21.「しっかりしてください」花&薫
 
       「なあ、デートしないか?」
 
       「え?」
 
       ようやく寝付いた秋を眺めながら、薫さんがぽつりと言う。
 
       無謀な希望。出来ない約束。誰よりも、わかっているくせに。
 
       「無茶言わないで。どこに行ってもファンに見つかっちゃうわよ。それに秋もいるから、無
 
        理」
 
       一緒にいられるようになって、まだ半年足らず。
 
       そんな普通の恋人同士みたいな事はできないって身にしみてる。
 
       日本中に顔が、声が溢れる旦那様と一緒にいるって言うのはこういうこと。
 
       寂しいけど、覚悟くらいしていたもの。
 
       「日本じゃなきゃ、大丈夫だ。花の好きなトコ、どこでも連れてってやるよ。ハネムーンに
 
        行こうぜ」
 
       家族にだけ見せる蒼い眼が、痺れる甘さで私を縛る。
 
       頷いてしまいたい。どこへでも、貴方となら。
 
       「そうね。秋も連れて?」
 
       「ああ、ベビーシッターを雇えばいい」
 
       夢みたいね。ヨーロッパのお城の中を、薫さんと二人手をつないで歩く夢。
 
       でも、知ってるから。
 
       「お仕事に詰まったからって、逃げちゃダメよ。さ、頑張って、お部屋に戻って」
 
       「は〜な〜」
 
       情けない顔して縋っても、助けてなんて上げないわ。
 
       ね、早く片づけて今の夢を叶えて。
 
       ずっとずっと、私待ってるから。
 
 
 
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