合じゃなく、 いつここにたどり着いたのかは全く覚えてない。
ならば、最後の記憶はどの辺なのか。
『おいし〜これ〜』
ああ、陽気にはしゃぐ自分が見える…。あれ、なんてカクテルだったんだろう。綺麗なルビーレッドで、フルーティーで、 甘くて、飲みやすくて…うっかりがぶ飲みしてたような…その辺りから記憶が飛んでるような…。
「わ、たし、お酒…っ」
うっかり気を抜くと攫われそうな快感に逆らって、縋るように見上げた克己はニヤリと笑う。
それはキレイに、彼得意の人を食った顔で。
「あれ、エンジェル・フェイスって、カクテルだ。甘口なんだが、うっかり飲み過ぎると、こうなる」
そんなの、体感したくなかった…って言っても、後の祭りよね。すっかり、只中なんだから。
「ひ、どっ」
「あんっ、あたしの親切、なのよぅっ」
無慈悲に揺すられていて、どこが親切なのかはさっぱりだけど、捻った首でキスできそうに近いミオさんを見やると恍惚と 教えてくれるの。
「克己とした後、畑野とすぐなんて、できないでしょ?だから、ね?」
ねって…知らなきゃいいってものでも、ないような…今、ばれちゃってるし、隣で致してるのもばっちり、見えちゃって るし。もう、迫力ありすぎで、どうしたのものか…。
「トラウマ思い出して、きついか?」
ムチでびしばししちゃう人のくせに、一番神経の細やかな畑野さんは心配そうに聞いてくる。
トラウマ…誠と五月の…あれは、生々しくて、気分が悪くなるいやらしさだったけど。
「平、気」
ミオさんと畑野さんは、淫靡で困る。
汗だくで絡み合ってるって言うのにキレイで、映画のようで。
「ふふ…繭、あなた自分が今どんな顔しているか、わかる?」
軽く唇を合わせたミオさんの表情に、ずくりと下腹部が脈打ち、痺れ始めていた頭の芯がより一層麻痺していくのが分かる。
きっと、私、すごくエッチな顔してるんだろう。理性は徐々に削られて、真相を知ってしまった今、思考は粗方飛んでしま った。
だって、もう、気を散らすものがないんだもの。後は、快感に溺れるだけでしょ?
「だな。そろそろこっちに本気になってくれても、いいだろ」
私の気持ちの変化を感じ取ったように、唇の端だけで笑った克己が動きを早めて、何も考えられなくなって。
「あっ、あっ」
「ほう、俺とやるより良い声で鳴くんじゃないか?」
「ったりめーだろ。お前の同類じゃないんだ、ノーマルなセックスの方が感じるさ」
「あらん、鳴き声ならあたしが抱く時が一番よ。やっぱり女同士、だもの」
だから卑猥なこんな会話も聞かぬフリで上り詰めることが、できたのだ。
「やっ、いくぅ…っ」
「ん、ああ、一緒に」
体の中で弾ける克己と、荒い息の中囁かれる声と。
「可愛い赤ん坊、産もうな」
そう、セックスって本当の目的は、そうなのよね…でも。
「繭、こっちに来い。次は俺だ」
か、体、持つかな…?


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