8.

何が意外って、普通であることが最も意外。
…なんておかしな日本語…。
「さすがにそれは失礼だろ」
バスルームから出てきた克己は、良く拭いていない髪からぽたぽた水を垂らして苦笑したけど、事実は事実。
「だって、畑野さんの御両親なのにめちゃめちゃ普通で善人にしか見えないんだよ?お兄さんもお姉さんもちゃんと結婚 して子供とかいちゃうし、どう見てもダンナさんや奥さんに首輪とかついてないし」
ああ、不思議っ!
昨夜に引き続き親族への挨拶回り、イン’畑野家を実行したあたしは昨日とは別の意味で興奮してるの。
大きな一軒家を二世帯住宅にして同居してる御両親とお兄さん夫婦、そんで嫁いだお姉さん夫婦と総出で歓迎をしてくれ たのだけど、みんなすっごくノーマル。親子仲も夫婦仲も健全かつ良好そうでね、明らかに出来が悪いだろうあたしなんか にも親切で恐縮しちゃうほどで、もしやご家族揃って畑野さん並に外面がいいのかと尋ねたら、問答無用で叩かれた。 ついでに『明後日、俺と寝る夜は腹をくくるんだな』と、ひどく艶っぽい声で宣言される始末。
うう、恐いわ。最近、手錠とかロープとか良くわかんない道具とか、よろしくない物体でよろしくない扱いされる機会が やたら増えてきてるのよ。3人に言わせると序の口にもなっちゃいない行為、だそうだけどなにぶん頭でっかち経験皆無 のあたしには、刺激が強すぎてねぇ…。
「その分じゃ畑野に余計なこと言って、脅されたな」
急に黙り込んで青やら赤やらになってる私をくすくす笑う克己は、ドライヤーの温風に煽られながらガンバレ〜なんて 無責任な応援をくれる。
頑張っちゃまずいから悩んでるのに、気楽なモノよね。畑野さんは必死で我慢するとか、唇噛みしめて耐えるって仕草に めっぽう弱いんだもん。彼の9割方を占めている加虐心がそういったM性に刺激されちゃうんだって。
だから、やる気をなくすようなこと言ってさりげなくSM回避を狙いたいんだけど。
「うん…きっと、わけもわかんないうちに縛られたりしちゃうのよ、また…」
どう足掻いてもそんな方法見つかるわけないもの、諦めるわ。結局、気持ちいいんだし。
キングサイズに馴れちゃうと些か狭く感じるダブルベッドに倒れ込んで、認めざる得ない事実に溜息を零してみたりする。
ただ想像でしかなかったセックスの快感は、体験してみるといろんな意味で強烈なのよ。
水彩画の克己と、油絵の畑野さんと、リトグラフなミオさんと。個性的な人格に合わせた個性的な営み。
どれもこれも知らない世界だし、どれもこれもイヤじゃない無節操な私は一番過激な畑野さんとのエッチさえ、ええ 、好きなのよ。
ああ、そうよ、そうですよ。誰とするのも気持ちよくって、大好きよ!すぐに流されちゃう、ダメな女なのよ〜。
「お前、なにやってんの」
あっちへころり、こっちへころり。枕を抱えて身もだえているところをスプリングを軋ませて座った克己に捕獲される。
「…だって、なんだかんだと私、畑野さんにいじめられるのが好きみたいなのね…」
スウェットの膝に頬をすりつけ変態でしょ?っと同意を取れば、思いっきりイヤな顔されちゃった。
「4人で付き合おうって考え事態がアブノーマルだろ。そこに同性愛が入ろうがSM要素がプラスされようが、 どこか変わるのか?」
「…それも、そう…んっ…」
下手の考えを封じるよう唇も封じて、じっとり舌を絡めてきた克己は根こそぎ思考を刈り取る勢いで。髪を潜った指先 に体が震える。パジャマのボタンを器用に外す指が、快楽をやんわり開いていく。
「畑野より…俺とやる方がいいって、教えてやるよ」
ニヤリと笑った彼がすっかり、そっちモードなのに仕方がないと諦めた。
旅先で疲れているのにどうしていたそうとか、思うのかしら。やっぱりちょっと開放的な気分になってるから?
オレンジが強いホテル特有の明かりに目を細めながら、神経質なまでに糊のきいたシーツと特有のリネンの香りが新たな 記憶を書き込んでいくのを感じる。
これまで外泊はワクワクする子供の好奇心に直結していたのに、今日から淫らな記憶に接続し直されるのね。
畑野さんと深夜までゆるゆる快感を貪った記憶。克己に意外な強引さで引き込まれた記憶。明日は、ミオさん?
「…ふーん、そうか」
無邪気じゃいられないものだと、すっかり裸に剥かれた私が飲み込んだタイミングで、蠢いていた克己の髪がピタリと 止まる。
不穏な呟きとすがめた瞳は、なにやら腹に一物ありそうよ。
「えっと、なにが?」
ああ、こんな風に上の空だったことを過去何度怒られたかしら、なんて。気づかなきゃいいのにこんな時ほど気づくのね、 彼が不機嫌だって。
「昨夜の繭はいつになく乱れて大変だったと畑野が自慢してたんだが、お前が夢中で抱き合えるのは奴1人ってことか」
流れる間もなく冷や汗が凍り付くそんな気分、って言ったら的確なんじゃないかしら、私の心情表現として。
「いじめられるの、好きなんだもんな?」
ぐっと近づいた顔が、鼻先触れるんじゃないかしらってところで問う、答えようのない質問。
さっき、言っちゃったものね、自分で。今更否定できないし、しようとも思わないけど、だからって克己とする優しい エッチが嫌いな訳じゃない。
「それはそれ、これはこれ。個性が重要じゃない、ね?」
お腹に馬乗りになられちゃってるもんだから逃げようはなく、重い訳じゃないから身の危険を感じなければ、このまま でいるのは全然オッケーなんだけど、ね。
「へぇ、俺の個性ってなんだよ」
こう、高圧的に来られたらそりゃ、逃げ腰になるってものよ。自分は真っ裸なのに相手は下半身スウェットのままっていう のも、現在の上下関係がはっきりわかっちゃうっていうか、私思いっきり勝ち目ナシって感じっていうか。
「克己は痛いことしないし、意地悪も言わないし、キス気持ちいいし…」
動揺しているおかげで子供みたいに端からあげつらう片言な口調だけど、信じてって一生懸命見つめて、
「そうか」
全くご理解頂けてない表情を返された日には、涙が浮かんじゃうわ。
冷然と微笑んだまま顎を強く摘んだ克己が落とす、強引なキス。
切れるほど唇を押しつけて、強引に歯列を割るときつく舌を吸い上げる。抵抗なんて許されないのは口内も体も一緒で、 忙しなく動く右手は胸の頂きをまさぐり、左手と下半身とで抵抗を封じるとは、紳士な行いを旨とする克己らしからぬ 振る舞いじゃないの。
「ひどく扱われる方が、いいのか?」
「ひっ、あぅんっ!」
首筋を吸い上げ痛みを残しながら、胸をきつく握り込むのに、知らず淫靡な悲鳴が上がった。
「抵抗を封じられるのが、好き?」
「…っ」
手首をひとまとめにねじり上げられて、喉の奥、息が止まる。
「濡れてるな…お前が答えなくても、体が答える」
くちゅり、イヤらしい水音で、逆に頭が冴えた。
畑野さんとしてるんだもの、痛みの次に来る快感を期待して体が準備するのは当然でしょ。だけど、克己とこんな風に したいんじゃない。そりゃあ、そうして欲しいといわれたら喜んで頷くけど、今のこれはそうじゃない。柄にもなく 人を真似たやり方をするなんて、好きじゃないわ。
「克己とするのに、こんなのはイヤ」
ふるふる首を振って、手は自由にならないから指先だけで開放を要求する。
「ちゃんと抱きしめさせて、肌と肌、いっぱい触れ合いたいの。お願い」
変則的でない克己とのやり方は、ひどく古風で一番オーソドックスで、だから一番気持ちいい。
これは、内緒なんだけど、ね。
「いっぱいキスしていっぱい抱き合って、すごく愛されてるって実感する克己とのエッチが好き。これが、個性なの。 変わったことなんてしない、普通がいいの」
「それなら、違うことを考えるな」
自由を返してくれるのと同時に、克己は前置きもなく進入してくる。
「あっ!やんっ」
強く首に巻き付くと顔中にキスを浴びせながら、きつく抱きしめてくれて。
「あっ、あっ、あっ!」
「きちんと、俺だけ、感じてろ」
何度も強く揺さぶられて、あられもなく声を上げながら誓うの。
もう絶対、考え事はしないわ。だって、身の危険を感じるもの!!


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